The 1975に続け! ポップでゴスなペール・ウェーヴスのデビュー・アルバムはUKインディの新名盤

The 1975に続け! ポップでゴスなペール・ウェーヴスのデビュー・アルバムはUKインディの新名盤

期待のニューカマーが、その期待に真正面から応えた最高のデビュー・アルバムを作り上げた、それがペール・ウェーヴスの『マイ・マインド・メイクス・ノイジーズ』だ。デビュー・シングルの段階で早くもバズを巻き起こした彼女たちだけに、その後の状況の加熱はプレッシャーでもあっただろう。しかし本作の素晴らしさとは、そのプレッシャーをはねのけてUKインディの枠を超えて広く一般に訴求するポップ・ロックを作り上げた強さと、その堅固なポップの鎧の下に、今なお柔くナイーヴなUKインディ・ギター固有の思春期性を保っている二面性なのだ。

ザ・フーの“Baba O'riley”を彷彿させるシンセイントロで幕開けるオープナーの“Eighteen” からラストの“Karl”まで、『マイ・マインド・メイクス・ノイジーズ』のナンバーは一貫して思春期のブルーに沈み込む彼女たちに寄り添うギターポップ・サウンドと、それを振り払って駆け出すように鼓舞するシンセポップ・サウンドの綱引きで構成されている。


ペール・ウェーヴスは大学時代に知り合い、無二の親友になったヘザー(Vo&G)とシアラ(Dr)を中心に結成されたバンド。そのフォトジェニックなビジュアルやステージ・パフォーマンスによってUK新世代のゴス・クイーンとして熱い支持を集めるヘザーは、本作の歌詞の全てを手がけている精神的支柱。

対して本作のプロデュースも務めたシアラはサウンド面の要であり、「もっと正直な歌詞を書いて、自分自身を曝け出さなきゃダメ」だと、内気なヘザーを励ました運命共同体でもある。そしてふたりの脇を固めるヒューゴ(G)とチャーリー(B)が驚くほどタフで骨太な演奏で、ペール・ウェーヴスのインディ・ロックらしいインディ・ロックを、アリーナでも耐えうるポップスへと強化していくという、4人のバランスが絶妙であり、『マイ・マインド・メイクス・ノイジーズ』はまさにそんなバンドの特性を生かしきった作品なのだ。

ちなみに、彼女たちに「どんなに内省的な歌だとしても、それをアリーナやスタジアムで演奏することを想定したポップ・ソングとして作るべき」だとアドバイスしたのがThe 1975のマシュー・ヒーリーだ。マシューはペール・ウェーヴスの初期シングルのプロデューサーであり、“Television Romance”のミュージック・ビデオの監督も務めるなど、彼女たちを全面的にサポートしている。


そんな“Television Romance”やイントロのギターからしてもろにザ・キュアーな“Kiss”を筆頭に、『マイ・マインド・メイクス・ノイジーズ』は80年代のニューウェイヴの強い影響を感じさせるアルバムで、これはデビューEP『All the Things I Never Said』から踏襲された彼女たちらしさの一つだ。その一方で“Come In Close”やボーカル・エフェクトを駆使した“Loveless Girl”のように、より今っぽいエレクトロニクスの処理を施したダンス・ポップも増えている。


結果、全編を通して一切の緩みがない超絶ポップなアルバムに仕上がっているのだが、これでも“Heavenly”や“The Tide”のような既にライブ・アンセムとして大人気のシングル曲は選外だったりするのだから、いかにこのバンドが一貫してポップ・ソングを書き続けてきたかがうかがえる。

この『マイ・マインド・メイクス・ノイジーズ』で最も重要なナンバーはおそらく“Noises”だ。疎外感に苛まれたこの歌の主人公はもちろんヘザー自身で、アルバム・タイトルになった「My Mind Makes Nosies」 は同ナンバーの歌詞の一節から取られたものだ(シアラはこの一節のタトゥーを腕に入れている)。


本作のギター・ポップ、シンセ・ポップがこんなにもエモーショナルに響くのは、高揚に高揚を重ねていく楽観の連鎖によるものではない。むしろペシミスティックな淵から必死に這い上がろうとする情緒不安定な女の子の、「受け入れられたい」という願いが世界を反転させる、そのコントラストが本作のドラマを産んでいるのだ。

そんな本作のコンセプトには彼女たちが愛してやまないザ・キュアーの影響が明らかだし、特に『The Head On The Door』や『Kiss Me, Kiss Me, Kiss Me』の頃の泣き笑い的、ハッピー・サッド的キュアーのポップネスがこうして時を超えて受け継がれている様には、胸が熱くなってしまうのだ。 (粉川しの)



『マイ・マインド・メイクス・ノイジーズ』の詳細は以下。


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