2015年、ロックンロールは誕生60周年を迎える。これはロックンロールで最初のヒット曲と言われる“(We're Gonna) Rock Around the Clock”が1955年に全米初登場1位を記録したのを起点とし、そこから数えて60年ということになるらしい。もちろんこれは便宜上の区切りにすぎないけれど、見渡してみれば還暦はおろか、70歳超えの現役ロック・アーティストが幾人も活動しているくらい、ロックンロールが積み重ねてきた歳月は本物だ。

しかし面白いのは、ロックンロールとはいくら歳月を重ねても老いていかないことだ。ジャズやクラシックといったジャンルが歳月と共に高尚な芸術へと変遷していったのに対して、若者の音楽として始まったロックンロールは、今なお若者たちのものであり続けている。DNAが次々に新しい才能へと引き継がれ、その新しい才能たちはポピュラー・ミュージックのカウンターに、ユース・カルチャーの真ん中に立ち続けている。

特に2000年代以降、いくつかのリヴァイヴァルを経て鳴らされる現在のロックンロールは、チャック・ベリーやリトル・リチャードによるロックンロール誕生の原点を、そのよりプリミティヴなR&Bを希求する傾向が強くなりつつある。ザ・ストライプスのように本能的にそこに手を伸ばしたティーンエイジャーもいれば、命題&使命として取り組み続けるジャック・ホワイトのような才能もいる。ロックンロールは常に回帰し、循環する。そしてその循環の中にあって、何度目かの原点回帰のタイミングを迎えようとしている、今はそういう状況にあるのだ。

前述のロックンロール60周年を記念して、6月のジーン・ヴィンセントやエディ・コクラン、バディ・ホリーらのベスト盤を皮切りに、3カ月連続でロックンロール創生期のアーティストたちの名盤や幻盤の一斉リリースが始まる。7月にはストライプスが責任編集したスペシャル・ロックンロール・コンピも控えている。それらを聴くべきはもちろん、ストライプスのように「今」この瞬間にロックンロールに魅了されているあなただ。

(粉川しの)

すべてはここから始まった──
ロックンロール60年の歴史を総ざらい

(テキスト=高見展)

1955年、ビル・ヘイリー・アンド・ヒズ・コメッツがその前年にB面曲としてリリースし、鳴かず飛ばずに終わっていたシングル“ (We're Gonna) Rock Around the Clock”が1年経って公開された映画『暴力教室』でサントラとして使われたことがきっかけとなり、ロックンロール・シングルとして初めてチャート1位に輝く大ヒットとなった。

今では便宜的にこの現象をロックンロールの誕生を象徴するひとつの事例としているが、そもそもロックンロールがどのアーティストのどの曲から始まったかということは判然としていない。当時はロックンロールに関わっていたさまざまなアーティストがそれぞれに自分たちなりの楽曲とレコーディングとパフォーマンスを情熱的に打ち出していた状況があっただけで、総体としてのロックンロールはその結果として出来上がっていったものだからだ。

しかし、ロックンロールが生まれた背景ははっきりしている。ブルースのリズムをより強調したブラック・ミュージックのスタイルが40年代末に成立し、それまでレース・ミュージック(人種音楽)として差別の対象となっていたこうした音楽が白人のオーディエンスにも好んで聴かれるようになり、「リズム・アンド・ブルース」として括られ、一般的に受け入れられるようになったことだ。そして、このR&Bを白人のミュージシャンも好んで演奏するようになり、それをまた黒人のアーティストも吸収しては、新しいアレンジなりインスピレーションなりが絶えず生み出されていくという多数のアーティスト間でのフィードバック現象が起きながら、ロックンロールは形成されていったのだ。そうした黎明期にロックンロールは、ギター・ミュージックとしてのロックンロールを定義づけたといってもいいチャック・ベリーやボ・ディドリー、ピアノとヴォーカルによるスタイルをR&Bやロックンロールとして定着させたファッツ・ドミノ、リトル・リチャード、ジェリー・リー・ルイス、よりカントリーに近い感性でもって爆発的な人気を獲得したエディ・コクラン、ジーン・ヴィンセント、エルヴィス・プレスリー、そして自作曲とバンドというロックの定式を打ち出したバディ・ホリー・アンド・ザ・クリケッツらを輩出し、最初の黄金期を築くことになった。

しかしその後、ジェリー・リー・ルイスの未成年女子との入籍スキャンダルやチャック・ベリーの未成年女子との淫行罪による投獄、エルヴィスの徴兵、バディ・ホリーの飛行機事故死などにより一気に担い手を失うと同時に、ラジオ業界との癒着も摘発され、60年代を迎える頃にはロックンロールは急激に落ち目を迎えることになる。その再生にはザ・ビートルズを筆頭とするイギリスのビート・ロックの台頭とアメリカへの逆輸入を待たねばならなくなった。その間、アメリカではかつてのロックンロールの狂熱とエッジはR&Bやドゥーワップ、ガール・グループやサーフ・ロックらに受け継がれることになる。

