ボヤケルズ
柔らかくも人の心をえぐるポップスが生み出された理由に迫る──
2ndミニアルバム『ビヨンド』完成インタヴュー!
昨年9月に初の全国流通盤『上京48日目』をリリース。地元・鹿児島から東京へと拠点を移し、バンド史上最長の全国ツアーを展開。各地のイヴェントへも積極的に出演するなど、この1年間で大きな変化を体験してきたボヤケルズ。そんな日々を経て完成された2ndミニアルバム『ビヨンド』は、彼らの魅力をさらにたくさんの人々に示すはずだ。フォークソングへの敬愛を感じさせる深い抒情性、瑞々しいサウンドを下地にしながらも、リスナーの心に強烈な印象を刻みつける楽曲の威力が本当に凄い。キャッチーなメロディ、美しいハーモニー、心温まる言葉で彩った歌を届けるスタイルは紛れもなく「ポップス」。しかし、その親しみやすさの狭間から無数の生々しい感情も滲ませ、どんな爆音のロックにも負けない強烈な刺激を突きつける。このような音楽性は一体どのような背景から生まれているのか? 新作についての話を訊きつつ、ボヤケルズの正体に迫る。
(インタヴュー:田中大、撮影:石井彩子)
結成当時「ぼやける」って言葉が僕の中では流行ってて、このバンド名を付けたんです。でもライヴ後に「全然ぼやけてないじゃん!」って言われます(笑)
──今作を作るにあたってどんなことを考えていました?
わかまつ ごう (Vo・G) 去年の9月に『上京48日目』というデビュー盤を出しまして。それは「鹿児島の時の自分達がそのまま東京に来ましたよ」っていう1枚だったんです。それを出した後はツアーを回ったり、PVを撮影したり、東京で生活もするようになったり。いろんな初めてのことを経験して、祭りみたいな日々だったんですよね。激動の1年を過ごして2年目に入り、腰を据えた今、「僕達はどんな音楽が出来るんだろう?」とか「僕達はどんな人間なんだろう?」とかいうことを今回やってみた感じです。
渡口 史郎(B) この1年は目まぐるしく過ごしている内に終わっちゃった感じなんですよね。でも、そういう中でメンバーの心構えとか曲に対するアプローチとかは進化しているんだなと、今回のアルバムを作ってみて感じました。
立元 芳明(G) 鹿児島にいた頃は「まあ楽しくやろう」みたいな部分が大きくて、自分が弾いている音を客観的に捉えていない感じだったんです。でも、今回のレコーディングでは「何をしに東京に来ているのか?」というところとか、弾いている1音1音に至るまで明確な意識で臨んでいました。
松下 千穂里(Dr) わたしは前作を出した時にメンバーになったんです。それまではサポートだったので。1年間このメンバーと一緒にやって、責任をより感じるようになりました。前作は元々あったフレーズを叩くことも多かったんですけど、今回は自分で新しく作ったものもいっぱい入れました。「こうしたい!」っていう我も反映出来たと思います。
──この4人の腹の括り、強い決意も入った作品ということですね。
わかまつ そうだと思います。結構時間もかけて制作をしましたから。前作は「作れた」っていう感じ。今回は「作り上げたな!」です。曲だけでなく、ジャケットとかも含めてイチからみんなでどうしたいのかを話し合って作っていきましたので。
──ソングライターとして考えていたことは何かありました?
わかまつ 「僕はいろんな曲を作れるんだよ」っていうことですかね。あと、東京に来てからパソコンに向き合ってパチパチと作業して曲を作れるようになったんです。以前は曲の一部をスタジオに持って行って「さあ、みんなで料理しよう」っていう感じだったんですけど、今回は「こういうことがやりたい」ってハッキリ示せたのも良かったと思います。そういうものに対してみんなが肉付けしてくれました。だから「僕のしたいことが形になったアルバム」という感覚もあります。
──そういえば今回からロゴの表記がアルファベットになったみたいですけど、これは何か深い意味があるんですか?
わかまつ ないです(笑)。カタカナで「ボヤケルズ」って書いたら、字面の印象が強過ぎるんですよね。その名前によって食わず嫌いされるのも嫌だったんです。じゃあ、ローマ字にしようかなと。どこかにキャンペーンに行った時にバンド名をローマ字で書かれて、「悪くないね」っていうことになったんです。まあ、自分達のツイッターなどでは未だにカタカナで書いているんですけど(笑)。
──(笑)では作品についての具体的なお話に移りましょう。まず、僕が今回の収録曲から感じたのは、いろんなものが時間と共に変化する切なさみたいなことなんですけど。
わかまつ やっぱりそういうことはよく感じるんです。僕らも「東京に染まったな」とか「染まるんだろうな」とか言われますし。バンドとか人以外にもいろんな物事って変わっていっちゃうじゃないですか。良いとか悪いとかいうことではなくて、何か物悲しさを感じるんですよ。諦めの気持ちもあるし、それでも前を向いて行かなきゃいけないという想いもある。そういうのが全部入り交じった淡い気持ち達があるんです。強い色じゃなくてすごく薄いけど、色合いは確実にあるイメージを日常生活の中で抱いていまして。それが曲に反映されていますね。
──みなさん、東京に染まってきていますか?
