日経ライブレポート「リナ・サワヤマ」

洋楽を中心に評論活動をしてきて約50年、そんな僕にとって歴史的ともいえるコンサートだった。説明が難しいのだが、海外で成功した日本人アーティストが日本においても成功するということはこれまであまりなかった。例えばミツキという日本人女性アーティストは、世界的に成功し、高い人気を誇っている。しかし日本での知名度は低く、日本でのコンサートもライブハウス規模だ。日本では彼女はあくまでマニアックな洋楽アーティストなのだ。リナ・サワヤマも英国で成功し、評価も人気も高く、ミツキと同じように歌詞も全て英語の、ある意味、洋楽アーティストだ。しかし彼女は日本で高い人気を獲得し、この日は6000人以上を動員し、アリーナをほぼ満杯にした。

デビュー当初はエッジの立ったインディー・ロックな作風で、これはこれで高い評価を得ていた。それが最新作ではメジャーでポップなスタイルに変わり、ライブもセクシーで攻撃的な演出に転換した。それが成功し、活動の拠点である英国で人気がブレイクした。その変化の理由が、より自分のメッセージを多くの人に伝えたい、というものだったのも実に彼女らしい。

日本での人気に火が点いたのは去年のサマーソニックでのステージだった。海外のビッグネームのアーティストと同じような圧倒的なパフォーマンスを展開する女性が日本人であることの驚き、日本の音楽ファンにとってそれは一種のカルチャー・ショックだった。この日もスタジアム級のエネルギーを感じさせる演奏、メッセージと人柄の伝わる日本語のMC、日本での人気拡大を確信させるライヴだった。

1月20日、東京ガーデンシアター。
(2023年2月2日 日本経済新聞夕刊掲載)
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