新たなきっかけで別の軸が増えても楽しいのかなと思うので……早く曲を作りたいです(笑)
――なるほどね。それによって、2017年とは違ったスイッチが、「ソングライター・夏代孝明」の中で入ったわけですね。
「『もうひとつ見つけた!』っていう感じですかね、自分の中で。僕、思考が結構偏りやすいというか、価値観が凝り固まりやすいタイプなんですよ。なので、視野を広げるっていうことが音楽に関しては重要だと思ってるんですけど、なかなか能動的にできない部分があって。その意味ではすごく、昔の自分に助けられたなって……やっぱり、形にして置いとくのって大事だなって思いました(笑)。昔、スタジオで――ZOOMのハンディレコーダーの、マイクがクロスしてるやつあるじゃないですか。あれを立てて、バンドでみんなで『せーの』で録ったやつとか。あと、当時MP3プレイヤーで録音できるやつがあって、それって電池式だった記憶があるんですけど(笑)。それで家でギター弾きながら歌ってるのを録ってた音源があって。いやあ……ファイルを開く時とか、恐る恐るっていう感じでしたね。『これ、スピーカーから出てないよね? ヘッドホンだよね?』みたいな(笑)」
――自分で埋めたタイムカプセルを開くみたいな感覚があったんでしょうね。
「でもなんか、ワクワクっていう感じではなかったですね。『うわっ……見つけちゃった』みたいな(笑)。曲としては全然良くなかったんですけど、いい感じだったんですよね、気持ちの乗り方が」
――ある意味で自分を取り戻したし、ある意味では新たに目覚めたんでしょうね。
「そうですね。ここに続く形で自分も『これからこういうのをやっていきたい』っていろいろ考えていけるので。今、『自分の内面』と『誰かを励ます』っていうふたつの軸を自分の中に感じてるんですけど。でも、そこにまた新たなきっかけで別の軸が増えても楽しいのかなと思うので……早く曲を作りたいです(笑)」
次の世代につなげていきたいっていう気持ちがあります
――“世界の真ん中を歩く”みたいなポップ感だけじゃなくて、それこそ“エンドロール”や“ジャガーノート”、“REX”、“Gänger”といったシリアスでエッジの効いた楽曲も盛り込まれていながら、曲がりくねったシーンの裏道ではなくて、まっすぐ王道を歩くようなロックナンバーになってますよね。
「ありがとうございます。すごく嬉しいです。僕がちょうど目指しているところなので。僕も歌詞に励まされたり、辛い時に『明るい曲を聴いて元気出そう』と思うこともたくさんあったので。それを僕も、次の世代につなげていきたいっていう気持ちがありますね。音楽ってやっぱり、コード進行とかメロディとか、限られた中でやってるじゃないですか。そういうものは、時代が移り変わるごとに繰り返されていくものだと思うんですけど。でも、ループしてるんじゃなくて、ひとつの道としてずっとつながっているような感覚が、僕の中にはあって。その中に、夏代孝明としての席を置きたいというか、その時代の流れの中に自分もいたい、っていうのがあるんで。なるべく新しいもの、誰もやってないようなことを探そうとは思うんですけど、新しいからいい、突飛だからいい、っていうわけでもないと思うし。それがさらにあとにつながっていくものでもあってほしいと思っているので」
――だから、いろんな意味で「夏代孝明という人間そのもの」を聴いてるようなアルバムだなと思いましたね。それはやっぱり、カバー中心の活動からは見えてこなかったものでもあるだろうし。
「カバーの時はやっぱり、作曲者の方の想いとか言葉をどういう表現でリスナーさんに伝えていくか、っていうところに気持ちが向いていくんですけど。自分のオリジナルだと、自分から出てきた言葉がすでにあって、それを歌う形になっていくんで。自分の言葉に引っ張られていくような歌になっていく感覚があるんですよね。『自分のことをわかってほしい』っていう曲だと、より没頭できるというか。より人間らしいというか、人間の匂いがするような曲が多いかなっていうのは、僕も思ってます」
――新しいステージに立ったなあっていう感じがする作品ですし。それはご本人が一番感じてることだと思うんですけども。
「やっぱり、達成感と同時に、近いジャンルの曲が全然ないアルバムになったので。自分の可能性というか、これからどの部分を広げていくのか、もしくはさらに足していくのか、いくらでもやりようが無限にあるんだなって感じたので。もちろん、このアルバムをたくさん手に取っていただければ嬉しいし、愛してもらえるようなものになれば嬉しいと思うんですけど、『その次』につながるものが、このアルバムでしっかりと見つけられたので。自分自身のこれからに関しても、自分で楽しみに思える、いい1枚になったかなと思いますね」
――今後のアルバムも楽しみです。「アンビエント・夏代孝明」でないことだけは確信してますので。
「そうですね(笑)」