2019年12月に配信されたアリアナ・グランデ初のライブ・アルバムが、ファンの要望を受けCD2枚組でリリースされる運びに。本作は2018年8月の『スウィートナー』、2019年2月の『thank u, next』と連続リリースした2作が共に全米・全英1位を獲得した後、約9ヶ月101公演をまわった「スウィートナー・ワールド・ツアー」の記録。
マンチェスターのテロで負った心的外傷からの治癒をテーマとした『スウィートナー』。故マック・ミラーを含む元カレ達に対し忘れたり乗り越えたりするのではなく感謝することで次のステップへと歩を進める道を示した『thank u, next』。この2作はどこまでもパーソナルな表現でありながら、明確に社会の流れと繋がり、それをリードする役割をさえ果たした。アリアナ・グランデという稀代のポップ・スターが名実共にこの時代を代表するアイコンにまで上り詰めた記念碑となったのだ。
それゆえ、このツアーのアリアナは凄い。アーティストが世界の頂点に立った直後にのみ宿る手の付けられない全能感と迫力が、全編に迸っている。また、ライブ・アルバムの場合は観衆の歓声や合唱をどのように入れるかが重要な要素となるが、本作はその点も秀逸。アリアネーターの興奮をかなりそのままの形で残しているのだが、それを力にしてアリアナの歌が熱を高めていく様がはっきり聴いてとれ、とても感動的だ。
スタジオ作でも無論アリアナの歌唱は一流だが、本作ではさらにもう一段階上の存在感を示しているように思える。セットリストに時折挟まれる過去のヒット曲が自然に溶け込んでいるのも、温度差のないファンのリアクションと、進化したアリアナのボーカルによるところが大きいだろう。しかし、改めてなんと幸福なライブだったのだろうか。（長瀬昇）
ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』8月号に掲載中です。
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『rockin'on』2021年8月号
