フィニアスに、日本のメディアで初の対面取材が実現。GovBall レポートその4(特別編)

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いつまで続くんだというNYフェス、ガバナーズ・ボールのレポートですが、これが最後です。

なんと、フェスに出演したフィニアスに対面取材をする機会に恵まれたのだ。しかも恐らく、日本のメディアで取材を受けるのはこれが初ということ。感謝しかない(涙)。

フェスの出演直前に、それでなくても全く時間がないのに、わざわざ時間を作ってくれた。なので最初から5分しかないと言われていたのだけど、まさか取材させてもらえるなどとは思ってもみなかったので、5分でもあまりにありがたかった。

今回初めて会ったフィニアスは、ステージや、普段のインタビュー、ソーシャルメディアから受ける印象と100%変わらない。アーティストとして才能があるだけじゃなくて、作ったところがまるでなくリアルで、人間的にも本当に素晴らしい。短い時間の中で、いくつかの取材を次々にこなしていたけど、その中にしっかりと選挙投票の登録をするHeadcount.orgという彼が日頃からサポートしている団体も入っていたのがさすがだった。

訊きたいことは山のようにあったけど、5分なので、3問だけ、近況を話してもらうという感じではあるけど、貴重な彼の生の声だ。

●ソロのデビュー作『Optimist』を(2021年10月に)発売して以来、しばらく経ちますよね。あなたは当然プロデューサーとしても活躍していますが、この作品では、あなたがどれだけ豊かな才能の持ち主なのか改めて確認できるような内容になっていると思います。全体としては非常にミニマルなサウンドとして統一させながらも、実際は、非常に幅広いサウンドやプロダクションを試す挑戦をしています。また、歌詞でも、地球温暖化から、孤独、不安、恋愛と傷心、キャンセルカルチャー、メンタルヘルス、また、そんな中で何を人生において何が大事なのか、などについて現代の若者が抱える不安について、非常に鮮明かつ深く描かれていて、何よりその中で、あなたのファルセットが非常に美しく響く素晴らしい作品だと思います。あなたが目指した事は何だったのかと今時間が経過して、それが実際にどう実現されていたのか、本作をどう思うか教えてもらえますか?

フィニアスに、日本のメディアで初の対面取材が実現。GovBall レポートその4(特別編)

「そんな風に言ってくれて本当にありがとう。そうだね。アルバムが発売されたのは、10月だから、数年経つよね。今もすごく満足しているんだ。すごく自分勝手かもしれないけど、今聴いてもすごく良いサウンドだと思えるからね。変えたい箇所も全然ないし、すごく誇りに思っている。こういうことって発売して真新しい時は新鮮で分からないものだよね。でも、数年経った今も、本当に誇りに思えるんだ。

それで、サウンドに関して言えば、アルバムを作った時は、もともとシンプルなサウンドが好きだから、シンプルなサウンドにすることを目標にしながらも、いかにプロダクションにおいては面白いことができるのかに挑戦してみたんだ。それから、より幅広いサウンドを目指した作品だった。だから、A地点からB地点に向かうにあたり、より曲りくねった道を行くような作品になったと思う。インタールードもあるし、”Hurt Locker”から”Around My Neck”までより幅広い曲が入っていると思うんだ」


「歌詞は、より物語性があるようなものにしたかった。それから、アルバムに込めたメッセージに関しても、アルバム発売以来現時点で世界が変わったようには思えないからね。ただ、聴いた人が、『自分も全く同じことを思う』と思ってくれるような曲があれば嬉しい。自分はリスナーとして、そういう曲に最も共感するからね。このアルバムは『Optimist』(楽観主義者)というタイトルだけど、僕は決して楽観主義者じゃないんだ。完全に悲観主義者だ。でも努力をして楽観主義者になる価値はあると思う。どんなに悪いことが起きていてもね。だってそうしなかったら、単に絶望的になって、何をやっても無駄だ、何もかもうまくいかない、って思うしかないからね。だから結果最悪で終わることになっても、その過程で、少なくとも努力することには意味があると思うんだ」


(”What They’ll Say About Us”では未来への希望を抱くことについて描いている)

●現在ツアーを行っているわけですが、ライブでは、その後に発表されたシングル2曲も演奏していますよね。その2曲は、アルバムとは打って変わって、ガールフレンドについて歌ったり、サウンド的にもメッセージ的にもよりポップなものになっています。ここから先あなたの作品としては、何が期待できますか? ソロアルバムが間もなく出るのか、ビリー・アイリッシュのアルバムが出るのか?

