ビョークが「目に涙が溜まる」「傑作」と言って、アノーニに新作についてインタビュー。今年後半が始まって早速高評価の『My Back Was A Bridge For You To Cross』。

ビョークが「目に涙が溜まる」「傑作」と言って、アノーニに新作についてインタビュー。今年後半が始まって早速高評価の『My Back Was A Bridge For You To Cross』。 - pic by ANOHNI WITH NOMI RUIZ C. REBIS MUSIC 2023pic by ANOHNI WITH NOMI RUIZ C. REBIS MUSIC 2023

今年前半のベストアルバムについてはご紹介したばかりだけど、
https://rockinon.com/blog/nakamura/206715

7月から今年後半が始まって発売されたアノーニ&ジョンソンズの7年ぶり(*ソロからは7年、ジョンソンズとの作品では13年)の新作『My Back Was A Bridge For You To Cross』が早速高評価だ。
https://anohni.bandcamp.com/album/my-back-was-a-bridge-for-you-to-cross-2

いつも辛口なピッチフォークも、すでに今年の4位に当たる高得点を付けている。
https://www.albumoftheyear.org/ratings/1-pitchfork-highest-rated/2023/1


「13年ぶりにバンドを復活させて新作を作ったアノーニは、この不安な時代に気丈なアルバムを完成させ、破壊される地球を悲しむ安全な場所を提供してくれた。この作品は、”この世のものとは思えない”とよく形容される彼女の声を再びこの地球にもたらしてくれたのだ」

ガーディアン紙も5つ星。「このアルバムは、その重さを軽やかにまといながら、聴く人の心に即入り込んでくる」。ガーディアン紙はもう1人違うライターが書いていて、そちらは4つ星だった。

“It Must Change”(マーヴィン・ゲイに影響されたファースト・シングル)

●ローリー・アンダーソン
NYタイムズでは長年の友人であるローリー・アンダーソンが、「彼女は苦痛なくらい正直」なところが素晴らしくて、「崩壊するものを最前で描きながら、聴く人を身悶えさせ、感じさせる。核心がすぐに突ける人なのだ」と語る。

ビョーク
さらに同様に長年の友人であり、アノーニが尊敬するビョークが、インタビュー誌で彼女にインタビューしている。
今作を「傑作」と語り、「聴いている間中、目に涙が溜まる」とも。「しっかりと質問を作って来たから、答える準備はできてる?」と言ってインタビューを行なっている。

ビョークが一番好きな曲”There Wasn’t Enough”。
地球の視点から歌われているのが好きで、聴きながら涙が止まらなかったと。

またさすが同業者なので、いかにこれまでとは違う、自由で開放感のあるボーカルが実現したのかに最も大きな関心を抱いて訊いている。
そしてビョークがこのアルバムが素晴らしいと思う理由は、

「シンガーソングライターとして重要なのは、いかにしてそれぞれのアルバムで違うキャラクターになれるのかということだと思う。そしてこのアルバムにおけるあなたのキャラクターは、地球を破壊しているという意味では、我々全員が共犯者なのだから、みんなで救済しなくてはいけない、ということをあまりに美しく体現していることだと思う。

どちらが悪くて正しいというような白黒2つに分断した考え方は、もう不可能だと思うから。私はそれを#metooムーブメントの後に思った。抑圧者と抑圧される側の両方の視点が見えてないといけないし、自分がより曖昧な立場であることを許さないといけない。なぜなら時に解決策を見出す方法は、私たち全員がつまるところ同じシステムの中にいて、全員が変わらなくてはいけないのだと理解することにあると思うから」

「私はそれについて”Atopos”で描こうとしたのだけど、本当に世界を救いたいと思い、あまりに文字通りラジカルになってしまうと、他の人との繋がりを断絶してしまう。でも私たちは究極的には全員同じなのだと思うということ。あなたはアルバムのテーマをどう思っていたの?」


アノーニはこう答えている。

「アメリカでは、オバマ大統領退任後に物事が激化した。でも、自分も結局は共犯者なのだと認めるにあたり、自らを許し、慈悲の心を持ち、人を励ますような雰囲気がある方が、良いと思った。そこで絶望したり、誰かのせいにしたり、誰かを非難することは生産的ではないから。それが私の中での発展だった」

