レミオを歌った夏、そしてニューシングルがもたらした「ソロ・新章」の息吹

藤巻亮太はこの夏、自身のライヴでひたすらレミオロメン楽曲を披露した。バンド時代の反動とも言えるようなアグレッシヴなエネルギーとともに走り出したソロ活動は、常に彼自身に「ソロとは?」という問いを与えてきたが、「レミオの曲を歌う」という行為は、そこにひとつの道筋を示すこととなった。CMソングとして他の作家が作ったサビも歌った今回のニューシングル『大切な人/8分前の僕ら』もそうだ。これらが藤巻にもたらしたのは、過去の楽曲も、この歌声も、今のありのままの気持ちも、すべて自分自身であるというシンプルで素直な確信だ。
まさに藤巻亮太の新章の幕開けと言えるこのシングル、そして今の胸中について語ってくれた。

インタヴュー=山崎洋一郎 撮影=安田季那子

社会とか世界に歩み寄っていきたい、ちゃんとコネクトするチャンネルをもう一度作っていきたい

── 今回のシングル3曲が、どんな思いで生まれたのかをお訊きしたいんですが、まず1曲目、“大切な人”はどうですか?

「この曲はCMのタイアップが決まってて。実はこれは、作家さんが1コーラス詞も曲も作ったものに対して、ヴォーカリストとしてオファーを受けた初めての曲なんです。レミオロメンの時から作詞・作曲をやってきて、それも含めて自分の活動だと思ってきたんですけど、そういう魅力に気づいてオファーをくれるっていうことと、純粋に曲が良かったっていうこと。あと藤巻亮太がソロ活動をしてるっていうことをちゃんと認知してもらうことがすごく大事だと思って。お話をいただいて、最初は1分尺しかなかったものを、『これは1曲にしたいなあ』と思って、そこから先を全部僕が作りました。サビの《まもりたい》っていう部分がすごく強く残るんだけど、守りたいってどういうことなんだろうっていうのは考えましたね。テーマとしては大きくなったんですけど、その中で、《まもりたい》、誰を守りたいんだ。《交わしたい》、誰と何を交わしたいんだ。《わかちたい》、誰と何を分かちたいんだっていうように、歌詞が増えてくごとに輪郭が見えてきて。タイトルは最後の最後まで悩んだんですけど、大サビの部分で一番叫んでるこの言葉かなと思って」

── なるほどね。初めて他の人が作った曲を歌う、しかもそれをシングルとしてリリースするのって、藤巻くんの中ではどういうストーリーになってるんだろう。

「曲の持ってるキャッチーさとか構造的なおもしろさとかに音楽家としては惹かれていて。自分が今後作ってく上で、CMという形で世の中の人が聴いてくれてるっていうのはなかなか得られないことでもあるし、この曲を僕がどこまで作り切れるかっていう勝負をしてみたいなと思ったのもありますね。あとは、レミオロメンを休止してしばらく経って、ソロ活動も移籍のことがあって空いていた時期もあって。僕自身、社会とか世界に歩み寄っていきたい、ちゃんとコネクトするチャンネルをもう一度作っていきたいっていう思いがすごく強いので、1個のチャンスとは捉えました。この曲を好きになってくれても嬉しいし、この曲を入り口にして過去の曲に出会ってくれることも1個の願いでもあるし。こういうチャレンジの先にあるアルバムにも期待してほしいし。いろんな意味で前向きな要素がパズルとして揃って、シングルという形でリリースしようと思いましたね」

── 作り方を聞いててなるほどなあと思ったのは、サビの部分ってある意味言葉のマックスポイントだけを叩きつけるような歌詞なんだけど、それに対して藤巻くんが作った部分は、聴いてるひとりひとりの日常にスッと降りていきやすい、親切な作りをしてる(笑)。

「親切ね(笑)、それはあるかもしれませんね。サビが強い言葉だったので、それだけだとこの人がどういう背景をもってそう言おうとしてるのかっていうのがわかりづらいなと思ったんですよ。だから、そこを自分なりに見つけていくっていうか。それは親切心からきてる部分もあるのかもしれないし(笑)、あとは、自分自身がこの曲と仲良くなるためにはまず歌詞を書き切ることだと思ったので」

── 歌詞に関してヒントになることはあった?