「今、新曲は書いているところなんだけど、今のところは、このシングル2曲はこの後に出る自分のアルバムに収録はしないと思うよ」


●そうなんですか?

「そう。アルバムとアルバムの間に独立したシングルを出すのが好きだからね。それはビリーの作品でもやったけど、ファーストとセカンドアルバムの間に、”Everything I Wanted”を出したよね。そんな感じで、アルバムとアルバムのリリースの間にシングルを出すのがすごく好きなんだ。それって食事の間に生姜を食べるみたいなものでさ。一度口直しをすると楽しいからね。今、新作を作っているところではあるんだけど、でもその2曲はアルバムには入らないと思うんだ」

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●なるほど。楽しみです。あなたは、ツイート上で「地球が死んだら、音楽は鳴らない」とピンしていますし、

また本作でも、地球温暖化の問題や、企業への批判をかなり明確に歌っています。
(”The Kids Are All Dying"では、地球温暖化、銃乱射、資本主義社会などについて言及。
”The 90s”では、90年代には未来は輝いて見えていたはずだけど、今は残りの時間をカウントダウンしているようと歌う。)

●新作を観客の前でパフォーマンスしていかがですか? このフェスの直前にカナダからの山火事の影響で、フェスができないかもという状況でもあったわけですが。

「いや、本当に。クレイジーだよね。それについて訊いてくれて興味深いなあと思うんだけど、というのも、2023年はとりわけ、そういうことが多くてさ。例えば、今年の初ライブは、ニュージーランドの予定だったんだけど、クレイジーな豪雨に見舞われて、空港も洪水になって、フェスティバルがキャンセルになったんだ。真夏だったのにね。それで、ビリーとそこから南米に行って、そのツアーは終えたんだけど。その後、メキシコに行ったら今度は、クレイジーな鉄砲水に襲われて、ビリーのライブを急遽キャンセルしなくちゃいけなかった。野外のライブだったからね。(*その時すでに集まった5万人のファンのために、2人がアコースティックで5曲パフォーマンスした映像は鳥肌もの)

それで今回は、煙のせいで野外にいるのは危険だから、直前まで屋内にいなくちゃいけなかったというわけで。だから今年は、地球温暖化が起きているのは明らかで、それがいかに現実なのかってことを行く場所行く場所で、実感させれるような年になっているんだ。まあ、それ以前にも、普通にツアーしている時から感じていたことなんだけどね。行く場所ごとに、『ここではこれが史上最低気温なんです』とか、『ここではこれが史上最高気温なんです』って言われることが多いからね」

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●あなたとしてはそういう中で実現したライブだからこそ、思い切り楽しんでくれ、という気持ちでステージに立っているのか、またはライブが終わった後に、何か感じてくれたら嬉しいと思っているのかどちらですか?

「うん、それは良い質問だね。僕は、もうみんなが分かり切っているだろうことを敢えて力説して説教みたくなるのはあまり好きではないんだ。だから僕のアルバムが好きで、僕がアルバムで歌っていることも好きで、ライブに行きたいとまで思って来てくれたなら、彼らが恐らく完璧に理解してくれるているんだと思うから、それをまるで分かってくれていないかのようなことはしたくないんだ。そういうことが言いたい時は、より幅広い人達が見ているようなインタビューで語ったり、またはオンラインでポストしたりね。ツイートで何かをポストする時は、自分のフォロワーのみじゃなくて、他の人達も見ているだろうと思うからね。だからオンラインではむしろ積極的にそういう問題を語ろうとしている。

