UKパンクの真髄を体感! アイドルズの初来日ライブが、もう「事件」と言い切れるほど素晴らしかった件について

UKパンクの真髄を体感! アイドルズの初来日ライブが、もう「事件」と言い切れるほど素晴らしかった件について

この9月、ザ・キラーズリアム・ギャラガーの2夜連続武道館というスペシャルなイベントを前にして、個人的に非常に楽しみにしていたのがアイドルズの初来日公演だ。

アイドルズは英ブリストルで結成されたポスト・パンク・バンド。これまでに『ブルータリズム』、『ジョイ・アズ・アン・アクト・オブ・レジスタンス。』と2枚のアルバムをリリースし、どちらもUKパンクの新名盤として高く評価されている。しかし、彼らは何と言ってもライブの評判が尋常じゃなく高いバンドで、ライブにこそバンドの真髄があると称されることもしばしば。だから代官山UNITで行われた今回の一夜限りの初来日公演は、全パンク・ファン&全UKロック・ファン必見の一夜だったのだ。


実際、とんでもなく素晴らしいライブだった。硬く、重く、容赦ない重金属のようなビートとノイズをブチ鳴らし、野太い声でがなりたて、汗と唾と湯気と、とにかくあらゆる水分を灼熱の身体から発散する凶暴なサウンドとパフォーマンス。そしてその凶暴なサウンドとパフォーマンスと共に、真摯で、優しく、ヒューマニックな彼らの想いがビシバシ伝わってくるという、真のパンク・スピリットが漲るライブだった。

アルバム音源の段階ではもう少しアート・パンク寄りと言うか、曲によってはアヴァンギャルドな風合いを感じさせるものだったが、ライブの現場におけるそれらは豪速球にしてど直球に変貌、ファット・ホワイト・ファミリーやシェイムのような他の新世代UKパンク勢と比較しても、アイドルズのオールドスクールにしてオーセンティックなマナーは際立っている。そして何よりも、パンクがスタイルやギミックとして安易に借用され続ける状況に意を唱え、「パンク・イズ・アティチュード」のゼロ地点の彼らの旗を突き刺さんとする意思が、何よりも格好良かったのだ。


アイドルズのナンバーはその歌詞のメッセージ性も明瞭で迷いがない。メディアの洗脳、政府の政策の欺瞞に怒り、社会制度の不平等を告発する。そして亡き母に愛を捧げ、移民との連帯を訴える。1曲毎に律儀に「次は“◯◯”デス」と曲名を紹介し、歌のテーマについて語り、ボーカルのジョーが「英語しか話せなくてごめん」と謝るのは、ライブとはメッセージの交感の場であるという認識に基づいたものだからだ。

ちなみに「俺の兄弟分は移民、美しい移民」と歌う“Danny Nedelko”のミュージック・ビデオには、彼らの友達でウクライナ移民のDanny Nedelkoが登場。


ただし、生真面目頑固なパンク一徹野郎のゴリゴリにハードコアなパフォーマンスの中に、英国人らしいユーモアや、彼ら固有の愛嬌みたいなものがちょくちょく顔を覗かせるのもアイドルズのライブが素晴らしい所以だ。今日のための勝負服と言わんばかりの意気込みでド頭からグレーのブリーフ一丁で登場したギターも、逆さ騙し絵みたいなヒゲの強面、でもシャツはきっちり第一ボタンまで留めて着るベースも、客席突入したツイン・ギターに変わってステージに上がり、滅茶苦茶かっこいいノイズを鳴らしてくれた2人のオーディエンスも、そしてやるタイミングも意味も季節も全部間違っていたマライア・キャリーの“All I Want For Christmas Is You”のカバーも、全部全部最高!だったのだ。

いやもうほんと、再来日熱望。例えば次はフェス来日で、ニュートラルなオーディエンスの度肝を抜くパフォーマンスを見せてくれることを期待したい。(粉川しの)
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