名古屋発ピアノトリオ・Qaijff、渾身の最新作『snow traveler』を語る

Qaijff

今年4月にリリースした『Life is Wonderful』は、Qaijffのポップマジックが炸裂し、多面的なバンドサウンドと歌を展開した、バンド史上でも重要な作品として位置付けられる1枚だった。そして2016年12月7日(水)にリリースする1st EP『snow traveler』は、冬の失恋ソングというポップスとしてのど真ん中にありながら、一筋縄ではいかないコード進行やアレンジへのこだわりなどQaijffの持ち味も存分に堪能できる作品である。森彩乃(Vocal・Piano)が、少し大人びた憂いを含んだ歌声を聴かせるこのリード曲は、バンドの間口がより大きく開いた、全方位に届くポップミュージックとして洗練された魅力を放つ。この1年、大きな飛躍を遂げた彼らが今年最後に放つこのシングルについて、またQaijffの未来について、3人にじっくり語ってもらった。

インタビュー=杉浦美恵

俺たちはこうあればいいっていうのが見えたんです

――4月に『Life is Wonderful』という多くの人に受け入れられるアルバムをリリースして、その後はバンドに変化はありましたか?

内田旭彦(Ba・Cho・Programming) 昨年は年間100本以上のライブをやって、今思えば、今後どういう音楽をやるかを模索していた時期だったんです。でも、あのアルバムを作り終えて確信が芽生えて、曲もライブも、俺たちはこうあればいいっていうのが見えたんです。それがお客さんにも伝わって、Qaijffは曲の雰囲気が変わったねって言われたり、ライブに足を運んでくれる若い人が増えたように思います。

――これまでとは違ったお客さんが?

内田 そうですね。名古屋グランパスのサポートソングも作らせてもらって、今までライブに行ったことがない、週末はスタジアムにスポーツ観戦に行くというような人たちが、「初めてライブに来ました」みたいなことも増えて、それは嬉しかったですね。

――さっき言ってた、バンドとして「こうあればいい」という確信って、どんなものですか?

内田 今までは音楽ファンに対して、音楽的にちゃんと理解して評価されたいという気持ちがすごく強かったんですよ。そっちのほうに意識が向いていたような気もしています。でもそれ以上に、音楽も楽器もやったことがない人に、「よくわかんないけどかっこいい」とか、「なんかすごい感動した」って思わせるほうが、僕たちには高いハードルだと思えたし、難しいと思えたんですよね。だから、そっちのほうが楽しいなと思って。音楽のハードルを下げたように思われるかもしれないんですけど、『Life is Wonderful』は、音楽的にも評価してもらえたし、それ以上に、「理屈はわかんないけど感動した」って思わせる方向にベクトルが変わってきた感じです。

――森さんも同じ思いでしたか?

森 そうですね。ほんとにグランパスの曲がいいきっかけになって、もっといろんな人に聴いてもらいたいって思いました。私たちのことを知らない人たちや、音楽にあまり触れてこなかった人たちにも「しっかり届くものを作らなきゃ」っていう状況になったことが、それに気づかせてくれたと思います。無理してそうしたんじゃなく、自然にそうなれたんだなって。

三輪幸宏(Dr) 『Life is Wonderful』は間口を広げた1枚になったと思っていて、ライブもそれに添うように変わったと思うし、お客さんの反応的にも、言葉を選ばずに言えば、よりポップスに近づいたような曲が集まったと思うんですよね。それをどう捉えられるのか不安もあったんですけど、返ってくる反応もすごくよくて、それで自分たちの向かう方向性が明確になったような気がします。

新しいチャレンジだったというより、ピュアにやりたいことをやってみたという感覚のほうが近い

――その手応えと確信を得て、今回のEPはどういうものにしようと思いましたか?

内田 前作でよりポップになったとよく言われたんですけど、そういうことをやりたかった自分たちがいたんですよね。以前なら、自分たち的にはNGだろうと思っていたことでしたけど、やってみたらすごくしっくりきて。新しいチャレンジだったというより、ピュアにやりたいことをやってみたという感覚のほうが近くて。だから今回のシングル『snow traveler』のリード曲は、女性の失恋ソングなんですけど、そういう曲も、もともとやりたかったし書きたかったことなんです。

――ポップミュージックとしての普遍的な魅力に溢れたサウンドです。

内田 森はQaijff以前はシンガーソングライターをやっていて、そういう楽曲をやっていたこともあるし、もともとはこういう曲にはバンドっぽさを感じていなかったんですよ。でも、よりピュアなものを届けたいっていう思いで作った曲なので、バンドっぽさとか「こうしたい」っていうよりも、自然にやりたいことのほうに進んだら、今回のようなポップスになったという感じです。

――12月リリースの作品だということは、意識して作ったんですか?

内田 季節感のある曲が好きなんです。バンドマンの視点から言えば、リリースする季節を意識したような曲には拒否感があるのもわかるんですよ。でも俺たちはそういうのが逆にいいんじゃないかって思えるし、今回は冬の曲を作りたいなと。

――ポップミュージックの世界で言えば、冬の定番ソングってたくさんあるし、そういう古き良き感じも狙っているのかなと思ったんですよね。

内田 そうですね。今回の冬の失恋ソングっていうのはやりたいことの中のひとつでしかないんですけど、例えばイルカさんの“なごり雪”は、伊勢正三さんが作った曲ですけど、イルカさんが歌うことによって、より多くの人に伝わった曲だと思うんですよね。男の人の失恋ソングを、イルカさんっていう素晴らしい語り手さんが長く伝えてくれた曲っていうイメージがあって。ポップスって、そういうものだと思っていて。だから“snow traveler”に関しては、そういうイメージで作りました。

――作詞も内田さんの手によるものですが、もちろん森さんが歌う前提で書かれてるんですよね?

内田 そうです。でも今回はレコーディング直前までできていなくて(笑)。完成はしてたんですけど悩んでしまってんです。どの曲も、森が歌うっていうことを想定して書いているんですけど、主語は「僕」のほうがいいのか「私」のほうがいいのか、ストーリーとしてどっちのほうが正しいのかっていうのがわかんなくなっちゃって、正直、むちゃくちゃ難しかったんですね。

森 いやもう、さんざんみんなで「どう思う?」とか。私は歌い手としてはこう思うけど、みんなはどうだろうとか、直前まで悩みに悩みまくって完成しました。主語が「僕」なのか「私」なのかっていうのがいちばんの悩みどころで、結局「私」にしたんですけど、「私」にしたら、ここはこう変えたほうがとか、そういうところでギリギリまで悩んでましたね。

三輪 レコーディング当日に、認識の違いが発覚したんですよ。作った本人は、完全に女性目線で作ってたつもりなんですけど、ふたりは、女々しい男子が主人公だと捉えていた。で、その認識の違いで、また悩むことになったんですよね(笑)。

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