というのも、自分一人で解決できる問題には限りがある。すでに僕はアルバムの中でそういうことを語っているわけだから。それを聴いて、わざわざライブにまで足を運んでくれた人に向かって、またそれを叫ぶっていうのは、無礼だとすら思うんだ(笑)。政府がどうとか、石油会社や巨大石油産業がどうとかって叫んだりするのはね。それに自分が大金持ちで、大きな影響力を持つ人ではない限り、もちろん、自分一人でできることもすごくたくさんあるけど、でもいざ問題を解決したいと思ったら自分はなんて力がないんだろう、地味なことをやっているんだろう、と思ってしまうものだからね。企業国家アメリカやその他の企業国が、あまりに環境を破壊しているからね。だから自分が努力してやっているちっぽけな変化も、政府がやっていることや命令していることに一掃されてしまうって思ってしまうと思うんだよね。

それに正直に言って、僕はツアーすること自体にも懸念している。多くの人たちが飛行機に乗り世界中を移動するわけだからね。バスでツアーするにしても、決して地球環境に良いとは言えない。そんな中で、僕らは可能な限り地球環境に良い方法でツアーをしようとはしている。とりわけ今終わったばかりのビリーの『ハピアー・ザン・エヴァー』アリーナツアーでは、どうすれば地球環境に良いのかをものすごくものすごく考えて行った。プライベートジェットにはほとんど乗らないのもその方が地球環境に良いからだ。それでも、やはり地球環境には悪いわけだよね。つまり、そこまでしてやるライブなわけだから、いかにして誰にとっても最高の経験となるようなものにできるのか、という疑問には自然と行き着くわけで、それに対する回答を常に探しているということなんだ」

(“Only a Lifetime” では時間は限られているんだからそれを無駄にするなと歌う。地球温暖化を訴えるイベントのライブでは「地球温暖化について語っているだけではダメなんだ。行動することが必要だ」と語っている。
”Love Is Pain”はフィニアスの個人的な恋愛とその苦痛について。)
インタビューが終わって時計を見たら5分は少し過ぎていたけど、このインタビューが終わってなんと30分後には、すでにフィニアスはステージに立っていた。独自のバンドを従えて、よりロックスター的なフィニアスが全面に出たライブになっていたのが何より印象的だった。アルバムではよりミニマルなサウンドで構成された作品も、むしろ、最新のシングルのポップなプロダクションに合わせた野外コンサート向けのサウンドで会場をエンターテインし続けた。

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そんな中で、アコギを抱えたり、ピアノに向かったり、エレキギターを弾いたり、エレクトリックになったり、ダンスサウンドになったり、あまりに美しいファルセットを響かせたり、尋常ではない才能を披露していた。フィニアスは、まだ25歳だが、どんな楽器でもパフォーマンスでももう長年やり続けている熟練のプロデューサーのように簡単にこなしてしまうので、みんな当たり前のように思ってしまうけど、この破格な才能はもっと評価されるべきだと改めて思った。このフェスでは、ポップでありながらも親密である彼独自の空間を作り出し、遠くまで響き渡るサウンドに魅了されて、観客も果てしなく増え続けた。

ちなみに、アルバムの最初を飾る”A Concert Six Month From Now”は、

「大好きなバンドがツアーを再開した
秋にハリウッドボウルでライブするんだ
すでにチケットは2枚買ってある
だから僕はオプティミストなんだと思う」

と始まる。正に、ロックダウンが終わってライブが再開したことについて歌っているのだと思っていたら、この曲は、ロックダウンのずっと前に書かれた曲だった。大好きなバンド、フリート・フォクシーズが久しぶりにツアーを再開し、当時付き合い始めた今のガールフレンドと6ヶ月先にあるコンサートのチケットを、それまで2人の関係が続くと思って買った自分が「オプティミスト」だと歌っているのだ。偶然だがロックダウンにも当てはまる予言のような曲。

それについても訊きたかったし、2021年に一番好きな映画は、ホアキン・フェニックス主演、マイク・ミルズ監督の『カモン カモン』だとソーシャルメディアで書いていて素晴らしい映画なのでそれについても訊きたかったし、何より彼が数年前に「アメリカに数多くある問題の中でも、銃規制は解決できる問題だと思うから、それができないことに苛立ちを覚える」という発言をしていて、それが彼について多くを語っているなと思った。アメリカにある様々な問題について常に考えているばかりか、いかにしたらそれらが解決できるのかも真剣に考えている証拠。そういうことも訊きたかったけど、またの機会に!

今回はありがとうございました。



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