アイリッシュ・パンクの雄が
7thアルバムで得た絆とは

1999年の活動開始以来、アイリッシュ・パンクの陽気さと哀愁を武器に、アコーディオンやティンホイッスル、マンドリン、バンジョーなどを取り入れた華やかな演奏で魅了してきたTHE CHERRY COKE$。2014年5月のワンマンライヴをもって初期メンバーであったHIROMITSU(B)、そしてKOYA OGATA (Whistle・Trumpet)が脱退したが、新たにLF(B)を迎えた新体制でついにニューアルバム『THE CHERRY COKE$』を完成させた。7枚目にしてセルフタイトルが付けられたこのアルバムが、とてつもなく素晴らしい。今まで以上に音を削ぎ落とすことで、彼らの根底にある自分たちだけの強みを浮き彫りにさせ、これがTHE CHERRY COKE$なんだ!とストレートに伝わってくるのだ。なぜそうなったのか。バンド内で話し合い「何がTHE CHERRY COKE$らしさなのか」を突き詰めていって導き出したその答えを、KATSUO(Vo)、MASAYA(G・Cho)、TOMO(Accordion・Key・Vo・Cho)の3人に訊いた。

インタヴュー・撮影=石井彩子

KATSUO: 新しい体制で続けようって決めたからには、「もう1回イチからTHE CHERRY COKE$っていうバンドを始めるんだ」っていう気持ちでやったほうがいいんじゃないかと俺は思って、初めて話し合いをしたんですよ

── 今作をセルフタイトルにした理由は、メンバーの脱退を乗り越えて、原点回帰した音だからこそっていう思いもあったりしますか?

KATSUO 今回、CDとメンバー脱退の日のDVDが付いてるんですよ。新旧の交わりもあるし、さらに自分たちの「こっからもう1回THE CHERRY COKE$始めるんだ」っていう意思も出したかったし。すべてにおいて今のこの状況がTHE CHERRY COKE$なんだっていうのを表現したいなっていう時に、やっぱ1回しか使えないじゃないですか、セルフタイトルって。「今かな」と思ったし、原点回帰というよりか、THE CHERRY COKE$16年の歴史の中のスタートでもあり、1コの節目でもあってすべてを表現するためのセルフタイトルっていうことなんです。満場一致ですぐ決まったよね。

MASAYATOMO うん。

TOMO でもセルフタイトルって1回しか使えないんですか?

KATSUO まあ、『THE CHERRY COKE$ 2』とかね(笑)。

全員 ははははは

KATSUO 「またやりやがった、コノヤロー!」って(笑)。

MASAYA (笑)過去・今・未来みたいな、そういう統括した意味での『THE CHERRY COKE$』っていう。今生きてるのも歴史だし。

KATSUO 新しく変わったからって過去をないがしろにするのは嫌なんですよ。今まで自分たちがやってきたこともウソじゃないし、こっからまた新たなスタートだけど、過去もありつつっていうところで捉えてもらえたほうが、よりバンドのおもしろさが伝わんじゃないかなあと。

── なるほど。

KATSUO 正直なところ、そこまでディスカッションして1コの作品を作り上げるっていう心の余裕がなかった部分もあるし、長年やってると言わないでもお互いわかっちゃう部分とかあるじゃないですか。「ほんとはこういうことをしたほうがいいんじゃない?」っていう話が進んできてる部分もあったんですよ、ここ何年か。だけどメンバーチェンジして新しい体制でもう1回続けようって決めたからには、もう1回ちゃんと自分たちのことを見つめ直して「何をやるべきなのか」とか、やみくもに「メンバー変わったけど続けます」っていうのだとあんま意味ないと俺は思ったし、やるからには「もう1回イチからTHE CHERRY COKE$っていうバンドを始めるんだ」っていう気持ちでやったほうがいいんじゃないかというところで、結構話し合いして。

── リスタートを切るために「THE CHERRY COKE$はどういうバンドなのか」っていうところを見つめ直す作業や話し合いをしている時、どういうキーワードが具体的に出てきたんですか?