ビョーク

「それをここ数日このアルバムを聴いて感じたから、目に涙が溜まり続けていたのだと思う」

その他、2人は、ソウルミュージックについて、地球温暖化について、ルー・リードについて、ジョニ・ミッチェルケイト・ブッシュなどについても語っている。

◎面白いのが、”Sliver of Ice”についてビョークは、「これはウィスキーがインスピレーションだったの?」と思い切りラジカルな解釈をしていること。

この歌詞は、
「もうすぐいなくなる私」が、
「氷のかけらを舌にのせて」
「なんて美味しいんだろう」
「生まれて初めてそう感じた」
と始まる曲だ。

それは実は、彼女とルー・リードが亡くなる前に交わした会話にインスパイアされた歌詞だ。
つまり、ビョークの解釈とはむしろ真逆とも言える。
でもそれがさすがビョークだなと感心した。

ロッキング・オンの8月号に掲載されたインタビューでも、
ルー・リードについて、オーティス・レディングについても語ってくれているので、ぜひ読んでください。

最後に、ロッキング・オンの記事の中には入らなかった番外編。

アルバムのサウンドとインスピレーションとなった人々についてをご紹介。

ちなみに、彼女のデビュー時よりステージに立っていたジュリアさんとその奥さんのエリカ・ヤスダさんは、2人とも日本人で彼女に大きな影響を与えている。”It Must Change"のジャケットにエリカさんの奥さんだったジュリアさんが映っている。エリカさんの撮った写真のネガをアノーニが全て持っていて、現像したらあまりに美しいパラダイスのような写真だったので、日本で展覧会ができないだろうか?とも語っていた。

ビョークが「目に涙が溜まる」「傑作」と言って、アノーニに新作についてインタビュー。今年後半が始まって早速高評価の『My Back Was A Bridge For You To Cross』。

●様々なジャンルの影響力を感じるサウンドが詰まっていることについて。

「この作品は、私のメロディへのアプローチの仕方への集積のようなものだと思う。

それから今回は、ギターサウンドのアルバムにしたいというのは決めていた。自分の中で、今回はピアノのレコードにはしたくないと思っていたから。ギターベースのレコードにしたかった。だからそれがまずひとつの目標を設置したと思うし、それからアメリカンソウルミュージックに影響を受けたソウルミュージックの要素を入れたいと思っていた。だけど、私に独自の作曲スタイルがあるから、そうしようとしても、ちょっと風変わりなものになると思っていたし、私のリズムへのアプローチも独自だと思うから、結果的には、すぐに違う世界観も広がったと思う。でもそれに逆らうことなくやり続けてみた。それで結果的には、アルバムの始まりと終わりの曲は、中でも最もソウルベースな曲になったし、かと思えばよりフォーク寄りの曲もできたし、またはアバンギャルドな感じのする曲もできた。それから中には、ほとんどロックソングって曲もある。それって変ではあるけど。でもどの曲もこういうジャンルの曲にしようと言って作り始めたわけではなくて(笑)、ただ曲を作り始めての結果だった。だからその時インスピレーションが沸いたものや、こういう方向性に行きたいと思えたものを作っていったということだった。彼(ジミー・ホーガス/プロデューサー)がギターで何か弾いてくれて、私がそれに何か感じるものがあれば曲になったという感じだった」

●しかもけっこうすぐにできてしまったのですよね?

「セッションは数週間で、数回やっただけだった。実は私はレコーディングしたいと思っていた曲が何曲もあったんだけど、それを最初にレコーディングした後に、結局新たに作った曲がこのレコードには収録された」

ビョークが「目に涙が溜まる」「傑作」と言って、アノーニに新作についてインタビュー。今年後半が始まって早速高評価の『My Back Was A Bridge For You To Cross』。

●アルバムのジャケットには、ゲイの権利のアクティビストであるMarsha P. Johnson、”It Must Change”のMVにはあなたのヒーローであるMunroe Bergdorf、そのジャケットには日本人のErika Yasudaさんが撮った”Julia with Rose”という写真が使われています。あなたの友人や活動家がインスピレーションとなっていますが、それぞれの人たちがこのアルバムにどのような影響を与えたと思いますか?

