ALL OFF 結成からの12年を総括するアルバム
『Re:sound』を語る(2)
バンドの一番の財産はメンバーだと思っている。ほかの何を失くしてもメンバーさえいれば死ぬまで続けられる
――ちなみに人生で勝ち組になったことがないって話でしたけど、バンドの危機というか、この12年の間でうまくいかなかったことはあるんですか?
「何回かはあってきつい時期もあったんですけど、『これはもう無理だわ』って思ったことは一回もなくて。今振り返るとあん時は辛かったなみたいな感じです。好きでずっと続けてきたことなので、続ける以外の選択肢はなかった。ただ、悔しい想いもたくさんしてきたので、そこは当然歌詞に滲み出てはいますね」
――今の時代、続けるだけでもなかなか大変なはずで。12年やってきてどんなことを思いますか?
「バンドの一番の財産はメンバーだと思ってるんで。メジャーのレコード会社からリリースさせてもらって、事務所もついてくれて、本当に恵まれた状態なんですけど、僕にとって何よりも大事なのはメンバーなんですよ。お客さんももちろんだけど、メンバーがいるからこそお客さんも付いてきてくれるし、スタッフたちも認めてくれる。一番の財産を蔑ろにしたバンドから消えていくのかなっていうのは思ってるので、ほかの何を失くしてもメンバー5人さえいれば死ぬまで続けられるなと。それがバンドなのかなと思ってます。昔はけっこう暴君なところがあって、納得いかないメンバーにスネアを投げたりしてたんですけど(笑)」
――え(笑)。
「『もうやってらんねえ』みたいなことがホント結成当初はあって。でも初期の段階でこのやり方じゃダメなんだっていうのを学んだので、独裁というよりは民主的に、メンバー全員で意見を出し合ってお互い信頼してやってます」
どれだけ多様なスタイルの曲をやってようが、寄り添ってたいってところは全曲を通してブレていない
――もうひとつ重要な曲だと思うのが“ありがとう”なんです。やさしくてあたたかい曲調は“In Shadows”と違うけど、昔は心から素直になれなかったけど今は《ありがとう》と言えるみたいな、歌詞の根底にあるものは同じですよね?
「シングル曲以外の歌詞には全部リンクするところがあって。ホントに今自分の心の内にあるものを素直に出そうと思ってたので、そうなったんだと思います。あとはないものねだりをやめたんですよ。僕、ずっと日本語でいい歌詞を書きたいっていう憧れがあって。だから安易に英詞へ逃げないようにしてたんですけど、この曲を全部日本語詞にしちゃうともうALL OFFじゃないなって思って。憧れを叶えて僕がひとりで満足しても、メンバーとかお客さんが『ん?』ってなってたらそれは違うなと思ったのでこだわるのはやめたんです。たとえ100人に伝わらなくても、ひとりがこの英詞はめっちゃいいと思ってくれたら幸せだなって」
――実は日本語か英語かというより、深く伝わるってことを一番に考えてるんじゃないですか?
「自分の言いたいことをちゃんと伝えたいというか、表現したいことを嘘偽りなく出したいのはありますね」
――ロックだからこうしなきゃとか売れるためにこうしようとかじゃなく、素直に表現したからシンプルで聴きやすいものになってる。
「まさにそうですね」
――それはキャッチーなものが好きという芯があるからでもあるし、多くの人に聴いてほしいという想いにつながるものでもある。つまり売れたいってことだけど、その意味は昔と今で少し違うんじゃないのかなって。
「コアな音楽をやるつもりはなかったんで、より多くの人に届けたいっていうのは結成した時から思ってました。ただ当時は『俺らってこんなカッコいい曲ができるんだよ』っていろんな人に知ってもらいたいっていう、『モテたい』ぐらいのシンプルな感じでしたけど、今は自分の発するメロディだったり言葉でより多くの人に寄り添ってたいってイメージです。ひとりでも多くの人に必要とされる音でありたいっていうか。昔の僕がそうだったように『救われた』みたく思ってくれたら俺も救われるなって。ひとりでさみしく過ごしてた子供だった頃の俺も救われるし、今の自分も救われるしメンバーも救われる。そういうのがあってたくさんの人に聴いてほしいなと思いますね」
――救われる人がたくさんいたらうれしいと。
「そういう輪が広がっていけばいいですね。どれだけ多様なスタイルの曲をやってようが、寄り添ってたいってところは今回全曲を通してブレてないんで、それがより多くの人に伝わればこのバンドの世界観になるのかなって思ってます」
心から「これはいいわ」って思えてる。頭で考えるよりも心がそう理解してる
――以前のインタビューでROCK IN JAPAN FESTIVAL 2014のDragon Ashのステージが衝撃だったと言ってましたけど。
「はい、例えば僕らが今ぐらいの知名度で同じステージに立ったとして、どんだけノれる曲をやったとしてもお客さんは絶対ああならないんですよ。みんなが求めてるというか、みんなの心の中に鳴ってる音がないとあの光景は生み出せない。そういう意味で衝撃で、人に愛される曲ってすごいと単純に思ったんですよね。それは自分たちが単にお客さんをノせたいってやってるだけじゃたどり着けるはずがないと思った。そのあたりから意識が変わってきて、今に至るという感じです」
――最終的にはたくさんの人に愛される曲を作りたいけど、まずはひとりでも救えるような音楽をやりたい?
「そうですそうです。少ない人でもいいから表面的にではなくて本当に心に届くかどうか。そこからだなと思って作ったのが今回のアルバムですね」
――でもたぶん12年のキャリアがあるから、少ない人でもいいからと言いつつ結果的に開けた作品になってる。改めて手応えはどうでしょう?
「作り終わったあとの手応えとしてはシンプルに今までで最高のものができたなって思っていて。2年前のアルバムも全力で作ったんですけど、今聴くとやっぱり幼いなって思うんですよね。アレンジだったり歌詞だったり曲の雰囲気だったりが。なので自分たちが成長した証が全部詰め込まれてると思います。特に“In Shadows”とかはもう100回以上リピートして聴いてるんですよ。そういうことって今までなくて。たぶん自分が心から『これはいいわ』って思えてるからなんですよね。頭で考えるよりも心がそう理解してる。タイトルは『Re:sound』ですけど、これはresound=響き渡る、共鳴するって意味の単語とかけていて。今まではライブハウスシーンをどんだけ沸かせるかみたいなマインドで曲を書いてきたんですけど、本当に世界に響かせるには心に届けなきゃいけない。それを目指して書いて、結果自分でも聴けてる。だからみんなもくり返し聴いてくれたらいいなと思いますね」