日経ライブレポート 「ボストン」

果たして武道館2回公演に、どれだけの人が来るのか正直不安だった。70年代に全世界で何千万枚というセールスを誇ったバンドではあるが、昨年11年ぶりに発売されたアルバムは往年のセールスとは比較にならない数字だし、来日公演も35年ぶりである。しかし武道館は2階の最上段まで人で埋まり、ほぼ満員であった。その9割近くは50代以上の男性。日本の洋楽黄金時代を支えた親父たちだ。

既にアメリカ本国で60回以上のステージを行って来たツアーなので、ショーとしての完成度は高く、ファンならば誰もが楽しめる内容だった。代表曲「モア・ザン・フィーリング」や全米1位のヒット曲「アマンダ」はその曲にふさわしい演出と、ていねいなパフォーマンスで聴かせてくれたし、新曲もほどほどのバランスに留め、あくまでも昔のボストンを聴きたいファンに親切な構成に徹していた。

MIT出身、ポラロイドのエンジニアからミュージシャンへ転身したユニークなキャリアを持つトム・ショルツの、実質的なソロ・プロジェクトがボストンだ。アルバムのクレジットに「ノー・コンピューター」といつも書いているのは有名な話だが、あくまでもアナログなギター・サウンドにこだわりながら、スペイシーで未来的な音作りを目指して来た。その姿勢は現在も変わらず、ライヴにおいても個々のプレイヤーの優れた技量によってCDの緻密な音を再現してみせた。逆にだからこそ2014年でもリアルなものとして、武道館を満員にした親父たちの心を動かしたのだろう。遠目ではあるが、トム・ショルツの老けていないルックスが嬉しかった。

9日、日本武道館。
(2014年10月21日 日本経済新聞夕刊掲載)
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