楽しさの中に一抹の寂しさが含まれていたり、悲しみと恍惚が実は地続きだったりもする「感情」の複雑さを、いつもとても丁寧に描いているのがBase Ball Bearの音楽だ。本作を聴くと、そういう魅力を再確認せずにはいられない。まず、“SYUUU”は、激しく降り始めたと思ったらやんでしまう通り雨＝驟雨のイメージと重なる。ドラマチックな展開の果てにあっさりと幕切れとなる全体像が、楽しさ、切なさ、悲しみなどがごちゃまぜのまま怒涛の勢いで押し寄せて、唐突に終わってしまう青春の残像のようなものを体感させてくれる仕上がりだ。そして、メランコリック且つ温かい“ドライブ”は、閉塞感に苛まれて疲弊していくばかりの時間を経て、ゆっくりと蘇っていく魂の姿が、耳を傾けていると思い浮かぶ。この2曲の印象を端的に言い表すならば「骨太なのに瑞々しい」といった感じだろうか。熱量と抒情性が絶妙に融合しているバンドサウンドだ。今年の11月に結成20周年を迎える彼らだが、踊っているうちに涙腺が緩むという不思議な現象も時折引き起こしてくれる独特な作風は、引き続き進化を重ねている。（田中大）

『ROCKIN'ON JAPAN』5月号より