立元 僕は東京に来て好きな食べ物が出来ました!
わかまつ そういうのは「染まった」って言わないでしょ(笑)。
立元 ケバブが好きになったんです(笑)。鹿児島にはなかったので。
音楽にせよ何にせよ単純に続けることだけでも難しかったりするじゃないですか。物事を続けるには、自分に理由をつけてないとやれない
──(笑)曲の話に戻りましょう。“ゆっくりとさよならをとなえる”って、バンドにとって象徴的な1曲として受け止めました。歌を作って表現することへのスタンスが表れている曲だと感じたので。《やらかな言葉 あなたのこころ こころ刺すよう》っていう一節がありますけど、ボヤケルズってまさにそういうバンドだなと。あと《優しいだけでは駄目なんだとよ ナイフのような言葉が足りないんだとよ》っていうのも目を引きます。そういう批評を貰ったことがあるんですか?
わかまつ はい(笑)。やっぱり僕、淡いようなことを言いたいんです。柔らかい言葉で言いたいんですよ。難しいことを柔らかい言葉でなんとか言っていくっていう。それが僕が曲を作る時の美学じゃないですけど、こだわりみたいなことなんです。でも、「何が言いたいのか分からない。もっと刺すような言葉で表現した方がいいんじゃないの?」とかよく言われて。「そうですよね」とも思うんですけど、やっぱり自分はこうしたいので。そういう意思表示の曲ですね。まあ、次のアルバムでいきなり刺すような言葉を連発するかもしれないですけど、現時点ではこう思っています。事務所のスタッフとかからのアドバイスには前よりも耳を傾けるようになりましたけど。
渡口 ごうはかなり大人になったと僕も思います(笑)。いろんな刺激と出来事を経て、ちょっとずつ変化してきているんでしょうね。
──サウンド面も爽やかでありつつ、さり気ない熱さで攻めてくる感じがありますよね。いろんな曲でギターソロが際立っていたりしますし。
わかまつ ライヴが楽しいといいなあと思うので、入れたくなるんですよね。ギターソロがあるとライヴの時に楽しいじゃないですか。僕は弾かずに立元くんが弾くのを横で見ているんですけど。
立元 前はもっとソロを入れていたんですけどね。でも、今回はエッジを利かせた音色なので目立っているのかなと。
──例えば1曲目の“マーブル”もギターがカッコいいですよね。疾走感と熱いビートを響かせていますけど、これってボヤケルズとしては珍しいタイプのサウンドじゃないですか?
わかまつ ボヤケルズとしてはそうかもしれないですね。ボヤケルズはポップでワイワイした、今回で言うと“ゆー”みたいなイメージの方が強いと思うので。だからこの曲は前からあったんですけど封印していたような感じなんです。でも、2ndではいろんな曲をやりたかったので引っ張り出してみました。千穂里さんは今までこんなBPMの曲を叩いたことがなかったんですよね。スタジオで試しに叩いてもらったところ、笑いが起きました(笑)。
松下 必死過ぎたんです(笑)。
わかまつ バンドの今までの感じと違う雰囲気の曲だからどうなのかなとも思ったんですけど、僕らがやったらまあボヤケルズのものになるだろうと。最終的にはいい形で出来ました。このミニアルバムの幅を広げるためにもいい挑戦だったと思います。
松下 わたし、この曲の昔のヴァージョンをCDで聴いたことがあって。すごく若さと勢いがある音なんですよ。でも、もうみんな若くないので(笑)。
わかまつ なんか悲しい話になってきたよ(笑)。
松下 だから若さだけでアピールするのではなく、曲としてもっと大人な感じにしたかったし、面白いものにしたくていろいろ考えました。
──“マーブル”は喜怒哀楽のどれかひとつで言い表せないような多重層の感情を描いている点も印象的な曲ですよ。
わかまつ 若干ひねくれているんだと思うんですが、例えばラブソングを書く時もストレートに「好きだ!」って言わずに「遠回りして別の言い方が出来ないかな?」って思うんですよね。好きだという感情以外も入れたくなるんですよ。いろんな色が混じり合って、遠くから見たら「赤なのかな?」っていうような曲にしたいんです。
──そういうモワっとした雰囲気、淡さ、いろいろ入り交じっている感じって、ボヤケルズの音楽が一貫して持っているトーンだと思います。バンド名もそういうところから来ているんですか?
