それこそTHE MAD CAPSULE MARKETSから現在に至るまで、上田剛士は一貫して「軋み」を鳴らしてきた人だ。デジタルノイズとハードコアサウンドの轟々たるせめぎ合いが生み出すマッドの震撼必至の「軋み」は取りも直さず、社会のシステムの中で解決不能な困難に直面しながら時代のカオスの中を生きる我々の軋轢そのものだったし、だからこそそのハイブリッド&ブルータルなハードコアサウンドは、抗い難い共鳴力と痺れるほどの訴求力をもって身体と心を揺さぶってきた。

THE MAD CAPSULE MARKETS活動休止から約3年後、上田剛士が自らのソロプロジェクト名に掲げたのは、「AA=(All animals are equal)」というジョージ・オーウェルの名著『動物農場』の一節だった。牧場の動物たちが、自分たちから搾取する人間の農場主を追放、「動物農場」というユートピアの創設に成功したかに見えたが、新たに指導者となった豚の独裁の下、さらなる恐怖政治が展開されていく――という皮肉なメタファー越しに、「システムを作る側」と「システムに支配される側」の差異はその置かれている状況以外にない、という人間の脆さと弱さ、それゆえの恐ろしさを突きつける『動物農場』。そのフレーズをメインコンセプトに掲げた上田の活動は文字通り、マッド時代よりも深く鋭く人間の真実へと踏み込み、ストイックなまでに研ぎ澄ませたメッセージと音像を“I HATE HUMAN” “PEACE!!!” “FREEDOM” “PEOPLE KILL PEOPLE”といった楽曲の形で突きつけてきた。

2011年の震災直後には東日本大震災の復興支援プロジェクト「AA= AiD」を立ち上げフリーダウンロード楽曲“We're not alone”を発表、現在に至るまでチャリティーTシャツの販売を続けるなど復興支援活動を行っている。一方で、同年12月には“WORKING CLASS” “sTEP COde”といったアグレッシヴな楽曲も《Never forget./Can't forget./Never forget you.》という真摯な想いを織り込んだ“Dry your tears”も収めた『#3』をリリースしている。そして、2013年には自身の攻撃性と叙情性を2枚のアルバム『#』『4』にそれぞれ結晶させて連射。その痺れるような上田剛士の「軋み」が、さらに強烈なヴァイタリティと、格段に豊かな表情を見せていることが、その歩みからもリアルに伝わってくる。

同時に、上田剛士自身の活動そのものも多彩さを増していく。2012年には蜷川実花監督の映画『ヘルタースケルター』エンディング曲として“The Klock”を提供したのをはじめ、同年にはTAKESHI UEDA名義で映画『ジョーカーゲーム』の音楽&エンディング曲を担当。2013年には難波章浩とともにAKIHIRO NAMBA×TAKESHI UEDA名義のコラボシングル『FIGHT IT OUT feat.K(Pay money To my Pain)/ F.A.T.E.』を発売。2014年には提供楽曲=BiS“STUPiG”&BABYMETAL“ギミチョコ!!”の相次ぐリリースに加え、椎名林檎のセルフカヴァー集『逆輸入〜港湾局〜』で“渦中の男”のリアレンジ&リミックスも手掛けている。

映画という異なるフィールドで鳴り響いても、日本を代表するパンクアイコンとの競演でも、アイドルユニットのポップ感をまとっても、彼の放つ「軋み」は微塵も揺らぐことがない。上田剛士自身が表現の幅とタフネスを獲得したことはもちろんだが、時代の軋轢を示唆する通奏低音としての彼のサウンドが、より広く切実に求められていることを、彼の今の在り方は何より歴然と証明している。

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