リアルと感傷の狭間で躍動する

ムラ・マサ『R.Y.C』
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ALBUM
ムラ・マサ R.Y.C

リリースから約1ヶ月がたち、既に各所で評判を得ている最新アルバム。クレイロやジョージア、ウルフ・アリスのエリー、スロウタイなど豪華なゲスト陣。ジャンルを横断した音作りはデビュー作『ムラ・マサ』が示した通りだが、とりわけ今作を特徴づけているのが、全編でフィーチャーされたギター・サウンド。タイトなビートにスロウタイの粗野なラップが映える“ディール・ウィヴ・イット”は、シェイムら近年の英国ポスト・パンクに慣れた耳にも鋭く突き刺さるのではないか。クレイロが歌う“アイ・ドント・シンク~”では、NYパンクの雄テレヴィジョンの曲がサンプリングされている。

今作同様、ネイオやチャーリーXCXエイサップ・ロッキー、さらにはデーモン・アルバーンなど多彩な顔ぶれが参加した前作『ムラ・マサ』。グライムやソウル、トラップ、エレクトロ、アンビエント……と様々なスタイルや文脈がダブステップ~ベース以降のマナーでミクスト・アップされたそれは、当時のUKクラブ・シーンの熱気をコンパイルし、引いては10年代のポップ・ミュージックと地続きの縮図でもあった。一方、ライブではギターや生のドラムを擁したセットも披露する彼のルーツにあるのは、過去にパンク/ハードコア・バンドで演奏を重ねてきた原体験。そうした「バンド・サウンド」への志向とは、いわゆるプロデューサー型ながら、ジェイムス・ブレイクディスクロージャーよりもジェイミーxxとの共振性を窺わせる彼の特質でもあるのだろう。

その点でいえば、今作の醍醐味をよりストレートに味わえるのはむしろ「ソロ」曲の方かもしれない。本アルバムの制作中、トーキング・ヘッズキュアーなどを聴いていたという本人。なかでも“ノー・ホープ~”や“ヴァイケリアス・リヴィング~”は(リズムこそクオンタイズされているが)インディ・ロック的な躍動感にあふれ、前者はポスタル・サーヴィスを連想させる歌心もあり瑞々しい。

ギターはアコースティックな音色も使われていて幅広く、ドラムも手癖感を残したプレイを随所に聴くことができる。テルザを迎えたメロウなR&B“トゥデイ”は、今作のパンク的な側面と対極をなすハイライトの一つだ。今の英国で暮らす若者のリアルが歌われたリリックの反面、タイトル(「Raw Youth Collage」の略)が意味するように自身の記憶やノスタルジアがちりばめられたパーソナルなコンセプト。そうしたサウンド面も含めたコントラストが今作を魅力的に演出していて、ムラ・マサのアーティスト性が押し広げられたアルバムといえるだろう。 (天井潤之介)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』3月号に掲載中です。
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ムラ・マサ R.Y.C - 『rockin'on』2020年3月号『rockin'on』2020年3月号
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