成長することの痛みと悲しみ

アレッシア・カーラ『ペインズ・オブ・グローイング』
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ALBUM
アレッシア・カーラ ペインズ・オブ・グローイング

アレッシアをほかの若手アーティストと差別化しているのは、彼女の歌と言葉のオーセンティシティではないかと思う。それは、エド・シーラン的な“素”という意味でのオーセンティシティとは少々違う。露出度ゼロのジャケット写真が物語る通り、同じく外見を飾らない人ではあるが、アレッシアの場合はより本質的な話であって、ファンタジーに逃げたり、苦いものを甘くコーティングしたりもしない。だからこのセカンドは、グラミー新人賞を彼女にもたらしたファースト『ノウ・イット・オール』がそうだったように、一切フィルターなしの自画像。テーマもタイトルに堂々と掲げている。成長に伴う痛み、だ。

カナダの小さな町で生まれ育ち、19歳の時に発表した前作でブレイクしたアレッシアは、この間に20代に突入。絶好のスタートを切ったものの環境の変化に戸惑い、孤独なツアー生活に手こずり、かつ大失恋も重なって四苦八苦する姿は、“若い=楽しい”という図式を打ち消す。そう、世界的ヒットを博したアンチ・パーティー・ソング“ヒア”が象徴した、『ノウ・イット・オール』の不遜なティーンエイジャーの自信はここにはない。人生経験を積めば、無知であることの幸福は失われ、無邪気に信じていたこともあっさり裏切られるわけで、彼女は早くも子供時代を懐かしんでいる。かといって、“頑張ろう”と安易に訴えるのではなく、逆に痛みを甘受して“強がる必要はない”と主張しているところが、なんともアレッシアらしい。

よって、ヘタをすれば気が滅入りそうなアルバムなのだが、言葉の重みを和らげているのは、レイドバックし、空間をたっぷり含んだプロダクションだ。そこで存分に羽を伸ばす彼女の美声は、深い苦悩は永遠には続かないと仄めかしている。(新谷洋子)



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アレッシア・カーラ『ペインズ・オブ・グローイング』のディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』2月号に掲載中です。
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アレッシア・カーラ ペインズ・オブ・グローイング - 『rockin'on』2019年2月号『rockin'on』2019年2月号
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