さらけ出す自信

リアム・ギャラガー『アコースティック・セッションズ』
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ALBUM
リアム・ギャラガー アコースティック・セッションズ

昨年8月、リアム・ギャラガーは『MTVアンプラグド』の収録を行った。ちなみに、オアシスも過去に一度だけアンプラグドに出演している。オアシスがセールス的最盛期にあった96年のことで、US市場で大きな影響力を持つアンプラグドへの出演は、世界一のロック・バンドの称号にリーチをかけていた彼らにとって絶好のチャンスだった。しかし、リアムは喉の不調で出演をドタキャン、急遽ノエルが歌ったそのレアなパフォーマンスがむしろ絶賛されてしまうというなんとも皮肉な結果に。そんな最悪のトラウマを、23年後の彼がついに克服できたという意味でも昨年のアンプラグドは感慨深いステージだった。リアムが自分の声に絶対の自信を持てなければ、アンプラグドで成功を収めることはできなかったはずだ。徹底した自己管理と地道なトレーニングによって再び圧巻の声量と高音域の美しい伸びを奪還した『ホワイ・ミー?ホワイ・ノット』期のリアムだからこそ、それは可能だったのだ。

本作はそんなアンプラグドの成功を受けて企画されたアコースティック・セッション。ソロとして初のライブ盤がアコースティック音源になったというのも象徴的だ。現在のリアムは数万人の前で無敵のロックンロール・シンガーとして立つ一方で、こうして飾り気のない剥き出しの歌声をそっと一人一人に届けることもできるし、満を持してやってみたかったのだろう。シンガーとしての自信の回復とソングライターとしての自我の確立が、このシンプルの極地のシチュエーションを、必然として彼に選ばせたということなのかもしれない。“ナウ・ザット・アイヴ・ファウンド・ユー”やソロ期屈指の名曲“ワンス”で聴かせる繊細なファルセットは、46歳の円熟と若々しい張りを兼ね備えているし、フェミニンな甘さすら感じさせる現在の彼のボーカルは、“メドウ”のアシッド・フォークにも、驚くほどしっくりくる。リアムの通常のライブでソロ曲とオアシス曲が並列しているように、今回も“キャスト・ノー・シャドウ”、“サッド・ソング”、“スタンド・バイ・ミー”と₃曲のオアシス曲を演っている。“サッド・ソング”はご存知ノエルのボーカル曲。初期のオアシスのツアーからノエルのアコースティック・ソロ・セットの定番となっていた曲で、こうして見事な意趣返し、オーケストラを控えめに纏った余裕綽々のリアム・バージョンとなっている。今夏にはレディング・フェスやTRNSMTのヘッドライナーを筆頭に、ロックンロール・シンガーとして立つ大舞台が続々と控えているリアム。彼にとってもファンにとっても、大充実の日々が続くのだ。 (粉川しの)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』4月号に掲載中です。
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リアム・ギャラガー アコースティック・セッションズ - 『rockin'on』2020年4月号『rockin'on』2020年4月号
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