日経ライブレポート 「ヤー・ヤー・ヤーズ」

初来日ライヴの時、いきなり女性ヴォーカルのカレンOが、四つんばいで這ってステージに現れた印象は鮮烈だった。ちなみにその時の衣装はミニスカートだった。デヴュー当時はベースなしで、ギターとドラムとヴォーカルだけのユニークなスタイルが、ニューヨークの先鋭的なロック・バンドというイメージであった。ある意味、異端な存在ともいえた。しかし、ヴォーカリストとしてのカレンも、ギタリストとしてのニックも豊かな才能と高い技量を持ったミュージシャンで、本来的にはその音楽的な質の高さで評価されるようなバンドである。その本来的なバンドの魅力が十分に発揮されたアルバムが昨年発表された「イッツ・ブリッツ!」である。アメリカ、イギリスのあらゆるメディアのベスト・アルバムを総なめしたこのアルバムは、21世紀におけるヤー・ヤー・ヤーズの立ち位置をとてもクリアに指し示すものであった。それは時代の中心を担う、王道のロック・バンドとしてのヤー・ヤー・ヤーズという事だ。
 
今回もカレンOはマイクを口に喰わえたまま歌ってみせたり、床にころがってみたりしたが、そこには異端の臭いはなかった。むしろ今のロック・シーンを代表する女性ヴォーカリストとしての堂々のパフォーマンスという感じだった。

ヤー・ヤー・ヤーズはその異端としてのスタイルは変えず、そこに本来的な音楽的力量による作品の充実を実現する事によって現在のトップ・バンドとしての地位を獲得したのである。一種の凱旋公演のような趣きさえある素晴らしいパフォーマンスだった。

1月16日 品川ステラボール
(2010年2月2日 日本経済新聞夕刊掲載)
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