公私ともに激変を潜ったアリアナの感動作。『スウィートナー』を、今こそ深く読み解く!

公私ともに激変を潜ったアリアナの感動作。『スウィートナー』を、今こそ深く読み解く!

ツアー中のマンチェスター爆破事件を乗り越えて先月ついにリリースされたアリアナ・グランデの2年ぶりの新作『スウィートナー』。各国で軒並みチャート1位に輝き、アメリカではアリアナにとって初週成績としては史上最高のセールスを誇ると同時に、各方面からも絶賛を呼ぶものとなっている。内容的にはさまざまなスタイルを揃えたところなどは前作『デンジャラス・ウーマン』をほぼ踏襲しているように思えるし、一見してわかる違いといえば、今作はファレル・ウィリアムスの活躍が目立っていることになる。

しかし、この作品を聴いて浸ることになる、この穏やかに染み込んでくるような感動はなんなのか。それはひとえに今作におけるアリアナ自身の充実によるものだ。たとえば、アリアナは前作『デンジャラス・ウーマン』で官能性を路線として新しく打ち出し、それはアリアナの表現に今となっては欠くことのできない魅力をもたらすことになった。

その官能性は今作でも顕在で、たとえば、先行シングルとしてリリースされた"God Is a Woman"はまさにそういう内容だ。歌い手とパートナーの関係性をどこまでも官能的を歌い上げていくものだが、それと同時にふたりの結びつきの深さも繊細な情感として歌い込まれていくところが、どこまでもアリアナらしい魅力となっているのだ。このどこまでも官能的なイメージを紡ぎつつ、ストイックな思いをも同時にグルーヴに乗せて歌い上げる世界観こそ前作『デンジャラス・ウーマン』で魅せた新境地だった。当初は今度の新作もこの路線全開になるのかと思っていたが、蓋を開けてみれば、かなり内省的な楽曲で占められることになったし、それがこのアルバムの素晴らしいところになっている。


今作のこの路線のきっかけになったのはなにかといえば、もちろんマンチェスター事件の衝撃もあっただろう。しかし、アリアナ自身の個人的な人間関係の変遷からの影響も楽曲からは窺われるわけで、パブリックとプライヴェートの両面で大きな壁と直面してそれを真摯に乗り越えてきた内容がこの作品には溢れていて、それがこのじんわりとくる感動に繋がっているのだ。マンチェスター事件の影響については"No Tears to Cry"がその最たる例となるし、基本的にこの曲で歌われるテーマがこのアルバムを貫くものとなっている。しかし、それと同時に今回の収録曲の歌詞から浮かび上がってくるのはアリアナのプライヴェートでも激動が進行していたということで、明らかに今回のアルバムと前作とでは、大半の楽曲のなかで設定されているパートナーが違う人物だということ歴然としてくるのだ。


つまり、前作『デンジャラス・ウーマン』でアリアナの官能性の開花をもたらした人物と今回の楽曲の内省的なモチーフをもたらしている人物は違う人物で、その変遷こそ、マンチェスター事件とともに今回のアリアナの楽曲の変化をもたらしているものだといえるのだ。そのプライヴェートな側面のモチーフを最もよく表すのが、自分とほかの誰に対しても究極の応援ソングとなっていて、アリアナの原点となるオーソドックスでクラシックなR&Bを打ち出す最終曲"Get Well Soon"で、この曲を形にすることがこのアルバムの最重要課題だったといえるし、それをやり遂げたからこそこのアルバムはとても心地の良い感動を聴いた後に残してくれているのだと思う。たとえば、今回のファレルの起用というのは、アリアナのそもそもの原点であるクラシックなR&Bの名手であるということも相当に加味されてのことだったはずだ。

いずれにしても、もう言うまでもないのだろうが、今回の楽曲で明らかになっているアリアナの新しいパートナーは今回実名が楽曲名にさえなっているコメディアン/俳優のピート・デヴィッドソンで、かつてアリアナの情熱的な楽曲のインスピレーションとなっていたのは9月7日に急死したマック・ミラーだ。今回の楽曲には、古い関係から新しい関係へと乗り出して行った動機を綴った内容のものもあり、そうした意味でマックの死はひとつの衝撃でもあった。しかし、その死の前からすべてをつまびらかにしようとしたのが今回のアルバムの内実であって、それがもたらした感動はマックの訃報の後も変わらないものだし、むしろかつてのマックとの関係を源泉にした楽曲の純粋さをも伝えるものでもあるのだ。 (高見展)



『スウィートナー』の詳細は以下。

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