わかまつ そうなんです! ……いや、たまたまです(笑)。でも、ボヤっとした言葉が元々好きなんですよね。結成した当時「ぼやける」って言葉が僕の中で流行っていて、このバンド名を付けたんです。
──やっぱりナイフのような言葉よりもそういう言葉が好み?
わかまつ はい。でも、結構ライヴ後に「全然ぼやけてないじゃん!」って言われます。「いや。ぼやけるって歌詞の話なんだ!」って心の中で僕は言っているんですけど(笑)。
──(笑)サウンド面に関しては、さっきもちょっとお話が出た“ゆー”とか“to the space”みたいな柔らかい感じのテイストがこのバンドの王道になっていますね。やっぱりルーツはフォークソングとかなんですか?
わかまつ そうですね。音楽はフォークソングから入っていったんで、言葉の入れ方や曲の作り方もそういう感じになっていると思います。でも、歳を重ねる内にロックも聴くようになって今みたいな感じになっているんですかね。
──わかまつさんくらいの年代でフォークって、そんなにみんなが聴く音楽でもなかったんじゃないですか?
わかまつ 中学生くらいの多感な頃にゆずとかが流行ったんです。だからみんなフォークギターを買うか、GLAYとかラルク(L'Arc~en~Ciel)とかを聴いてバンドに走るかのどっちかだったんですよ。僕はフォークに行って山崎まさよしさんも聴き、さらには中島みゆきさんとかも聴いてフォークのディープな世界に入っていったんです。
──なるほど。たしかにそういうルーツを感じる香りがありますよね。あと、“ゆー”は「結う」とか「言う」とか、いろんな意味が掛けられているのも面白いです。
わかまつ ライヴだと英語の「You」だと思われちゃうんですけど、いろんな言葉遊びをしています。CDになって歌詞カードを見てみたら「そういう意味だったんだ!」っていうのが好きなんですよ。
松下 この曲も鹿児島時代からよくライヴでやっていて、わたしもお客さんとして観ていました。でも、言葉遊びには気づいていなかったです。
わかまつ 大失敗じゃないですか!
渡口 思い通りに行かないな?(笑)。
松下 今はちゃんと分かっているよ。
わかまつ お客さんに伝わらないと意味がないからな(笑)。
──(笑)歌詞にもじっくり向き合って聴くのは、僕もお客さんにオススメしたいです。“run run run”もグッときました。タイトルと裏腹に程良いテンポの曲ですが。
わかまつ “walk walk walk”っていう感じですよね(笑)。これは東京に来てから作った曲です。音楽にせよ何にせよ単純に続けることだけでも難しかったりするじゃないですか。物事を続けるには、自分に理由をつけてないとやれない。そういう気持ちをこめて作りました。
──素敵なメッセージソングだと思います。《花には花の孤独があり 月には月の悩みがある》って粋なフレーズですね。「詩人じゃん!」って思いました。
わかまつ 詩人なんです(笑)。ほんとそう思ったんですよ。花って綺麗で何の悩みもないように見えるんですけど、絶対に花なりの悩みがあるんですよね。それと同じで人には人の悩みがある。それを他の人に言ったりしないだけで。だから誰かが羨ましくなることもあるけど、自分は自分で頑張って行こうという気持ちでいます。
難しいことや複雑な人の心を、柔らかい、そこら辺にある「童謡」のような言葉で表現したい。それがこのバンドのテーマですね
──そういうのも上京して感じるようになったことですか?
わかまつ そうですね。ちょっと気を抜くと「自分らしさって何だろう?」って後ろ向きになる日もあったりするので。そういう気持ちと自分なりに闘っていこうという想いが燃え上がるようになったのは東京に出てきてからですね。
渡口 この曲は僕も好きです。制作で一番苦労したのもフラッシュバックしますけど(笑)。いい歌詞ですよね。
──ギターもオシャレですよ。ちょっとチャイムっぽいフレーズが盛り込まれているのが耳を惹きますし。
立元 ありがとうございます。結構苦戦したんですけど。そういうところもオススメです(笑)。
──サウンドも含めて言える部分ですけど「柔らかだけど、強烈な印象を残してくれて、熱いものが根底に脈打っている」っていうような沸々感は、やっぱりボヤケルズの音楽を語る上での重要ポイントですね。
わかまつ その「沸々」って僕らの中にあるものとリンクしていると思います。心の中で何かを溜めていて、それを出せる時を待っているみたいな感じがあるので。
──アコースティック色が強い“砂時計”からもそういう沸々感を感じます。これはまさに上京してから作った曲でしょ?
