the band apartの結成20周年を記念したトリビュートアルバム『tribute to the band apart』がリリースされた。ストレイテナーやゲスの極み乙女。、KEYTALK、坂本真綾など、バンアパに縁のあるメンツが世代を超えて集結した今作は、それぞれに確固たるオリジナリティを築き上げている個性豊かなアーティストらのカバーを通じて、バンアパという稀代の音楽集団が鳴らす楽曲の構築美と奥深さを改めて浮き彫りにする1枚になった。今回の特集では、トリビュート盤に参加している盟友FRONTIER BACKYARDとASPARAGUS、そしてthe band apartのメンバー全員を迎えて、総勢9名による貴重なスペシャル座談会が実現。トリビュート盤の制作秘話を肴に飲みながら、バンアパの20周年について、今のロックシーンや若手バンドについて、ざっくばらんに語り合ってもらった。
インタビュー=秦理絵 撮影=山川哲矢
先輩として、僕らのことを理解してくれようとしてるんですよね(the band apart・荒井)
――お互い会うのは全然久しぶりじゃないですよね?
原昌和(the band apart/B) そうですね。このあいだもフェスで物販が隣だったんですよ。その時、僕らの到着が遅れてたら、田上(修太郎/FRONTIER BACKYARD/Vo・Syn)さん(以下、TGMX)が、「もうちょっと時間がかかりますよー」って仕切ってくれてたんです。貼り紙を作ってくれて(笑)。
TGMX すごいお客さんが来てたからね。
荒井岳史(the band apart/Vo・G) ありがとうございます!
TGMX 友だちですから!
――今回はバンアパのトリビュートアルバム『tribute to the band apart』に参加している盟友が集結したということですけど。それぞれ本当に付き合いは長いですよね。
原直央 (ASPARAGUS/B) もともとASPARAGUSを組む前に、(渡邊)忍(ASPARAGUS/Vo・G)がやってたCAPTAIN HEDGE HOGが、the band apartと仲が良くて。ASPARAGUSができた時に、バンアパがいちばん最初にライブに誘ってくれたんです。(バンアパのほうが)年齢は下なんですけど、バンド歴は上で。あいつらがかっこいいことをやってるんだから、俺らもがんばらなきゃなって刺激をもらってます。俺たちの機材車が盗まれた時には、お古のハイエースをくれたこともあったんですよ。ちょうどバンアパが機材車を乗り換える時期だったんですけど、たぶん下取りに出したら、それなりに値段がつくであろうハイエースを。あれから俺ら、どれぐらい乗ってる?
一瀬正和(ASPARAGUS/Dr) 20万キロぐらいでもらって、今ちょうど40万ぐらい。
原(直) 40万!
TGMX そんな走るんだねえ。
原(直) その時にバンアパが新しく買った機材車よりも、もらった機材車のほうが長く乗れるようにがんばろうって言ってますね。感謝しても、感謝しきれないバンドです。言われればなんでもします。
一瀬 そうね、なんでもするよね(笑)。
――フロンティアは、バンアパ20周年ということで思い出すエピソードはありますか?
TGMX 最初にバンアパに会ったのは、もらったデモを聴いた時なんですけど。ボサノバのバンドっていう噂だったんですよ。でも、ボサノバのバンドにしては激しいなって。
全員 あはははは!
TGMX たしかに1曲目ボッサ調で始まる曲ではあったんですけど。そのデモがすごく良くて、僕と(福田"TDC")忠章(FRONTIER BACKYARD/Dr・backing vocals)くんと、僕らが前やってたSCAFULL KINGっていうバンドのメンバーと一緒にライブを観に行って。すごく良かったんですよね。で、次の日にラーメン屋に行ったら、そこの店員が「昨日、バンアパに行った」って話してて。
木暮栄一(the band apart/Dr) へえ~。
TGMX 「もう人気があるんだ!」と思って。まだリリースもしてない時ですよ。それで、友だちになりたいと思って、新宿の居酒屋に無理矢理誘ったっていう。もう拉致ですよ(笑)。
木暮 ありましたね(笑)。
荒井 あれ、めちゃくちゃ喜んでたんですよ。
川崎亘一(the band apart/G) だけど、待たせちゃったんですよね。当時の(新宿)アンチノックのブッキングマネージャーに「今日のライブは……」っていう話をされてて。
TGMX 反省会みたいなやつ?