MASAYA 聴いた時の灰汁っていうか。THE CHERRY COKE$って元からポップではあると思うんですけど、ここ最近ポップさが灰汁のないほうになってきてたことはあるんですよ。でも俺らって日本のバンドシーンのなかで「もっと灰汁強かったんじゃね?」って。そういうことですかね、まず最初は。

KATSUO 常にバンド側も作品を作るのに自分たちの中の音楽の流行りだとか「今これやりたい」とかってあるじゃないですか。それを無意識のうちに時流に寄せてってる部分があるのかなあっていうのが正直あったんだけど、そこはTHE CHERRY COKE$には必要ないとこなんじゃないかなっていう。最近はへヴィなサウンドが流行ってるから、音作りとかに関して「そういうほうがお客さん聴いてくれるのかな」って考えたりもしたけど、計算したってうまくいくようなバンドじゃないし。「もっと違う持ち味があったから今まで評価してもらえた」っていうとこで、「だったら、そっちを伸ばしてったほうがいいんじゃない?」っていう。それがTHE CHERRY COKE$らしさ――陽気さとかアイリッシュとかケルト音楽の持つ哀愁みたいなものっていうのは他のバンドはやってないというか。で、一朝一夕でできるもんでもないんだから、そこは自分たちの強みと思ってやったほうがいいと思うし。それが結局THE CHERRY COKE$らしさというか。

MASAYA: 自分が出した/乗っけた音にさらに歌が乗ってとか他の楽器が入って、「こういうアレンジ? いいね、それ」みたいな。そういうバンドらしい楽しみもできた初めての作品じゃないかな(笑)

── 自分の中の大元にあるものを突き詰めていったっていう。

MASAYA メジャー2作(5thアルバム『BLACK REVENGE』と6thアルバム『COLOURS』)のうち特に1作目は、海外のバイキングメタルとかに負けたくないっていうのもあったから(笑)、ちょっとへヴィな感じだったりしたんですけど。でもKATSUOさんがさっき言った「THE CHERRY COKE$ってこうだったよなあ」みたいな話し合いをみんなでして、アレンジしてる時もみんなで「こういうのがいいんじゃない?」「でも、こうのがいいんじゃない?」っていうディスカッションの応酬というか、それも今までなかったんですよね。ポンって置いて、なんとなくみんなで肉付けして「できた!」だったんですけど、それを「私、こうがいいと思います」「俺はこうがいいと思うんだけど」っていう。当然ぶつかる時も出てくるんですけど、今までそういうことをしてなかったからそれは大きいですね。いっても、阿吽の呼吸っていい意味でも悪い意味でもあると思うんですよね。「こう言ったらこう返ってくるかな、あいつは」とかっていう人間の付き合いってあるじゃないですか。でも今回は本当にみんなが出した曲をみんなで調理して、みんなが思ってたものを超えられる、ほんとバンドらしい――自分が出した/乗っけた音にさらに歌が乗ってとか他の楽器が入ってとか「こういうアレンジ? いいね、それ」みたいな。たとえばアコーディオンとかでも"RISE AGAIN"でそうだったんですけど、Bメロで使ってるアコーディオンの音色をちょっと変えたりしてるんですけど、それをプリプロでTOMOちゃんが入れてきて「この音何?」「これいいね! これで本番やろうよ」とか、そういうバンドらしい楽しみもできた初めての作品じゃないかな(笑)。

── 今までやってきたなかでそれぞれの手癖ってあると思うんですよ。それがディスカッションを重ねることでまた新しく変わっていったっていうのもあるんでしょうね。TOMOさんは手応えとしてどうですか?

TOMO アコーディオンだと、今回は結構自分の思う通りに弾けてますね。今までは鍵盤の限界を超えたみたいなフレーズを無理やり弾いてたりとかして(笑)。

MASAYA ははははは。

TOMO 「絶対無理!」みたいな。でも「無理」って言うと「なんで無理なの?」っていう感じだったんですよ、今までは。「じゃあ弾いてみろよ!」って思うんですけど(笑)、「それはアコーディオン弾きだから当たり前でしょ」みたいな。でも普通に考えたらあり得ないですよね、あの連打。

── 確かに(笑)。

TOMO 「無理、無理!」って言ってんのに「弾けなきゃ困るから」みたいな。で、むっちゃ練習して。でも今回はそういうのはMASAYAさんわかってるから、「鍵盤だと厳しいから、ここはこうでいいよ」って言ってくれて、伸び伸びできましたね。

