恋に恋する女性が本当の恋をした――。少々陳腐な映画のキャッチコピーみたいだが、まさにその解答がここにある。フィフス・ハーモニー脱退後、前作『カミラ』で華々しく独り立ちしたキューバン・アメリカン・シンガーのセカンドは、人生初めての真剣な恋愛の一部始終の記録。引き続きフランク・デュークスをメイン・コラボレーターに起用し、フィニアスやマットマン&ロビンも交えて、ひとつのテーマに沿ったアルバムらしいアルバムを完成させている。
そもそもカミラは、ラテン系に加えてロック寄りの音を好み、アコギ片手に歌う姿を想像できるようなソングライティングで、すでに独自色を確立しているが、想像に頼ってラブ・ソングを書いていたという前作との差は歴然。恋愛のあらゆるステージに苦悩し、或いは高揚する姿を言葉も歌声も生々しく伝え、ハイとロウの間を激しく揺れ続けている。
特に、ハイな瞬間に聴かせるファルセット混じりのドリーミーな表現は、『カミラ』になかった新鮮な要素だが、あの“ハバナ”で証明した哀感との相性の良さこそ、やっぱり彼女の最大の武器。切なさを破壊力に変えてひとつの恋にケリをつけるカミラは、新たに始まった恋にも触れている。そう、目下進行中のショーン・メンデスとの恋に。ふたりの共演曲“セニョリータ”は彼のサードの新装版にも収録されているけど、ここにあるほうが、音楽的にも文脈の上でも馴染むのは当然だろう。
そしてラストを飾るのは、父親に「いい人と出会ったの」と報告する“ファースト・マン”。これまた映画風のハッピー・エンドと受け止めるか、恋人は去ろうとも、いつも必ず自分のそばにいてくれる大切な男性に敬意を表して、恋の儚さを嘆いていると解釈するか。どっちにも読めるアルバムである。(新谷洋子)
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