川崎 それがあまりにも長いから、「今日、SCAFULL KINGのメンバーが観に来てくれてて、今、居酒屋で待ってるんですよ」って言ったら、「早く行けよ! バカ!」って言われて。
TGMX で、仲良くなったのが始まりですね。そこから、アルバムをリリースするごとに必ずツアーに誘ってくれるような関係が続いてますね。
荒井 その飲み会のことはすごく覚えてます。とにかく舞い上がってた。メンバーにスキャフルの音源をテープとかでもらって聴いてて、「うわ、すごい!」ってなってたから。ただのファンですよね(笑)。
――今までたくさんのバンドに出会ってきたと思いますけど、バンアパ、アスパラ、フロンティアの結びつきって本当に強いですよね。どうして、そこまで仲がいいんですか?
TGMX 単純に好きだから、かな。
荒井 先輩として、僕らのことを理解してくれようとしてるんですよね。どっちかと言うと、僕らはそんなに社交的なバンドだったとは思えないから。
木暮 あんまり仲良くならないよね。
荒井 そういうのを受け入れてくれた先輩なんです。
一瀬 僕らもそうですけど、(バンアパみたいに)20年間メンバーが変わらずに続いてるバンドって、ほとんどいないと思うんですよ。近くで言うと、BRAHMANぐらい。やってることもかっこいいし、出会った時と変わらないんですよね。「飾らない」って言うと、ざっくりしちゃうけど、そういうところが付き合いやすい人たちなんです。
スタッフ 忍さん、来ました~!
渡邊忍(ASPARAGUS/Vo・G) すみませーん!
一瀬 来た来た(笑)。
渡邊 濃厚な話をしてたの?
一瀬 嘘しか話してない(笑)。
――(笑)。20周年を迎えたバンアパとの思い出話を聞いてました。
渡邊 20年間で世の中は進化してますからね。ストリーミングもない時には、何十枚入りとかのCDに全部焼いて手渡しで配ってた。それぐらいからの長い付き合いです。
一瀬 (遅れてきた分を)一気に巻き返すなあ(笑)。
全員 あはははは!
最終的には「バンアパ、弾いてみた」の映像まで見ました(笑)(FRONTIER BACKYARD・TGMX)
――バンアパとしては、今回20周年のタイミングでトリビュートを出すことにしたのは、どういう経緯だったんですか?
木暮 自分ら発信というよりは、ポニーキャニオンのスタッフが「どうですか?」って言ってくれて。ぜひ、お願いしますっていう感じだったと思います。
渡邊 トリビュートされるほうは照れちゃうよね。
木暮 最初はすげえ恥ずかしかったですよ。
渡邊 そういう性格だと思うんですよね。でも、誰かがお膳立てをしてくれれば、本当はうれしいんですよ。……ね?
荒井・木暮 (笑)。
川崎 それはそう(笑)。
荒井 こういう機会でもないと、この先ないだろうなということで、謹んでというか、ありがとうございますという感じでやってもらいました。
――誰に何をカバーしてもらうかは、どうやって決めたんですか?
木暮 最初にスタッフから、こんな感じでどうですか?っていうリストをもらって。そのなかにアスパラとフロンティア、KEYTALKとかも入ってて。自分らで、ここに加えたのって、(坂本)真綾ちゃんぐらい。面識がある人がよかったんです。カシオペアとか好きですけど、あんまり面識はないので……。
TGMX それ、聴きてえ(笑)。
一瀬 面識なさすぎだろ!
木暮 昔、イベントに呼ぼうとしたんですよ。
TGMX へぇ~。
――何をカバーしてもらうか、リクエストしたんですか?
木暮 全然ないですね。
――じゃあ、アスパラとフロンティアはトリビュートのオファーをもらってから、曲を決めるのに迷いませんでしたか?
原(直) 僕らはライブの現場でトリビュートの話をもらって、「ああ、やるやる!」ってなったんですけど。その時に“Moonlight Stepper”がパッと浮かんだんです。好きな曲はいっぱいあるんですけど、思い浮かんだのを口に出したら、そのまま決まったっていう。
一瀬 アスパラでやるのをイメージしやすそうというか。ポップ加減とか、80'sっぽいフレーズとか、直央がカバーしたら面白そうだなって。あとは、どの曲をやるかは早いもの勝ちだと思ったから、それが通ればいいなと思いましたね。
渡邊 歌い出しの「ノノノ」をもっと繰り返したいなと思ったんですよ(笑)。あんまりやれなかったのが残念でした。
全員 あはははは!
――“Moonlight Stepper”をカバーしてみて発見できたことってありました?