MASAYA 弾いてきてくれたやつ全部が「いいね、いいね」っていう。2曲目の"MAGICAL FANTASY"はアコーディオンが主役なんですけど、それのバッキングとかが僕が望んでたフランスのミュゼット系のアコーディオンの、その感じの音使いだったりとか優しい感じだったんで、さっき言ったバンドの良さじゃないですけど、想像以上のものがきたからその時は言いましたけどね、「めっちゃいいね」って。

TOMO 夜中にメールが来て。何も言ってなかったから「大丈夫なのかな」と思ってたらMASAYAさんから「いいね!」って来て「よかったー! 間違ってなかった」って(笑)。

MASAYA それがバンドなのかなあって。

── 自分の感覚を真正面からぶつけることで相乗効果が高まっていったんですね。自分を曝け出すというか。

TOMO 今はそうですね。前は……レコーディングが嫌すぎて1回失踪したことがあって。

MASAYA 言っちゃう、それ(笑)。

TOMO はははは。プレッシャーがハンパなくてちょっと失踪したんですけど、今回は楽しくできました。

── 相当ストイックだったんでしょうね。

MASAYA ストイックすぎたとこはありますね。だからこそ海外でも引けを取らないクオリティのものができたとは自負してるんですけど、それがあったからこそ今すごくニュートラルにできてるとも思いますね。

── 『BLACK REVENGE』がすごく攻撃的なアルバムだったからこそ、『COLOURS』は肩の力を抜くことができたと思うんですけど、今回のアルバムでは、また別の意味でのTHE CHERRY COKE$の本質を率直に見せられるようになった作品なのかなとも感じてて。

KATSUO その通りですね。

MASAYA あの2作がなければ今作もないと思うんですよね。不思議なもんすけど。

── 「らしさ」を追求するために音を削ぎ落としていった感もあるんですが、実際どうですか?

KATSUO ありますね。

MASAYA 今までは足してく感じだったから。

TOMO 「入れて、入れて、入れて、入れて」みたいな。

MASAYA 今回は「いらないでしょ。いらないでしょ。いらないでしょ」みたいな、「ここは誰が主役」とか。

TOMO 今までは上モノが3人いたからごっちゃごちゃになってたんですよ。

── それが濃い曲になってったんですよね(笑)

MASAYA そそそ、こってり(笑)。今、他の対バンの人とか「むちゃくちゃいいね」って言ってくれるんですけど、音数が減ったからどうこうじゃなくて、「はっきりしてる」って言うんですよね。みんなのディスカッションで削ぎ落とした結果がすごくシンプルでいいなと思います。

KATSUO 単純にメンバーがひとり減ったっていうのもあるんですけど(笑)、明確に打ち出すんだったらそんな小難しいことをしても伝わりづらいかなっていうのも感じてた部分ではあるし。音数とか曲というよりかはバンドの雰囲気、バンド内の今すごくいいグルーヴの中でライヴをやれば、それのほうがお客さんには伝わるというか。もしかしたらクオリティは落ちてるかもしれないけど、でも「それでいいや」っていう気持ちでやってるし、それよりか強いつながりでバンドやってるからそっちのほうがいいかな。だから肩肘張らずにというか、意地は張ってるんすけど、それでもガチガチになって「いいライヴしてやる!」ってよりかは、昔みたいに楽しんでライヴができるようになってるというか、そんな感じなんですかね。だから難しいことしなくても怖くないし。

── テクニカルなことをしないと俺たちはダメなんだっていう恐怖が昔はあったんですか?

KATSUO あったかもしれないですね。「怖さ」というか、対抗心というか。同世代の連中もそうだし、今のシーンだったりにしてもそうだけど、どっかしらに対抗心というか。もちろんそれは今もあるんだけど、その対抗心が「同じ土俵で戦わなきゃいけない」っていうような気持ちだったのが、今は話し合って自分たちで方向性が見えてきた部分で「らしさ」を表現すれば、それが自ずとシーンの中でTHE CHERRY COKE$っていうものを確立していくんじゃないかなっていう気持ちになったんで、すべてにおいて気持ちが落ち着いたのかなって思いますね。みんなが個人個人ストイックにやってたのも、もしかしたらその段階でディスカッションしてたら変わってたかもしれないし、それすらできない状況というかそれぐらいピリピリもしてたし。だから1回リセットしたことによってすごく今雰囲気がいいから、そういうのがシンプルさとかにもつながってくるのかな。「意地張らなくてもう大丈夫だよ」「それぞれが今できることをやったらいいんじゃない?」っていうスタイルなんじゃないかな、今回は。

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