日経ライブレポート「ローリン・ヒル」

ステージから放射されるエネルギーに圧倒される2時間だった。

人気グループ・フージーズからソロとして独立し、最初に発表したソロ・アルバムが全世界で1200万枚のセールスを記録した。グラミー賞11部門にノミネートされ、そのうち5部門を受賞という、女性アーティストとしては初の快挙も成しとげた。まさに現代を代表する女性アーティストといえる。と同時に、波乱多き人生を歩む女性でもある。同棲中に別の男性の子供を出産したり、2013年には脱税の罪で3カ月服役したり、レコード・リリースも困難な状態になったり、常に厳しい状況と闘ってきた。

これまでの彼女のステージはそんなワイルドなキャラクターを反映して、とにかく開演時間が1時間以上押したり、ステージ上でアレンジの打ち合わせが行われたり、なかなかユニークなスタイルだった。ところが今回は違っていた。

前座のDJの1時間のプレイは少し長かったが、彼女がステージに登場してからの流れはとてもタイトで洗練されていた。そしてパフォーマンスがとてもポジティヴなグルーヴに貫かれていることが印象的だった。ソロの代表曲やフージーズのナンバー、そしてお約束のボブ・マーリーのカバーから、シャーデーのカバーも2曲披露してくれた。それを圧倒的な歌唱力と、圧倒的なエネルギーで展開するステージにお客さんは熱く反応していた。

その時々の人生の状態がそのままステージに現れるアーティストだと思う。今、彼女がポジティヴで充実した人生を送っていることがとてもリアルに伝わって来る素晴らしいライヴだった。

10月27日、Zepp Tokyo。

(2016年11月9日 日本経済新聞夕刊掲載)
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