「好きなことに向かって躊躇わない」。それがココロオークションが4月3日にリリースした4thミニアルバム『VIVI』で掲げたテーマだ。前作『Musical』では徹底した構築美を追求することでバンドの集大成ともいえる作品まで辿り着いた彼らだったが、今作では一転して、滾る衝動をそのままの熱量で詰め込んだロックアルバムを完成させた。歌詞もいままで以上に鋭い。今回のインタビューはそんな『VIVI』に至るメンバーの心境の変化を訊くことが目的だ。そのなかでフロントマンの粟子真行(Vo・Gt)は内に秘めていた迷いやコンプレックスを赤裸々に語ってくれた。この言葉から、かっこ悪い自分すら曝け出して、それを前進のエネルギーに変えようするココロオークションの「いま」が伝わればと思う。
インタビュー:秦理絵
「次はどういうふうに曲を作ろうかな?」と思ったときに、漠然とスタジオでみんなで鳴らしながら作りたいなと思ったんです(大野)
――『VIVI』はストレートな言葉が刺さるロックアルバムになりましたね。
井川聡(Dr) やっぱり前作の反動がデカかったんですかね。
大野裕司(Ba) 前作の『Musical』で、構築美というか、緻密なサウンドスケープにこだわった作品を作って、それに付随したツアーもまわって、やり切った感があったんですよね。で、「次はどういうふうに曲を作ろうかな?」と思ったときに、漠然とスタジオでみんなで鳴らしながら作りたいなと思ったんです。でも、全部をそういう曲にしようと思ったわけじゃなかったんですよ。とりあえず次の曲はそういうふうに作ってみたいなっていうところがあって。それで1曲目の“RUN”っていう曲を作ったんです。
――最初はアルバム全体がそうなる予定ではなかったんですね。
大野 そう。でも、“RUN”の出来がすごく良くて。スタジオでみんなで作るっていう作業を久しぶりにやったので、それにハマっちゃったんです。それで全部そうしようっていう。
粟子 みんなで「いいなあ」って言い合えるのが久しぶりだったんですよ。
井川 楽しかったね。
テンメイ(Gt) 今回は(大野が作ってくる)デモの段階から音に余白があったんですよ。僕らがアイディアを浮かびやすいような感じというか。各々のセンスを入れ込みやすいようなデモを作ってくれたのがよかったんです。
大野 ワンコーラス程度のデモをざっくり作って、「あとは好きにやってね」っていう感じでしたからね。そういうふうに作ったから、必然的にロックな曲調になっていったんだと思います。不思議とBPMが速い曲も多くなったし。
井川 新曲は全部速いですからね。
――『Musical』って、いままでココロオークションが目指してきた音楽の集大成でもあったじゃないですか。だから、てっきりその流れを汲んで進むと思ったんですけど。
大野 たしかに今後も『Musical』みたいな作品を作り続けていくのかなって思ってたんです。でも、実際に作り上げて、ツアーをまわってみると、「その先」がそんなになかったっていうか。『Musical』は発展途上のものを目指してたんじゃなくて、「これだ!」っていうものを完成させたから、その延長線上には何もなかったんやなと思います。
粟子 『Musical』はちょっと背伸びしたというか、無理したところもあったんですよね。全部を終わってみて、ちょっと疲れたというか。それで次は何も考えへんのにしたいなって思ったんですよ。求められているものというよりも、自分のやりたいものを作りたい。ものづくりにはそういう情熱のほうが必要だなって思うようになったんです。
井川 ツアーを終えたあと、粟子くんは燃え尽き症候群的な感じになってたからね。
粟子 うん。
井川 『Musical』はすごくいい作品だったんですよ。僕自身も音楽に対する姿勢を考え直させられたし、「自分の音が人にどう聴こえてるんだろう?」っていう意識も変わったし。だから、あの作品には感謝してるんですけど、あれだけ緻密に細かく難しい演奏をするのは、ちょっとスパンを空けたほうがいいかなっていう感じですね(笑)。
――テンメイくんは、『Musical』を経て、今作を作るときにどんなことを考えましたか?
