ピンク・フロイド、実に不思議なバンドだ。最初の中心人物が精神のバランスを崩して脱退したあと、80年代には次なるメイン・ソングライター、ロジャーまで脱けてしまった。どんな体制になっても、また各自のソロも全部それなりに良い。ロジャーがいたころのバンド作は、すべて素晴らしい。そして彼が精魂を込め(すぎ)た79年の『ザ・ウォール』は(本国で)わずか1週間前に出たPiL『メタル・ボックス』に勝るとも劣らない、あの時期のUKロックの傑作と今も思っている。
これは、92年作の高音質盤。言葉が勝りがちになってしまうロジャーのソロ作のなか、今のところ最高傑作。「家にいる人の気持ちをやわらげるため、戦争の模様がエンターテインメントとして伝えられる。そこに興味をそそられてきた。湾岸戦争がこのアイディアの背中を押した。テレビはいいものなのか悪いものなのか、このアルバムはそんな問題を扱っている」。なんとも今っぽいテーマではないか。極上のロック・オペラ。そして91年『ラヴレス』発表直後のマイ・ブラッディ・ヴァレンタインケヴィンに取材したとき、彼も似たような発言をしていたことを思いだす。(伊藤英嗣)