「《まもりたい》っていうような願望は、無責任だから強いですよね。無責任である強さっていうのは、エネルギーがあるってことだけでそのままそこに置いておけばいいっていう。それはすごく大事だなあと思いましたね。機微に寄ったり、この言葉と言葉の間にある感情は何なんだろうみたいなことを、じっくり探していくほうが好きだったんで。ただ、こうなりたい、こうしたい、みたいなこと――それは生き方にも通ずることなんでしょうけど、それの持ってる力強さっていうのは消えないテーマではありますよね」

── なるほどね。これはサウンドもすごく特殊な曲で。かつては小林(武史)さんの装飾的なアレンジも含めてのレミオロメンサウンドがあって。ソロになってからはそういうものを排除したサウンドが多かったと思うんだけど、今回は声も楽器もキラキラしてるし、空間デザインみたいなものを生かしたサウンド作りになっていて。

「1コーラスのイメージが強かったので、そこを変に削ぎ落とすっていう作業にはならなかったですね。ただこの曲の魅力を引き出していくことに対しては自分の思いがあります。聴いてもらって流れていくのではなく、留まるようにしていくサウンドというか。レミオロメンの頃に、自分の中のポップスの引き出しを開けていって、振り向いてもらいたいっていう思いで駆け抜けてきた頃の感覚っていうのがやっぱあって。それによって、自分の中で消耗した部分も気持ち的にはあったんだけど、でも聴いてもらえる環境が整って、人が集まってくる時に起こる何かっていうか。そういうことに近いものを感じましたね」

── キラキラしてるよね。

「うんうんうん」

── 藤巻くんの声はいろんな魅力があるんだけど、音数の少ないところでワイルドな野性味のある声を放つ時もあるし、こういうアーティフィシャルな空間に入ると、キラキラして色っぽくて、ゴージャス感が出る。最近やってることと対照的でいいと思います。

「うん、そう思います」

言葉になる前の揺らぎとか、形になる前のもののほうがリアルを持って共有できる部分なのかもしれないと思って。そういう感覚を呼び覚まそうというモードがある

── “8分前の僕ら”はどういう感じで生まれてきたんですか?

「これは、1コーラスだけ作ってたっていう意味では結構古い曲で。レミオでは吐き出せない部分を吐露するってところが着火剤になってソロを始めたので、それをやり切るっていうモードが『オオカミ青年』まではあって。だけどそれとは別なところでこういう曲が生まれてきて、その吐き出したいモードの中にはこの曲は入んないなあと思って、1コーラスで取っておいたわけです。で、案の定衝動が成就してから2~3年ぐらい、僕のソロってなんなんだろう?みたいなところで悩んだんですけど、今感じてるままを歌ってけばいいんじゃないって思ってくなかで、この曲をまず作り切ろうと。僕はこの曲すごく好きだし、とても素直に出てきた曲だから、作ってくと何かヒントになるかもしれないし、『大切な人』っていうことをもう1回、ソロワークスの中で考えてる曲ですね」

── 確かにそうだよね。

「タイトルの由来でもあるんだけど、太陽から光が出て地球まで8分間かかるっていう話があって。じゃあ8分前って何してたんだろうとか、8分後ってどうなってるんだろうねとか。ちょっと時間軸を変えると、僕たちが今ここにいることは永遠じゃないかもしれないし、世の中で確かなことって、今まで生きてきた過去と、いつか死ぬっていう未来の約束、そのふたつしかなくて。だけどそのふたつを意識しながら生きてるわけじゃなくて、むしろ今日と同じ日が明日も続くんじゃないかって思って生きてるんだろうけど、1秒1秒進んでくことで永遠が1秒ずつ目減りしていくっていうリアリティがあったら、目の前の時間は大事に君といたいなとか。そういうちょっとずらしたところで思ったことを素直に書けた曲じゃないかなと思ってます」

── すごくストレートな言葉で綴っているんだけども、テーマとしては“大切な人”と深い部分でつながっているっていう。

「そうですね。自分の内側の世界で起きてることも外側で起きてることも、全部言葉にできるわけがないんだけれど、そんな全部に意味を求めていくっていうことに窮屈さもあったし、言葉になる前の揺らぎとか、形になる前のもののほうがリアルを持って共有できる部分なのかもしれないなあと思って。この曲を書き始めたぐらいから、そういう感覚を呼び覚まそうというモードがあるような気はします」

── そしてもう1曲、 “wonder call”。僕これ一番好きかもしれない。

「(笑)。これね、一番最近作ってますね」

── すごい好きなんですけど。

「(笑)。これが一番風通しがいいんですよね。意味とか理由とかに捕われないっていうことなんだと思います。だけどそこに宿ってくるものなんですよね。こうやって話すとまた理屈っぽくなるんだけど、楽しいっていう感覚のままに作ってった曲ですね」

── ひとりでバンドを組んでるような、楽しいだけでやってる感じがして。それがすごくいい形で楽曲になってるなあって思いますね。歌詞も。

「そうですよねえ」

── これ、一番いい。

「あら(笑)」

── 《金と銀の玉込めて/空へ高く打ち上げるんだ》、なんの意味もない(笑)。

「あははははっ」

──《金》だけじゃダメなのかなっていう(笑)。

「(笑)。これ、ツアー中に新幹線の中で携帯で歌詞書いてて。こういうの楽しいなあと思いながら。この感じはすごく今の自分のモードに近いですね」

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