テンメイ 『Musical』では、音楽に対してどう向き合うかっていうことをひたすら考え続けたんですけど、今作はそれ以上に「この4人がどう作るのか」っていうことを考え始めましたね。メンバーのやりたいこと、やりたくないことは何なのかを考えたんです。それで、いままでよりもメンバーのことをよく見るようになったんですよ。
井川 見てくれてたんや(笑)。
テンメイ それが、たぶん音源にも生きてると思うんです。
粟子 たしかにミーティングは増えましたね。いままではお互いのことって喋らないでも、なんとなくわかってたんですよ。大体こういうことを思ってるんやろうな、とか。それをあえて言葉にして伝え合って、思い直すところもあって。僕が思ったのは、みんなココロオークションのことをめっちゃ好きなんやなってことだったんです。
『Musical』を作り終えたときに、バンドを続けるか迷った時期があったんです。それを相談したら、みんなが寄り添ってくれて。ああ、いいやつらやなって、この4人でずっとバンドをできたらなって思ったんです(粟子)
――どうしてそう思ったんですか?
粟子 実は『Musical』を作り終えたときに、バンドを続けるかどうか迷った時期があったんです。それを相談したら、みんなが寄り添ってくれて。ああ、いいやつらやなって、この4人でずっとバンドをできたらなって思ったんです。うまく喋れないけど……。
――ああ。正直に言うと、今回“RUN”とか“アイデンティティ”“タイムレター”を聴いて、粟子くんがそういうことを考えたのかも?っていう想像がよぎったんですよ。
粟子 え、本当ですか……そっかあ。たぶん、僕、『Musical』で納得いくものが作れなかったんだと思います、自分のなかでは「これがいい」って言い聞かせてたんですけど、でも本音では、「もっとできてたんだろうな」って思ってた部分もあったんですよ。僕のなかで曲は自分の子どもなんですけど、その子どもが輝けてない姿を見ると、すごく悲しいというか。自分の曲を愛せない瞬間もけっこうあったのが辛かったんですよね。それを言ったら、「そうだったんだね、言ってくれてありがとう」って言ってくれて。
――メンバーは粟子くんの気持ちを聞いて、どう思いましたか?
大野 うーん……そこはあんまり話したくないかな。ただ、いままでは本当に音楽にすべてを捧げるつもりでやってたんですけど、そうじゃなくていいかもと思うようになりました。それは音楽に失礼に聞こえるかもしれないけど。もっと自分たちがやりたいと思うことを、やりたいと思うときにやっていけばいいかなって思うようになったんですよね。
――そういう話し合いもあったうえで、まず新曲として“RUN”を作ってみたら、久しぶりに「楽しい」っていう感覚になれたっていうことですね。
粟子 そうです。大野からデモをもらって、メロディをつけるときも違和感なくできましたね。前作では「これでいいのかな?」って何回も書き直したんですけど、“RUN”は、自分がこうだったらいいなっていう軌道を描くメロディがすぐ出きたんです。
テンメイ “RUN”はココロオークションっぽい曲ですよね。
井川 演奏してる人のアイディアと手癖をそのまま放り込んでますからね。
大野 いままで手癖って、ミュージシャンにとって悪しきものだと思ってたんです。マイナスイメージが強かったんですね。だから手癖じゃないことをやって、新しいことに挑戦することが多かったんですけど。手癖ってその人が世界でいちばん上手く弾けるフレーズなんですよ。だから入れたほうがいいって180°考え方が変わったんです。
――最初にバンドを組んだときに気持ちよかったのって、そこだったはずじゃないですか。そこに『Musical』を経たからこそ立ち返ったわけですね。
粟子 そうですね。今回はこの4人じゃないといけないっていうのを出せたと思いますね。
井川 おー、いいこと言うねえ(笑)。
――“RUN”ができたあと、同じ流れで“アイデンティティ”も作ったんですか?
