巧妙に計算されたようでいて遊び心に弾けたアレンジ。ドラムもベースもキーボードもギターも、それぞれの楽器がそれぞれの歌を歌っている交響曲のような構造がユニークだし、何度聴いても飽きない新鮮な楽しさがある。
眠れない孤独な夜にさまざまな願いや妄想や夢を思いめぐらせるうちにいつの間にか朝になっていた――そんな切実な心象風景が歌詞には描かれている。孤独と繋がり、夜と朝、眠りと覚醒といったふたつの領域をゆるやかに行き来する言葉の感覚にも新しさを感じる。「ベッドルームから世界へ」とうたわれた00年代の健全な時代感覚とでもいうか。新しい知覚から生み出された、新しい夢――。シーンのこれからを担ってゆくみずみずしいマニフェストのような作品だ。(井上貴子)