渦巻く激情を未来のために吐き出す、という行為

フィーバー333『ローング・ジェネレーション』
発売中
EP
フィーバー333 ローング・ジェネレーション

昨年3月の来日公演のステージ上、フィーバー333のフロントマンであるジェイソン・エイロン・バトラーは「自分のためじゃなく未来のためにベターなチョイスを!」と客席に呼び掛けていた。取材時にその件について問うと、彼は、父親になったことで自分のすべてが変わり、常に未来のことを考えるようになったと穏やかな表情で語っていたものだ。

未来に繋げていくということは、すなわち目の前にある問題をどうにかしなければならないということでもある。今回、配信のみでリリースされたこのEPは、まさしく2020年でなければ生まれ得なかったものだ。新型コロナ禍の終わりが見えずライブ活動がままならないなか、すべてのエネルギーを創作面に集中させながら、ブルース・スプリングスティーンからザ・ストラッツに至るまでが短期間のうちにアルバム制作を行なってきたが、彼らも例外ではない。ただ、動機がもっと具体的で露骨だ。ジェイソンは「これまで34年間生きてきた自分が、あの日以降に体験してきた13日間」がこの作品の根源にあると語る。“あの日”とは、5月25日のことを指す。ミネアポリスでアフリカ系米国人のジョージ・フロイドの生涯が警察官の手により断たれる結果となった、あの痛ましい事件の起きた日のことだ。同事件がどのような世の動きに繋がったかについては言うまでもないが、ジェイソンはその後、ロサンゼルス地区での抗議運動に参加。しかもその最前線で活動するために13日間にわたりストリートで生活し、14日目に本作の制作を始めたのだという。

ジェイソンは今作について説明するなかで「アクティビズムとしてのアート」という言葉を使っている。改めて彼個人について検索してみると、それこそWikipediaにも「米国人ミュージシャンでありポリティカル・アクティビスト」という記述がみられる。黒人の父親、白人の母親の間に生まれた彼が、幼少時からまわりの子供たちよりも精神的に早熟だったのは、学友たちにしばしば「何故きみのお母さんは白人なのにお父さんはそうじゃないの?」と問われ、自分が多数派に溶け込みにくいことを自覚していたことの影響もあるようだ。ちなみに彼が生まれ育ったのは、ロサンゼルス国際空港界隈の治安の悪い地域として知られるイングルウッド地区である。

今起きていることを訴え、これから起こすべきことを提案する。音楽家であると同時に活動家である彼にとってのそうしたスタンスは、なにも今になって急に生まれたものではなく、これまでの作品にもたくさんの問題提起が詰まっていた。それでも従来の楽曲には、一緒に声を合わせたくなるようなわかりやすいメロディが必ずどこかに組み込まれていたものだし、彼自身、メロディという要素をメッセージ伝達の上で有効な道具だと捉えていることを認めていたものだ。が、今作では激情を伴った言葉がいっそう剥き出しになっているという印象だ。具体的に言うなら、終盤の2曲を除き、完全にハードコア・ラップ寄りになっている。ただ、それでもリフはむしろキャッチーなままだし、溜め込まれた激情をぶちまけているようでありながらも、彼がある種の冷静さを失うことなく、伝えるべきことを確実に伝えるために、言葉を研ぎ澄ませ、機能的に組み立てていることがわかる。

表題に掲げられた“間違った世代”という言葉は、抗議活動中にジェイソンが目にしたという「おまえたちは間違った世代に喧嘩を売った」というプラカードの文句に触発されたものだという。つまり「この世代は黙っちゃいないぞ」ということなのだろう。また、この表題曲においては、最近ではマシン・ガン・ケリーの成功劇の立役者ともなったトラヴィス・バーカー(ブリンク182)のソロ楽曲である“キャリー・イット”がサンプリング使用されている。結果的に同楽曲に参加しているトム・モレロのギターがこの曲を彩ることになったというのも興味深い。

もうひとつ耳を引くのは、最後に収められている“Supremacy”のなかで、ブロンディの1981年のヒット曲、“ラプチュアー”が引用されている点だ。これまで幾度もカバーされてきたこのナンバーには、ラップをフィーチャーした楽曲として史上初の全米No.1ヒットになったもの、という歴史もある。

正直、観衆をひとつに束ねるようなコーラス・パートが失われているのは少しばかり残念ではある。しかし本作には、それを上回る激情が渦巻いている。それを極力時差のない状態で届けようとした彼らの姿勢には敬意を表したいし、2020年を生きた人間のひとりとして、未来のために忘れてはならないものがここに詰まっていることを意識しながら聴きたいものだ。(増田勇一)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』12月号に掲載中です。
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フィーバー333 ローング・ジェネレーション - 『rockin'on』2020年12月号『rockin'on』2020年12月号
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