大野 そうですね。これは、さっちゃん(井川)が好きなリズムを考えながら作ったんですよ。大体こういうのが好きだろうなっていうところから始めて、ある程度、スタジオでフレーズを出してから、あとからデモ音源を作るみたいな感じしたね。
――それで、この爆発力になったんですね。
井川 かっこいいですよね。
テンメイ あと、今回は最初に歌詞ができててほしいっていう話はしましたね。『Musical』のときは、当日にギリギリに歌詞ができたりもしたんですけど、今回はより伝えたいものを明確にするために、当日までに仕上がっていてほしいなっていう話をして。それを実際に仕上げてくれたから、より伝わるように演奏できたと思います。
(“ハンカチ”は)初めてラブソングを書こうと思って書いたんです。「あるあるを言っていこう」みたいな。主人公はバカっぽい感じがいいよね、とか(粟子)
――“RUN”とか“アイデンティティ”の歌詞って、粟子くん自身がブレてしまう自分へのコンプレックスを歌にしてますよね。《誰にも惑わされずに 夢中になって生きてみたい》とか《迷わず生きる人に嫉妬してしまって》とか。
粟子 そうですね。“ハンカチ”でも《いつも優柔不断で》って歌ってるし。ほんまに迷っちゃうんですよね。自分のなかでは、こうしたいなっていう答えがあるんですけど、誰かにこうなんじゃないかって言われたら、そっちのほうがいいかもしれないってふらふらしちゃうんです。それが悪いことじゃないかもしれないんですけど、やっぱり伝える側として、ブレない人がかっこいいなと思う気持ちがあったりして……。
――一見、粟子くんって頑固そうなイメージはあるけど。
粟子 頑固っぽいでしょ(笑)? でも、自分のやりたいことを言葉にするのが苦手だから、うまく伝えられなくて流されちゃう。それを歌詞にしたんです。自分を持つことが大切なんやなって思うし、それをみんなに教えたいと思って。
――自分のコンプレックスを前に進むエネルギーにしたかったんでしょうね。
粟子 ちゃんと好きなことに向かって「行動する」っていうことがポイントです。いままでは好きなことを好きっていうだけやったんですけど、その先を出せたかなと思いますね。
――リード曲の“ハンカチ”は新しいココロオークションのアンセムになりそうなラブソングですね。
井川 これは完全なラブソングですよね。すでに何回かライブでやってるんですけど、「恥ずかしすぎて聴けない」みたいな意見があって。
――たしかに《眉毛の角度を変える》とかリアルです。
粟子 これは僕が本当にやったことですね。僕、あんまりラブソングを書こうって思って書かないんですけど、この曲では初めてラブソングを書こうと思って書いたんです。で、「ラブソングって、どんなんやと思う?」って、(大野と)ふたりで話し合って。「あるあるを言っていこう」みたいな感じで書いたんですよ。主人公はバカっぽい感じがいいよね、とか。
――ああ、恋をすると、みんなバカになっちゃうみたいな(笑)。
粟子 そうそう(笑)。男が恋をしたらやってしまうバカなことを並べていって。だから、いままでは自分を切り取って歌詞を書いてたんですけど、“ハンカチ”は完全に別人物なんです。そこにちょっとリアルも入れたんですけど、それが……眉毛の角度を変えるっていうやつで(笑)。
井川 大丈夫、俺もやったことあるよ。
粟子 さっちゃん、(眉毛が)シャキーンってなってたもんね(笑)。でも、そういうところを、いま「リアル」って言ってもらえて、あ、伝わってるんだなと思いました。
“アイデンティティ”でも歌ってるんですけど、自分が自分であることを誇りに持てたら、ちゃんと「好き」って言えるんですよね(粟子)
――ココロオークションがここまで生々しい人間像を書くことってなかったと思うんですけど、どうしてこういう手法を試してみたんですか?
粟子 『Musical』の作詞にはすごく時間をかけたんですけど、それでも伝わりきらないというか、ぼやっとしてるイメージがあったんです。それで、どうしたらいいんだろう?って悩むなかで、(大野と)キャッチボールをしながら作ったんです。キャラクターを設定するために、すごい質問をしてくるんですよ。「何歳ぐらい?」「どういう表情をしてるの?」「この人は何を大切に生きてるの?」とか。それで「なるほど、その視点が抜けてた」って気づいたんですよね。……あと、僕、すごく文字を書くことにコンプレックスがあって。
――ずっと歌詞を書いてきたのに?
粟子 うん。国語とかも苦手だったし、向いてないのかな?って悩んだりしたんですよ。それも一緒に相談しながら作れたことによって、一皮むけたというか。バシッと言いたいことが言えるようになって、伝えられる喜びを知れたんですよね。
――“タイムレター”では、まさに粟子くんの人生をストレートに伝えてますもんね。
粟子 曲作りに悩んでるときに、先輩のミュージシャンから「もっと自分を掘り下げてみたほうがいいよ」っていうアドバイスをいただいて、一緒に考えたんですよ。粟子真行はどういう人間なのか、何を大事にしてるのか、何が嫌いなのか、どういう性格なのか。それを全部ひもといていったら、小さいときに入院をして、たくさん寂しい想いをした。いじめられて、自分の気持ちを言えない人になった。友だちがいなくて、ずっと歌を歌ってた。だから歌を好きになった。っていうことが出てきたんですね。そしたら「それを1回歌にして、過去の自分を成仏させたほうがいいよ」って言ってくれたんです。
――ちなみに、その先輩ミュージシャンっていうのは?
