映像素材は一切コンパイルされていないとはいえ、CD/DVDオーディオ/Blu-rayオーディオ総計26 ディスク(!)に及ぶ『ザ・コンプリート1969レコーディングス』。制作時のセッションや別テイク、当時のライブ・パフォーマンス、5.1ch サラウンド・ミックス、さらにスティーヴン・ウイルソンによる2020年最新版ドルビー・アトモス・ミックスなど、『クリムゾン・キングの宮殿』に関する音源の数々をコンパイルした今作は、ロックの革新性と謎に満ちた「1969年のクリムゾン」に全方位から迫った、まさに究極のコレクション・ボックスだ。
ロバート・フリップ/グレッグ・レイク/イアン・マクドナルド/マイケル・ジャイルズ/ピート・シンフィールドの5人は、いかにして“エピタフ”や“21世紀のスキッツォイド・マン”、“クリムゾン・キングの宮殿”などのマスターピースを生み出し、文学性と批評性とドラマチックなカタルシスのバランスをロックの座標の中に結晶させるに至ったのか――。レコーディング時のテイクのひとつひとつを追っていくだけでも、メンバーが己のプレイを研ぎ澄ませ黄金律の誕生に迫っていくスリルが生々しく体感できるし、『宮殿』の直後から続く「混乱こそ我が墓碑銘」を体現するようなバンド史に思いを馳せながら聴くことで、「1969年のクリムゾン」がロック太古の伝説でも人知を超えた神話でもなく、生身の表現者の探究心と創造性が生み出した刹那の現実であり奇跡である─という命題がくっきりと浮かび上がってくる。同梱された前身バンド=ジャイルズ、ジャイルズ&フリップの音源も含め、マグマの如く形を変えるロック・バンドと音楽のリアルが、今作の隅々にまでみなぎっている。(高橋智樹)
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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』2月号に掲載中です。
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