以後、ロックンロールはブリティッシュ・インヴェイジョンやパンク・ロックなど大きな変動期を経て現在に至っているが、近年は特にこのごく初期のロックンロールの衝撃や肌触りを大きなインスピレーションとしているアーティストが目につくのがとても印象的だ。たとえば、ジャック・ホワイト(ザ・ホワイト・ストライプス)、ザ・ブラック・キーズ、キティー・デイジー・アンド・ルイス、アラバマ・シェイクスらの試みなどはこの50年代ロックンロールの破壊力だけでなく、R&Bやブルースとの近親関係を今に蘇らせるアプローチを打ち出したものだし、エイミー・ワインハウスはガール・グループなど60年代中期のロックとR&Bを完全に今に移し替えたうえで現代的なテーマを聴き手に考えさせるというアプローチを試みていただけに、以後の試みがどうなっていただろうかと考えるとあまりにもその死が惜しまれる。また、ジェイク・バグやアークティック・モンキーズなどは、この時期のロックンロールによってもたらされ、今に至ってもなおロックの基本アイデンティティとなっている自身の表現とキャリアについての徹底的なDIY精神を見事に今に伝えるアーティストへと育っている。つまり、ある意味で、新しい若いロックンロールの才能を確認するということは常にロックンロールの源流を確認することへと繋がっていくものでもあるのだ。

世代と時代を越えて
今に受け継がれるロックンロール

(テキスト=粉川しの)

The Strypes

ロックンロールの原点、ビートルズやストーンズ以前の、現代の少年少女たちにとってはほとんど神話の域である其処にいきなりリーチした新世代、それがザ・ストライプスだった。平均年齢16歳のデビュー・アルバム『スナップショット』(2013)からはボ・ディドリーの“You Can't Judge A Book By The Cover”やマディ・ウォーターズの“Rollin' And Tumblin'”のカヴァーがばんばん飛び出してきて、ライヴに行けばヤードバーズの“Over Under Sideways Down”やストーンズの“Around & Around”のカヴァーをがんがんやっていて、しかもそれらクラシックスが彼らのオリジナル・ナンバーとまったく並列に聴こえるという、過去と現在がごっちゃになった感覚。恐らく16歳の彼らにとっては60年前のロックンロールも、最新鋭のエレクトロ・ミュージックやヒップホップも、「未知」の刺激という意味では同義なもので、その時代の横断した自由なアーカイヴの中から彼らはロックンロールを自発的に選び取ったということなのだろう。単なる懐古主義ではなく、60年の時を経た発見と冒険のロックンロール、それがストライプスの新しさだったのだ。ここでは最初期のオリジナル・ナンバー“Blue Collar Jane”と最新EP曲“Scumbag City”をご紹介。わずか2年の間に彼らのロックンロールがどれだけ進化したのがが分かるはず。

Jack White

今、最も意識的にロックンロールのルーツに取り組み、再定義を試みているアーティストがジャック・ホワイトであることは間違いないだろう。彼がザ・ホワイト・ストライプスとしてシーンに登場した2000年代初頭、巷のロックンロール・リヴァイヴァル・バンドたちが60年代のガレージ・ロックから多大な影響を受けていたのに対して、ストライプスは最初からさらにその先のR&Bの根っこを厳密に追求していた数少ないバンドだったわけだが、ストライプス以上にそのストイシズムが現れているのが、一連のジャックのソロ・ワークだろう。現在の彼はソングライターとして、ギタリストとしてだけではなく、自身のレーベル「サードマン・レコーズ」の運営も含めてルーツ・ミュージックの発展と監修に大きなかたちで関わり続けている。ここで紹介するのはソロ・デビュー・アルバム『ブランダーバス』(2012)収録の“I'm Shakin'”。リトル・ウィリー・ジョンのカヴァーで「俺はボ・ディドリー」と歌われるこの曲は、ジャックのR&B愛を象徴するナンバーだ。

The Black Keys

さて、そんなジャック・ホワイトにかつて「パクリ野郎」と批判された(その後ジャックは自身の発言を撤回して謝罪)のがザ・ブラック・キーズのダン・オーバックだったわけだが、パクリか否かはともかくとして、ブラック・キーズもまたジャック同様に現在のナッシュヴィル人脈に連なるバンドだ。ロバート・ジョンソン、マディ・ウォーターズらブルースの神のDNAと、ギター&ドラムスのミニマムな二人馬力で無理矢理レッド・ツェッペリンをやっているような破格のプレイヤヴィリティ。そして彼らの功績として何より大きかったのは、ルーツ・ミュージック由来のそれらを完全なるモダン・ロックへと昇華して、実際にビッグ・セールスに繋げたことだろう。最新アルバム『ターン・ブルー』(2014)収録の“Fever”がこちら。

