看板娘だった双子姉妹の脱退によりその行く末を危ぶまれながら、これもアイスランド・シーンのコミュニティ力のなせる業か、7人編成のコレクティブへと華麗な変身を遂げたムーム。結果、北欧エレクトロニカ的な神秘のベールを脱ぎ去り、躍動感あふれるポップなバンド・サウンドへと音楽性も大胆な前進を遂げたのが前作だった。対してこの2年ぶりの5作目では、かつての4人時代のムームも思わせるおごそかな叙情性や詩的な陰影、箱庭的な繊細さをメロディや音の細部に感じることができる。マリンバやウクレレ、ダルシマー等の生楽器が奏でるオーガニックな音色。控え目な装飾の電子音。男女ボーカルのユニゾンも、そうした音のあたたかみある質感と調和するように、どこか慎ましやかに「歌」を聴かせる。とはいえ作品を覆うトーンが内向的・内省的になったという印象はない。個々が最低限の音を丹精込めて鳴らすような感覚にはクラフトマンシップに近いものを感じるし、7人で過ごした時間がそのまま表現としての強度に凝縮されたような凄みも受ける。『聞いたこともない歌を口ずさもう』というタイトルも印象的。(天井潤之介)