The fin. 最新作『Through The Deep』で再び浮かび上がる、そのユニークな感性

The fin.

研ぎ澄まされたハイブリッドな音像の中に脈打つ、バンドアンサンブルの肉体性。あたかも達人の一筆書きの水墨画を見ている時のような、シンプルなフォルムの中から情景のディテールがヴィヴィッドに浮かび上がってくるようなマジカルな音世界……洋楽インディーロック/ポストロック/アンビエント/エレクトロなど多彩な要素を解体・再構築し、歌謡的なポップス感とは真逆のアート空間を描き続けている、神戸発の4ピース=The fin.。アルバム『Days With Uncertainty』(2014年12月)から1年3ヶ月の間に、SXSW出演とその直後のNY・LAなど計8公演のアメリカツアー(2015年3月)、香港・バンコク・台湾・上海を巡るアジアツアー(7月)、全3公演のロンドン公演(11月)といった海外でのライヴ経験を通して、日本のシーンにおける自らの特異性と音楽的アイデンティティを再検証し改めて確信した彼らの「今」が、新作EP『Through The Deep』には鮮やかに息づいている。前回アルバム時の「上京物語」的インタヴューに続き、昨年1年間の「越境物語」を巡る想いを4人に訊いた。

インタヴュー=高橋智樹 撮影=小川智宏

自分という軸があって、必要な音だけを必要な楽器を使って入れていって、最終的にそれがバンドになっていくっていう方法論になってる

――アルバム『Days With Uncertainty』後初の作品というところで、どのようなヴィジョンなりコンセプトを持って制作に臨んだんでしょうか?

Yuto Uchino(Vo・Syn・G) このEPを作る予定は最初なくて、普通に曲を溜めてたんですけど。ここに入ってる曲がほとんど1年ぐらい前、1stアルバムを発売してからすぐに作った曲で。その時にいろいろ実験してて――サウンド面でも機材面でも、オーガニックなところとエレクトロなところを混ぜるっていうのを結構やってて。でも、いざ実際にやってみると、自分ってオーガニックなところが強いんやな、っていうところがあって。昔からエレクトロニカも聴いてるけど、どっちかって言うとサンプリングミュージックのほうが俺は好きで。つるっとしたテクスチャーっていうより、もうちょっとザラッとした、アナログな質感のエレクトロを聴くことが多くて。自分のやりたいことはそっちなのかなあっていう方向に、だんだん向かっていったというか、そういうところに気づけた曲が今回は入ってて。“Through The Deep”と“Heat”っていう曲は、夏ぐらいにできた曲なんですけど。こっちはもう、本当にもう2ndに向かってる曲になってて、他の曲とは自分の中では違うかなあと。

――エモーショナルに弾きまくる方法論とは対極の、1音1音大事なツボだけを鳴らしていくスタイルっていうのは、ギター/ベース/ドラムそれぞれに苦労があると思うんですけど。

Ryosuke Odagaki(G) もともと「何がバンドにとって一番いいか」っていうのを大事にしてて。自分がエモーショナルになるより、一番曲が良くなるのはどこのツボか、それがYutoの世界観に合ってるかっていう――そこをどれだけ汲み取れるかって考えてたので。

――そのツボを当てるのが大変ですよね。あさっての方向に向けて音を出してもしょうがないし、「この辺に投げれば当たるだろう」っていうアバウトなものでもないし。

Ryosuke でもまあ、失敗したら「失敗してる」って言われるんですけど(笑)。曲によってはもう、デモの段階で「音楽としてこうやで」っていうのがあって、それを基にやってたりもしますね。

Kaoru Nakazawa(Dr) 1stアルバムの時は結構シンプルなフレーズの曲ばっかりだったんですけど、そのアルバムの終盤あたりの時期から、普通じゃないビートの曲が出てきて。シンプルなやつはわりと、勢いでガッとやれたりするんですけど。その中でもちゃんと、当てるところに当てるっていうか、そういうことは意識してますね。

――去年3月にSXSWに出演した時には、今回のEPの何曲かはできてたっていうこと?

Yuto SXSWの時はもうできてましたね。まだ録ってはなかったですけど、原曲はできてました。結構1stの後半あたりから、俺がしっかりデモを作って、全パートの基本的なところはアレンジするようになって。で、そこからみんなにそれを聴いてもらって、各々の解釈でプレイしたり、っていう感じになってて。そういう意味で、すごく音を入れやすくなったというか、自分の曲に対して。全部の楽器が自分で見えるので、必要なところに必要なものを入れるっていう――楽器ごとにパラレルに進んでるんじゃなくて、自分という軸があって、必要な音だけを必要な楽器を使って入れていって、最終的にそれがバンドになっていく、っていう方法論になってるんで。だからそういうことができたのかなと思いますね。ひとりひとりがアレンジをしていくと、それはそれで面白いんですけど、やりすぎてしまうというか、しつこいというか――。

Takayasu Taguchi(B) 難しいよね、そういうの。ぐちゃっとなっちゃう、どうしても。

Yuto そうそう。だから、生み出される発想は結構エレクトロニカ的なんかなあって。でも、普通のエレクトロニカはそれで終わるところを、一回そこからフィジカルに入っていくんで。最終的に俺たちが辿り着くところはたぶん、すごいフィジカルなところなんですよね、バンドなんで。

日本のシーンに合わせに行ってないっていうのは、自分でも思う。それはもう、The fin.を始めるにあたって振り切れたとこかなあって

――去年はSXSWからUSツアーがあり、アジアツアーがあり、ロンドン公演がありっていう、海外公演の経験が積み重なった1年でしたけど。海外の人の前で演奏を聴かせるっていうのは、The fin.にとっては願ったり叶ったりの出来事だったんじゃないですか?

