川の流れのように

ジ・オーブ『アボリション・オブ・ザ・ロイヤル・ファミリア』
発売中
ALBUM

英国アンビエント・ハウスの巨匠、アレックス・パターソン率いるジ・オーブの17枚目のアルバムである。前作までパートナーだったトーマス・フェルマンは今作には参加していないようだ。その代わり、前作『ノー・サウンズ・アー・アウト・オブ・バウンズ』(2018年)や、ピンク・フロイドの『永遠』にも参加していた英国人プロデューサー、マイケル・レンダールが全面的に加わっている。

アルバムとしては『ノー・サウンズ~』と対になる作品ということで、いわゆる「阿片戦争」を引き起こした「イギリス東インド会社」への英国王室の支持に対して「遡及的に抗議した」ものである、と説明されている。またキリング・ジョークのユースやブライアン・イーノの弟ロジャー、システム7のスティーヴ・ヒレッジといったお馴染みのゲストも多数。アレックスによればトーマスはこうした多数のミュージシャンとのコラボ制作態勢を嫌ったということだが、つまりこれは常に新しい刺激とアイデアでバンドをプログレスしていくことをアレックスは忘れていないということだろう。

さまざまなSE、電子音、生楽器、サンプルされた声ネタや音ネタ(アルバムのテーマに関係してくる)を柔らかくレイヤーした、ゆったりと流れるアンビエント・ミュージックを堂々と展開。ダンス・ビートからドローン、ミュージック・コンクレートからジャジーなインスト・バラード、レゲエ/ダブまで、多彩なサウンド・スタイルはアレックスのキャリアとコラボレーターたちの英知の賜だ。奥行きのある立体的な音像が、信じられないほど美しく広がりのある風景を作り出している。

トレンドだのシーンの状況だの時代背景など関係のない悠久の大河のような作品。いつまでも浸っていたい。 (小野島大)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』4月号に掲載中です。
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『rockin'on』2020年4月号