KEMURI、ワールドツアーを経てついに完成! 12thアルバム『FREEDOMOSH』を語る

KEMURI

「多彩な価値観が自由に入り混じったら、もっと楽しくなっていけるのでは?」ということを、リスナーに語りかける最新アルバム『FREEDOMOSH』。身近で起こる様々な出来事、世界各地から伝わってくるニュースと鮮やかに重なる収録曲たちは、何かと負の方向へ進みがちな我々の心にフレッシュな光と風を届けてくれる。KEMURIが長年にわたって追求してきたスカパンクのサウンドのメッセージがさらに極まった今作が生まれた背景とは? 伊藤ふみお(Vo)に語ってもらった。

インタビュー=田中大

主張を示す旗みたいなものをあまりにも掲げてもしょうがないのかなっていうのが、最近あるんですよ

――いろいろな価値観が混じり合うことから生まれる可能性や面白さが、様々な曲で描かれているのを感じました。

「タイトルの『FREEDOMOSH』って『もっと自由に、もっと混ざって、もっと楽しく』っていうことなんです。日本も含めてかもしれないけど、いろんな場所で、どちらかというと『内向きへ、内向きへ』ってなっていってる雰囲気があって。『それはどうかなあ?』って感じるんですよね。あと、KEMURIとしての活動は、もっと積極的に海を渡って国境を越えていく方向でどんどん推し進めていきたいんです。そんなようなことを1年半くらいの間に考えていたのが、このアルバムに反映されたんだと思います」

――ご自身にとっての「音楽」というものを改めて見つめ直して放った感覚もあります?

「そうですね。この年齢になって、そういうことをしたっていうことでもあるのかな? 『音楽をやる』って、何かに対するアンチから始まってるところはあるんだけど、『でも、そうじゃないよな』っていうのが、今はあるのかも。自分が正しいと思うことを音楽で言ってるんだけど、主張を示す旗みたいなものをあまりにも掲げてもしょうがないのかなっていうのが、最近あるんですよ」

――このアルバムは、スカパンクへの愛情を高らかに鳴らしているものにもなっていますね。

「そうですね。再結成して今のメンバーになって4年。やっとバンドっぽくなってきたのも感じますし。『スカパンク』という音楽をずっと同じようなスタンスでやり続けてることによる凄味みたいなのは、入ったと思います」

――例えば、1曲目の“THUMBS UP!”も、スカパンクの気持ちよさの塊だと思いました。始まった瞬間、「来た!」という感覚になりますから。この曲で描かれていることは、作品全体を象徴するものではないでしょうか?

「やっぱり去年のアメリカのツアーの時に反トランプ集会とかを見ましたから、それもこの曲に繋がったんだと思う。ものすごい数の人が集まってたんですよ。主義、主張、人種とか、いろんな背景がある人たちが、それぞれの『自由』を掲げてるのを見て、『アメリカって大変な国だな』ってことも感じました。そういう国で秩序を保つって繊細なことなんだなと。ああいうのを見て、さっき話したような『混ざり合っていく意識』っていうのを持ち続けたいなって思ったんです。いろんな中指を立てたくなるようなこともあるし、憎しみに近い感情っていうのもナチュラルなことですけど、それを何に変えていくのかといえば、親指を立てる“THUMBS UP!”なのかなと。そういう気持ちで作った“HATE”という曲が過去にあるんですけど、それを受けての“THUMBS UP!”ですね。意見の衝突を見ると、みんなで溝を掘り続けてばっかりいるような感じがするんですよ。衝突するとみんなアドレナリンが出まくるから、『その掘った溝をどうやって埋めてくの?』っていうことに目が行かなくなっちゃうんでしょうね。そういうものを埋めるのが音楽なのかなと。スカパンク、KEMURIの音楽をそういうものにしたいなというのも思います。そんな気持ちを全部受けて、このアルバムができたっていう感じです」

茶室みたいなもんだから、ライブ会場とか音楽やる場所って。そこに来たらみんな肩書きも地位も置いて楽しむような場所でしょ?

――“SHOUT”も印象的です。世の中に溝が生まれて分断されてしまうことに対する気持ちを歌っているという点で“THUMBS UP!”に通ずるものを感じました。

「これはすごく力強い曲だったから、そこから感じたリアリティを歌ってます。さらに言うならば『じゃあ日本どうすんだ?』っていう気持ちもありますね。『危機感を持って物事に挑め』って言うつもりは全くないんだけど、それでも敏感に匂いを嗅ぎ取っておかなきゃいけないところもあるように思うんですよ」

――ロックミュージックってライブの光景やサウンドも含めて、混ざり合うことの面白さを体現している面も少なからずあるんじゃないですかね。

「そうですね。茶室みたいなもんだから、ライブ会場とか音楽やる場所って。そこに来たらみんな肩書きも地位も置いて楽しむような場所でしょ? 混ざり合う人がたくさん来る場所だから」

――ライブハウスを茶室に喩えるって、面白いですね。

「でしょ? だからライブハウスの入り口も、茶室みたいに少し狭くすればいいのかもね(笑)。まあ、そういう話をアメリカ人とかにすると、『日本人って、いろいろやることに理由づけがあって鬱陶しくもあるけど面白いね』って言われたりするんだけど」

――今回の“SAKURA”も、海外の人に新鮮なものとして受け止められるんじゃないでしょうか。歌詞でカタカナを多用していて、ユニークな響きが生まれていますから。

「これは歌詞を書いてたある時点から『濁音を使わないでやってみよう』って思ったんです。リズムが激しくて速い曲だけど、柔らかい印象の歌にできたら面白いんじゃないかなと。そういう中で『桜』っていうものが出てきて、季節感を出した方向になっていったんです。アルバムを出すのは春だし、こういうものは今までになかったというのもあるし、新しいトライアルが詰まってる曲ですね。濁音とか破裂音とかがない歌詞ですから、聴いて頂くと今までになかった独特な柔らかさが感じられると思います」

――音楽って、アイディア次第でいろいろ新しいニュアンスが生まれますね。

「そうなんですよ。だって、何をやってもいいんですから。自分がどういう気持ちで、どういうことをやるのかっていうのをすごく試されるというか。我々がスカを始めた時も、『こういう恰好をして、こういうやり方をしてもいいじゃない?』っていうのがありましたからね。ハチャメチャな感じがあったと思いますよ(笑)。そういうのをずっとやってきました。本人たちが好きでやってくと、それはそれで残ってくもんなのかなと。そしてずっとやり続ける中で、さらにやってみたい新しい試みも出てくるもんなんです」

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