新たな驚きをもたらすことで、ポップミュージックは進化し続けてきたわけだが、今日のポップミュージックは、すでに「驚きのカラクリ」を学習し、血肉化している。例えばロックは、時代時代の硬直化したポップミュージックに驚きのインパクトを加えることで成立していたのだけれども、今やアイドルポップでさえ「驚きのカラクリ」を知っているクリエイターたちが作品を手掛けているということだ。星野源は、独創性溢れる豊かなバンドサウンドを完成させることで、大きな支持を獲得した。“恋”の大ヒットはちょうどそのタイミングだったと言えるだろう。そして“アイデア”のとき、彼は「星野源のサウンド」を解体する過程を1曲の中で描いた。それまでにシングルのカップリング曲でひっそりと花を咲かせていたビートミュージックの作風を持ち込み、大胆に「星野源のサウンド」を再構築した。このアルバムでは、そのすべてが、歌心を増幅させるエレメントとして鳴っている。「驚きのカラクリ」はもはやポップミュージックの一要素ではなく、すべてである。鼓膜も筋組織もハートも震える喜びを知れ。（小池宏和）