想いを具体的な言葉で相手に伝えた瞬間に、「言い足りない何かが零れ落ちてしまった……」と感じたことはないだろうか？ 3月に行われた「SCHOOL OF LOCK! キズナ感謝祭」のために制作された“あなたへ”は、言語表現につきまとうこのモヤモヤと向き合っている。感情を完璧には表現しきれない部分にコミュニケーションの機微も生まれる「言葉」を効果的に用いながら、「身近な人への感謝」を描写している様が印象的な曲だ。たとえば、一般的には「愛」に該当するのだと思われる概念を《正体不明な「　　　（あいつ）》とするなど、抽象的な表現を重ねながら、言葉では捉えきれないものの気配を醸し出している様が目を引く。そして、終盤に差し掛かるにつれて、エモーショナルさを増していく演奏、歌の狭間でふと現れるシンプルな5文字《ありがとう》が、とても爽快なのだ。とことん理詰めのアプローチを試みた末のストレートな言葉、音に宿る生々しさが示されている様は、BLUE ENCOUNTの魅力を揺るぎなく支えているソングライティングの切れ味、演奏の描写力の高さも再確認させてくれる。（田中大）

『ROCKIN'ON JAPAN』2020年7月号より