「アルバムのタイトルに一番大きく影響しているけど、私は自分と、自分に色々なことを教えてくれた人達、育ててくれた人達、形成してくれた人達を切り離して考えていない。私が抱えて前進していくものは、その他の様々な人たちから集積した知識だと思っている。その他のシンガーや、アーティストや、その他の都市に住む友人達など。その人たちみんなの声が私を通してここで表現されていると思っている。だから私は”オリジナリティ”は信じてなくて、それは概念でしかないし、どちらにしても私はそれには興味がない。私は全ての人のおかげで自分が形成されていると思っているから。それに、そもそも母の体の中で作られたわけだし。母の体の中で、精神的にも、心理的にも、社会的にも、作られたと思っているから。私の前に存在した人達のおかげで自分は存在すると思っているし、私にこまれで関わってきてくれた人達のおかげで自分はここにいると思っている。

それで、ジュリアは、私の人生においてもすごく大きな存在だった。彼女の妻だったエリカは、東京に住むカメラマンで、アンダーグラウンドのアーティストで、女優だった。彼女とジュリアは出会った時、ジュリアは東京の大学の数学の教授だった。エリカと出会い2人の想像の世界の中で、パラダイスを作り上げた。エリカはカメラマンで、ジュリアの写真を撮り、2人共通の友達が緑魔子というアンダーグラウンドの女優だった。エリカはその2人を一緒に写真に撮ったりして、本当に本当に本当に美しい写真を撮っていた。だけどエリカは80年代半ばにまだ30代にして、癌で突然なくなってしまった。それでジュリアは日本を去ってNYに引っ越しをした。というのも、彼女は、大学から退職と言われてしまったから。彼女は、インターセックスで、彼女はフェミニンだった。それから彼女は集合論の数学者でもあったのだけど、彼女の恩師が亡くなり、彼女を守ってくれる人がいなくなってしまって、大学は彼女を研究員にしてしまった。それで、彼女の妻が亡くなり、彼女の恩師だった教授が亡くなり、彼女は職を失ってしまったから、東京を去ってNYに来たの。

それで私が90年代初期に彼女に出会ったの。彼女は体の移行もして、私のショーのスターとなった。

ジュリアは数年前に亡くなったのだけど、彼女の妻が撮ったジュリアの写真のネガを全部私が持っていて、それをプリントしてみたら、パラダイスが広がるような写真だった。フェミニンのパラダイスみたいな世界が広がっていた。そこはサステイナビリティがあり、内面的な一体感のあるような場所で。ジュリアはエリカのミューズだったけど、ここに広がるのはエリカのビジョンであると分かった。

だけど、エリカが本当は誰なのか誰も知らないの。私は彼女の誕生日すら見つけられなかった。それに私は、血縁関係じゃないから、彼女の出生届を見ることもできない。彼女に血縁関係者がいるのかどうかも分からない。だから本でエリカの写真を発表したけど、彼女の誕生日すら記載できなかった」


「彼女が撮った写真はあるのに、彼女の履歴も分からないし、分かっているのは、ジュリアの家族が覚えていることだけ。彼女は80年代に亡くなってしまったわけだし。

私は今オランダで展覧会をしていていて、彼女が撮ったジュリアの写真を12点展示しているのだけど、私が写真にベールをかけて展示しているの。シルクのベールを付けていて、そのベールの中には、エリカが撮ったジュリアの美しいポートレートがある。それは、これまで一度もプリントもされたことがない写真だった。ジュリアがスライドで持っていたもの」


●なるほど。インスタで今ポストされているのはその展覧会なのですね。本当に美しいですよね。

「本当に美しいから、日本で誰かが、彼女についてリサーチしてくれて、彼女が誰だったのかを調べてくれたら良いのにと思う。そしたら私も彼女についてもっと分かる。彼女の人生と歴史が分かる。彼女は知られていないアーティストだけど、でもエリカ・ヤスダは重要なアーティストだと思う。彼女の写真を大野一雄と慶人の家族にも見せた。私は、最後に日本に行った時に、ジュリアに会っているの。ジュリアは、亡くなる1年前に日本に行ったから。2017年のクリスマスに、私は大野慶人(と一雄の映像)とパフォーマンスをしたから。慶人は亡くなってしまったけど、彼らも、エリカの作品に興味を持ってくれた。本当に魔法のような作品だし、すごく重要なビジョンだと思う。こういうことを何年も後になってやったアーティストはいると思うけど。エリカのジュリアを捉えたビジョンや2人で築き上げた世界観は、他には例がないと思うから」

とても長くなってしまいましたが、最新作ぜひ聴いてください。

女優のハンター・シェイファーが監督したMV”Why Am I Alive Now?”

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