渡邊 マジ、イケてるなと思いました(笑)。
一瀬 間違いない(笑)。
原(直) 改めてカバーすると、また聴き方が変わるじゃないですか。そうすると、「あ、こんなところまで凝ってるんだな」っていうのを気づくんですよね。そうなると、生半可な気持ちでトリビュートに参加しちゃいけないなと思って。勉強になりました。
荒井 (カバーを聴くと)ちゃんとアスパラの曲に聴こえるのがすごいんですよね。忍さん、「ノノノ」はいっぱい言えてなかったけど、「ポップ」はたくさん言ってたんですよ。
渡邊 ああ、「ポップ」は言った。
荒井 ポップが増し増しで来てましたよね。で、イントロが始まった瞬間からですけど、塾長(一瀬)のドラムはすぐにわかるし。サビはもう「アスパラだな、これ」っていう。ビート感とかフレーズとかファンだけがわかる小粋な入れ方をしてるから。僕らの曲を使ってるのに、アスパラの曲にするっていうのは技術だなと思いました。
――フロンティアはどうですか? 選んだのは“higher”ですね。
福田 もうバンアパの曲として完成されてるじゃないですか。これをどうやって崩すのかっていうのは、難しかったです。
――どういうふうに曲を決めたんですか?
TGMX まず好きな曲を10曲ぐらいに絞って。やれそうな曲ですよね。バンアパの曲は難しいじゃないですか。僕らは、ギター、ベースがいないから、それでも成り立つ曲に絞って。で、さっきも話が出たけど、早い者順だろうなと思ったので、早く決めないといけない。実は“Moonlight Stepper”もいいなと思ってたんですよ。でも、アスパラがやるって聞いたから、早速ダメになって。決めるまでは大変でしたね。で、実際にやるのも、今までたくさんトリビュートに参加させてもらったことはあるんですけど、いちばん大変でした。“higher”の間奏に、“Can’t remember”のサビを入れたんですけど、まさか誰もやらないだろうなと思ったら、ストレイテナーが選んでましたね。
荒井 フロンティアにも“higher”っていう(自分たちの)曲があるにも関わらず、この曲を選んでくれたんですね。
TGMX 僕らの“higher”は、バンアパの“higher”からパクったんです(笑)。
荒井 いやいやいや(笑)。
TGMX 本当です!
荒井 “higher”なんて名前はいっぱいありますから(笑)。
TGMX バンアパの曲は本当に難しいよ。何回聴いてもわからないし、ライブバージョンを見てもわからないから、最終的には「バンアパ、弾いてみた」の映像まで見ました(笑)。
全員 あははは!
TGMX それでもコードとかあんまりわからないですからね。
木暮 参加してくれた人のなかには、たとえば、イチさん(LOW IQ 01)とかは、パラデータをくれっていうお願いがあって。
TGMX ほしいな、それ。(LOW IQ 01がカバーした)“beautiful vanity”も候補だったけど、コード進行が無理でやめちゃったんですよね。
福田 バンアパは難しい。
TGMX こういう難しいことをサラッとやってるのが、すごいんだなと思いましたね。
――バンアパ側としては、あがってきた曲を聴いてどう思いましたか?
原(昌) さっきと同じになっちゃうけど、自分たちの曲じゃないみたいですよね。これから同じ曲をやるのにも、新たな気持ちでできる感じはします。
一瀬 アスパラは、バンアパをカバーしながら、自分たちが過去にやってきたことを演奏のなかに入れたイメージがあるんですよ。
川崎 セルフオマージュみたいな感じなんだ?
一瀬 アスパラを古くから知ってくれてる人には響いてくれる感じで。バンアパにASPARAGUSを落とし込む。バンアパを通して、ノスタルジックなASPARAGUSの感じが見えたらいいなと思ったので、気づいてもらえたらうれしいです。日常的にバンアパのフレーズを弾いてたりするから、そのノリをそのまま入れたとこがありますね。
――話を聞いてると、「難しい、難しい」と言いながらも、仕事の範疇を越えて、かなり楽しみながらカバーをしたっていう感じですよね。
一瀬 うん、すごい楽しかった。
TGMX 自分たちの音源を録るよりも、ちゃんと演奏をやらなきゃって。
渡邊 そうそう(笑)。大変なところもあるんだけど。人様のものだから。
一瀬 OKテイクのハードルが高かったかなって感じですね。自分たちの曲で、自分たちの演奏だと、等身大だし、こんなもんだっていうのはあるけど、バンアパだからっていうのはあったような気がしますね。それはフロンティア兄さんも一緒かもしれないけど。
TGMX すげえ時間かかったよ。
一瀬 できればもうやりたくない、今回だけにしてほしい(笑)。
全員 あはははは!
TGMX バンアパは曲がいっぱいあるから、「2」も出すよ。
一瀬 40周年で!?
TGMX 夢があるなあ。
荒井 今度は逆にお願いします。こっちがトリビュートさせてもらえれば。