レニー・クラヴィッツ4年ぶりの新作『レイズ・ヴァイブレーション』は、魂の奥から真正面に「愛」を歌った最高傑作だ

レニー・クラヴィッツ4年ぶりの新作『レイズ・ヴァイブレーション』は、魂の奥から真正面に「愛」を歌った最高傑作だ

レニー・クラヴィッツの『レイズ・ヴァイブレーション』が先日リリースされ、今まさに聴きこんでいるところ、という人も多いはず。

「1989年のデビュー・アルバム『レット・ラヴ・ルール』から今作『レイズ・ヴァイブレーション』に至るまで、俺の伝えたいことはずっと変わっていなくて、それは常にLOVEについてなんだ。」と、レニー自身も今作についてコメントしているとおり、前作『ストラット』から4年ぶりのこの新作は、やはり「愛」のアルバムだ。


しかし2014年リリースの『ストラット』のツアーを終えた後、レニーは曲が書けなくなっていたと、この春『ローリング・ストーン』誌のインタビューで語っていた。それは彼にとって初めてと言っていいほどの混乱で、「怖い体験だった」と。今作でもほぼすべての楽器を自身で演奏し、そんなスランプなど微塵も感じさせないグッド・ミュージック満載の今作にあって、レニーのその発言は少なからず衝撃だった。その「書けない」という状況を打破するために、他のソングライターとの共作を勧められたりもしたそうだが、レニーはそれを受け入れなかった。

その悩みの中である日の朝、彼の頭にひとつの曲が降りてきたという。それが今作2曲目に収録されている“ Low”だ。MVではレニーがドラムを叩く姿が印象的で、「ベイビー 俺は本当に頑張っているんだよ/愛を手にいれるために」と締めくくられるこのソウルフルなロックミュージックは、歌詞のメッセージだけでなく、サウンドもレニーの原点を指しているように感じられる。


マイケル・ジャクソンの声を曲中に効果的に挿入していることでもすでに話題となっているが、サウンドアレンジはクインシー・ジョーンズを意識したものであることを、前述の同インタビューで本人も語っている。マイケルがやはり「愛」の人であり続けたように、レニーに降りてきた曲が、そしてそこから次々に作られていった曲たちが「愛」に振れていくのは、やはり必然だったのだろう。

という経緯を知ると、この『レイズ・ヴァイブレーション』がレニーの変わらないしなやかさや美しさを見せつけながらも、いつにも増して、どこか深い精神性を感じさせるものになっている理由が少し理解できるような気もする。

タイトル曲“Raise Vibration”の歌詞とサウンドに、それは色濃い。「キング牧師が/剣を持たずに/始めたように/ガンジーが/戦争に行きながら/決して銃を使わなかったように/俺たちは一丸となれる/そして愛があればそれが出来る」というストレートなメッセージは、アジテーションのように力強く響く。曲のエンディングにはネイティブ・アメリカンの打楽器とチャントが入れられていて、よりスピリチュアルに、そのメッセージが古からの教えと地続きであることも示唆する。

現代社会の病理をストレートに突きつけ、グルーヴィーなファンクサウンドに乗せ「愛の願望が権力の願望に打ち勝つのはいつのことだろう?」と歌われる“It's Enough”、美しいハーモニーで「最も偉大な愛」を歌う“Gold Dust”(荘厳とも言いたくなるサイケデリックなギターソロに圧倒される)、「俺が君と一緒にいることを感じられるかい?」と、高揚した怒りや苛立ちを沈めてくれるような、穏やかなラストの“I'll Always Be Inside Your Soul”──。

これほどまでに真正面から「愛」を描いた作品は今作が初めてではないかと思う。デビューから一貫して自身を裏切ることなく創作を続けてきた彼の、魂の奥にあり続けるもの、つまり「愛」を描くためには、それ自身が自然に溢れ出てくるものでなければ嘘になる。レニーが4年のブランクを必要としたのは、そういうことだったのだろう。『レイズ・ヴァイブレーション』、最高傑作だと思う。(杉浦美恵)
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