わかまつ そうです。最初の方でお話した「時が経つ」っていうことの悲しい部分を切り取った曲ですね。「過去にはもう戻れないんだ」っていう。そしてそういうことに立ち向かって行こうとするのが、その次の“ときがたつってことは”です。「昨日のわたしに貰ったこのわたしで素晴らしいわたしを作っていくんだ」っていう。この2曲はセットになっているようなイメージです。「時っていうのはなんとなく暮らしてても過ぎちゃうんだな」っていうことはよく考えますよ。最近のテーマ、キーワードでもあります。
──“ときがたつってことは”は、サビのメロディがすごくいいですよ。
渡口 いいですよね? 天才かと思いました(笑)。
わかまつ ありがとうございます(笑)。
渡口 僕はメロディが曲にとって一番大事だと思っているんです。メンバーとしてもそこは厳しくジャッジしていかなきゃいけないし、そういうものを書かなきゃいけないごうは大変だなとも思います。でも、やっぱりメロディはこのバンドの核にあるものですからね。
──この曲のサビって、柔らかで瑞々しいサウンドで突き刺してくる感じです。やっぱりボヤケルズって《やらかな言葉 あなたのこころ こころ刺すよう》なバンドっていうことじゃないでしょうか。
立元 メンバーとしてもそれは感じます。日常の中で聴いていても、曲がすごく入って来るので。
──いいメロディ、キャッチーなポップスをやるミュージシャンって、実はそこが大きな課題だと思うんです。ボヤケルズはそういう高い壁と真正面から闘っているバンドでもあるなと。心地よいメロディって「なんとなくいいね」で、大した印象も残さずにスルーされる可能性も帯びているじゃないですか。実は際立つのが容易じゃない世界なんですよね。
わかまつ 日常のことを歌ったりする分、「キャビア」とかじゃなくて「にんじん」とか「豆腐」とかいうその辺にある物の言葉を使うわけじゃないですか。だから「あっ、にんじんか」っていう感じでスルっと通り抜け易いんですよね。でも、その分、生活に沁み込むことも出来る。じゃあ沁み込むために、スルーされないように、どうすればいのか? そこはすごく考えますね。サウンドに関しても、例えば「豆腐」みたいな物をどう料理するのかをすごく考えてやっています。心に残らない豆腐じゃなくて、良い豆腐にしたいんです。
──強烈な印象を残す何気ないお惣菜?
わかまつ そうですね。
渡口 行列が出来るお惣菜(笑)。
わかまつ 地味に美味しいものになりたい(笑)。
──女子高生が並ぶ筑前煮みたいな?
わかまつ そういうのが最高です(笑)。どうしてもそっちの方に行きたいバンドなんです。難しいことや複雑な人の心を、柔らかい、そこら辺にある「童謡」のような言葉で表現したい。《ちいさい秋みつけた》とか《線路は続くよどこまでも》みたいな言葉で言いたい。それがこのバンドのテーマですね。ひねくれているところもあるので、シンプルなただのポップスには出来ないですけど。例えば「好き」っていう気持ちを、ただそういう言葉だけで表現出来ないところもありますし。でも、ポップなことはしたいという。性格的にもそうなっちゃうので、そういうところで闘わなきゃいけないだろうなと思っています。
リリース情報
2ndミニアルバム
『ビヨンド』
ARGT-0003/¥1,500 (税抜)/ 発売中
- 1. マーブル
- 2. to the space
- 3. ゆー
- 4. run run run
- 5. ゆっくりとさよならをとなえる
- 6. 砂時計
- 7. ときがたつってことは
マーブル
ゆー
ライヴ情報
「歌心心唄2014 長月篇~アコースティックな調べに魅せられて~supported by Gatsby Show」
2014.09.17 [Wed] 熊本TSUTAYA MUSIC CAFE MORRICONE
2014.09.18 [Thu] Music Bar S.O.Ra. Fukuoka
2014.09.19 [Fri] 長崎Ohana Cafe
わかまつごう(from ボヤケルズ)
「鹿児島KTSテレビ presents KTSの日」
2014.09.20 [Sat] 鹿児島県民交流センター
「【『ビヨンド』レコ発LIVE】Gatsby Show2014 番外編スペシャルVol.2
~猛暑酷暑残暑が過ぎたハズ~」
2014.09.21 [Sun] 鹿児島CAPARVO HALL
「FM802 presents MINAMI HEEL 2014」
2014.10.11 [Sat] 大阪・ミナミエリア ライブハウス20ヶ所以上
 レコ発LIVE決定!
2014.11.07 [Fri] 下北沢Basement Bar
※詳細は決定次第公式HPにて発表します
提供:ARIGATO MUSIC
企画・制作:RO69編集部