Kitty, Daisy & Lewis

思いっきり50Sでロカビリーなファッション、大きく膨らんだポンパドールやテカテカに撫で付けられたリーゼント、そんな佇まいでキメた彼らが全員未だ10代半ばの3姉弟だったものだから驚いた。しかもこのキティー・デイジー・アンド・ルイス、一番初めにリリースしたアルバムが彼女たち自身で編纂したルーツ・ミュージックのコンピ『A to Z : Kitty, Daisy & Lewis The Roots Of Rock 'n' Roll』だった。ストライプス同様、アーカイヴの質と範囲が前世代とは本当に、まったく異なるのだ。ちなみに最新作『ザ・サード』(2014)では、既に50Sサウンドの枠に捕われない、時代もジャンルもよりマルチ・ミックスなゾーンに突き進んでいるKD& L。ここではバディ・ホリーやジェリー・リー・ルイス、ワンダ・ジャクソン等に影響された彼女たちの原点が最も端的に現れている、“Going Up The Country”のミュージック・ビデオをご紹介。

Amy Winehouse

2000年代以降、今日まで続くネオR&B、ネオ・ソウルのディーヴァ・ブームの火付け役となったのがこのエイミー・ワインハウスだ。エラ・フィッツジェラルドやビリー・ホリデイのジャズ・ポップスからエタ・ジェイムズのR&B、そしてシュープリームスのモータウン・ソウルまで、エイミーの登場によって改めて再評価されたガールズ・ヴォーカルは多岐に渡る。マーク・ロンソンとのタッグによってモダナイズされたそれは、今のエレクトロ・ミュージックのネタ元としてドカンと中心に位置するソウルの先駆けでもあった。さらに彼女が特別だったのは、良くも悪くも往年の歌姫たちの破天荒な人生までトレースしてしまったこと。2011年にジャニス・ジョプリンと同じく27歳の若さで亡くなり、伝説となったエイミー。今年7月には彼女の半生を追ったドキュメンタリー『AMY』がイギリス・アメリカほか各国で封切られる。

Arctic Monkeys

ロックンロールは時を経て常に回帰し、循環する。そんなことを改めて証明したのが10年前にデビューしたアークティック・モンキーズだった。最も象徴的なナンバーは彼らのデビュー・アルバム『ホワットエヴァー・ピープル・セイ・アイ・アム、ザッツ・ホワット・アイム・ノット』(2006)収録の“I Bet You Look Good On The Dancefloor”。チャック・ベリーと60Sガレージ、ガレージと70Sパンク、パンクとオアシス、そしてオアシスとストロークスを繋いで再び振り出しに戻るような、まさに回帰と循環がこの曲の中では行われている。あと、アレックス・ターナーの今のヴィジュアルはまんまエディ・コクランだ。

Jake Bugg

ストライプスやキティー・デイジー・アンド・ルイスのように10代にしてルーツ・ミュージックに直流のアクチュアリティを持つバンドはいるけれど、個人力でやりきってしまった10代はこの2010年代ジェイク・バグしかいない。ブルース、カントリー、フォークの再解釈がここまで混じりっけなくピュアに行われ得たのは、シンガー・ソングライターのミニマムなフレームがあったからこそかもしれない。1曲挙げるとすれば『ジェイク・バグ』(2012)収録、ジョニー・キャッシュが憑依したかのようなカントリー・ロック・ナンバー“Lightning Bolt”だろう。ここでは昨年のT in The Parkでのライヴ映像でご紹介。途中のギター・インプロも圧巻だ。たった1年で確変を遂げた最新作、『シャングリ・ラ』(2013)収録の“Slumville Sunrise”のライヴ映像もあわせてご覧いただきたい。

Alabama Shakes

デビュー・アルバム『ボーイズ&ガールズ』が100万枚超えのセールスを記録、最新作『サウンド&カラー』も全米初登場1位と、間違いなく今最も注目されているソウル・バンドがこのアラバマ・シェイクスだ。ジャニス・ジョプリンとも比較されるブリタニー・ハワードのヴォーカルといい、スライ&ザ・ファミリー・ストーンのファンクやカーティス・メイフィールドやオーティス・レディングのソウルを受け継いだサウンドといい、ルーツ・ミュージックの再解釈だのモダナイズだの言う以前に圧倒的な「本物」として厳然と存在する、そんな凄みがこのバンドにはある。ここでは最新アンセム“Don't Wanna Fight”のライヴ・セッション映像を。

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