粟子 カヨコさんっていう、LiSAとかに楽曲提供してる人です。大学の軽音楽部の先輩なんです。
――実際に書いてみて、どう思いましたか?
粟子 最初はすごく恥ずかしいなと思ったんですけど、ラジオで解禁したときに、思いのほか反響が大きかったんですよ。「泣いた」って言ってくれる方もいて。いままで自分のことを書くほど伝わらないと思ってたんですけど、逆に伝わるんだって、びっくりしました。
井川 知らなかった。これは成仏ソングなんやな。
粟子 うん。カヨコさんに、これを書いたら「粟子はもっといろいろな曲を書けるよ」って言われたんですよ。そしたら、“ハンカチ”は別人格で書くことができたんですよね。
テンメイ この曲は自分に向き合うだけだったら生まれなかったと思ったんですよ。『VIVI』の曲は全部なんですけど、自分と向き合って、さらに踏み出そうとしてるんですよね。粟子さんは進もうとしてたんですよ。だから曲ができて自信につながった。音楽に対して悩んだこともあったけど、進もうとしたからこそ、この作品を出せたんだと思います。
――なるほどね。いま粟子くんがよりパーソナルな表現に踏み込んだことと、さっき大野くんが手癖を許せるようになったことって、根っこは同じ気づきだと思うんですよ。
全員 (うなずく)。
――それぞれが自分らしくあることで、バンドが唯一無二の面白い存在になっていく。『VIVI』はそういうことを教えてくれた1枚かもしれないですね。
粟子 うん、本当にそうだと思います。“アイデンティティ”でも歌ってるんですけど、自分が自分であることを誇りに持てたら、ちゃんと「好き」って言えるんですよね。
大野 たぶんココロオークションは、ここからこういうふうに音楽を作っていくんだと思います。手法というより、その大事にするものとして……。
――自分のやりたいことをやっていくっていうことですね。
大野 そう。いろいろやってみたけど、結局そういうことなのかなって。でも、それは『Musical』とも地続きだと思うんですよね。必然的にそういうところに辿り着いたなっていう実感はあるので。今作はそれを気づかせてくれたアルバムだと思います。
――ここからココロオークションはさらにかっこよく進化していきそうな予感がします。
粟子 ちょっと昔までは、かっこつけるのがよかった時代だと思うんですよ。でも、いまはかっこつけないのが、かっこいい時代だと思うんですよね。自分の好きなものを「好き」って言ったり、みんなは違うかもしれんけど、「わたしはこう」「僕はこう」って自信たっぷりに言える人がかっこいい時代だと思うんです。だから僕らもちゃんとかっこいいと思うことをやりたい。今回のアルバムのテーマは、「好きなことに向かって躊躇わずに行動する」っていうことだから、僕なりにアルバムのとおりに生きてみたんです。自分と向き合って、勇気を出してやりたいことをやってみた。それが良かったんだと思います。
“ハンカチ”
リリース情報
メジャー4th ミニアルバム『VIVI』発売中TECB-1009 定価¥1,667+税
〈収録曲〉
1.RUN
2.アイデンティティ
3.ハンカチ
4.向日葵
5.手のひら VIVI Ver.
6.タイムレター
ライブ情報
ココロオークション 4th ミニアルバム『VIVI』 リリースツアー5月3日(金) 金沢GOLD CREEK(ゲスト : Halo at 四畳半)
開場 17:30/開演 18:00
5月5日 (日) 岡山CRAZYMAMA 2nd Room
開場 17:30/開演 18:00
5月11日(土) 高松DIME(ゲスト:LAMP IN TERREN)
開場 17:30/開演 18:00
5月18日(土) 広島BACK BEAT
開場 17:30/開演 18:00
5月25日(土) 福岡Queblick
開場 17:30/開演 18:00
6月9日(日) 仙台HOOK
開場 17:30/開演 18:00
6月14日(金) 名古屋APOLLO BASE
開場 18:30/開演 19:00
6月21日(金) 代官山UNIT
開場 18:30/開演 19:00
6月23日(日) 札幌COLONY
開場 17:30/開演 18:00
6月28日(金) 心斎橋Music Club JANUS
開場 18:30/開演 19:00
提供:テイチクエンタテインメント
企画・制作:ROCKIN’ON JAPAN編集部