Yuto 最初SXSWでライヴした時、すごく「いいなあ」っていう感触があって。そこからアメリカを回っていくと、ほんまにめっちゃいいライヴとかあって、ほんまにめっちゃ盛り上がって。「日本ではこれはないよなあ」っていう経験がたくさんありましたね(笑)。いろいろ違いを感じましたね、土壌の違いとか。だから逆に、日本に帰ってきてライヴした時に、衝撃的なくらいに「あれ?」ってなって(笑)。向こうではほんと毎日ライヴやってたんで、俺らのライヴの作り方もそっちで固まってきてたんですよね。それが日本に帰ってくると、全部意味がないっていう。

Ryosuke・Taguchi・Nakazawa (笑)。

Yuto まったく方法論が違うんで。その時に俺は結構、日本でライヴする難しさに気づいて……で、アメリカの後にすぐ日本でワンマンがあったんで、「その時までにどうにかして、いいライヴを日本でできるようになりたいな」と思って、そこからみんなで向かっていって。ワンマンはすごくよかったんですけど、そこから今度アジアツアーがあって。アジアに行くと、また海外のエナジーを感じて、またもう一回おかしくなって(笑)。それを繰り返してる感じでしたね。日本には日本のやり方があるし、海外には海外のやり方があるし。それを俺たちが、もっと経験を積んでわかれば、たぶんいい形でできると思うんですけど……でもやっぱり、ひとつのライヴでも、向こうはそれぐらい違うんで。

Taguchi 音楽に対する概念がちょっと違うなあっていうのは結構感じましたね。

Ryosuke 実際に海外でライヴをやったから、その違いを肌で知れたっていう。善し悪しじゃなく。

――なるほどね。むしろ海外のお客さんにはハマるだろうなとは思いましたけど、それによって日本に戻ってきた時の逆カルチャーショックみたいな状態が、想像以上にあったわけですね。

Yuto ありましたね。ほんとに「日本でライヴしたくない」って駄々をこねだして(笑)。「俺、今すぐイギリスに引っ越す!」とか言って、マネージャーにちょっと怒られるっていう(笑)。

――音楽の構造自体が明らかにアメリカ/イギリス寄りですからね。歌謡とかポップスの発展形としてロックがある日本の音楽とはだいぶ違うし。

Yuto そうですね。たぶん、音の感じ方とかも全然違って。そこが決定的な違いでしたね。

――逆に言うと、むしろ世界のスタンダードに近いThe fin.の音楽の空気感が、ローカルルールだらけの日本でよく生まれたなあと思うんですけど。

Yuto まあ、普通にすごく洋楽を聴いてたっていうのが一番でかくて。あまり誰かから音楽を教えてもらったことがなくて、全部作品が教えてくれたっていうか。それはすごく自分の中でも、敏感に感じ取ろうとしてたっていう。「ここにないもの」みたいなアンテナは、人一倍あったかなって。やっぱりそれが、実際に自分で行った時に「間違ってなかったな」って思ったし。

――そのアンテナが、日本に戻ってきたら「あれ?」って戸惑ったわけですね。

Yuto 俺はそれを「チューニングが狂う」って言ってるんですけど。

Taguchi ドロップD?

Yuto ドロップDぐらいやったらまだいいけど、完全な変則チューニングやから(笑)。

――(笑)。でも、そこで「じゃあ、日本のローカルルールと海外のスタンダードとの折衷案を探っていこう」っていう思考じゃなくて、「自分たちは自分たちの音を追求することで、その先に行くしかない」っていう割り切りも生まれてる気がするんですよね。

Yuto そうですね。結構俺たち、たぶんマイペースにやってて、あんまりそういう外のことは気にせずに、自分たちの追求したいことを追求してるっていう感じなんで。そういう意味では、あまり気にしてないっていうか、日本のシーンにも合わせに行ってないっていうのは、自分でも思いますね。それはもう、The fin.を始めるにあたって振り切れたとこかなあって。何と言うか、「こういうことをやって売れよう!」みたいなことは別にどうでもよくて。ただ、良い音楽を作って、その結果として売れたら、それはいいかなあって。「良い音楽を作りたい」っていうバンドなんで。

――エンターテインメント性の前に、まずはアートとして成立してるべきだっていう。

Yuto そうですね。うん。

――「アートな要素がある」バンドはいても、まず「純粋にアートである」ことを目指すバンドって、日本ではどうしてもマイノリティーですよね。海外だとちゃんと居場所があるけど。

Yuto あんまりアートを大事にしないっていうか、基本的に。

Taguchi でも、それで諦めたら面白くないよね。

Yuto 確かに、フェスとか行くと、そういうエンターテインメント性みたいなものはあるなあと思うし。EDMとか、言ってみればアトラクションじゃないですか(笑)。それはそれでいいし、楽しいこともあると思うんですけど。俺がやるのはそういうことじゃないから。それはもう、The fin.作った時から――今よりふわっとしてたとは思うんですけど、その時から迷いは全然なくて。活動に対する迷いとか、バンドに対してとかはありましたけど、何かを作るっていうことに対しては、もう見えてたんで。それがだんだん、海外に行ったりとかいろんな経験を経て、自分の中でより確立されていってるのかなって。今回のEPはほんとに、1stの後の変異の過程がちゃんと残っていってる感じがしますね。

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