めでたくデビュー10周年を迎え、配信ライブも行った
星野源。それに先行して6月19日にデジタルシングルとしてリリースされ、ミュージックビデオも公開された新曲が、この“折り合い”だ。そもそもは、バナナマン・日村勇紀の誕生日のタイミングにラジオ番組の放送で新曲としてお披露目された。ただ素朴で風通しの良い楽曲に受け止められるかもしれないが、カリブのスティールバンドが奏でるようなトロピカルな曲調に現代的なトラップビートを掛け合わせ、見事なラップまで織り込んでみせるという、星野源の豊かな音楽経験値がDTM制作を通してたっぷりと注ぎ込まれている。何気ない日常の人間関係を綴った歌詞は、ステイホーム生活を描いたMV(石橋静河が出演)ではまた一味違った響き方をしている。思えば、折り合いという言葉はとても日本人的だ。「折れる」自体は破壊や譲歩のイメージなのに、「折り合い」は平和的で、本作のアートワークのように芸術性を感じさせる。孤独に音楽を作っても、ステイホームでも、星野源の歌は常に折り合いを意識しているから、多くの人の胸に響くのだろう。(小池宏和)
『ROCKIN'ON JAPAN』2020年9月号より