昨年8月にアルバム『アイデンティティクライシス』でデビューを果たした2001年生まれのシンガーソングライター、Karin.。高校最後の1年を激動の中で過ごしてきた彼女の、リアルタイムの揺れ動く気持ち、デビューして感じた喜びや不安、それらがすべて封じ込められたのが、約5ヶ月ぶりとなるセカンドアルバム『メランコリックモラトリアム』だ。高校卒業を目前にして、置いていく感情や記憶をすべて叫び、同時に連れていく想いを大事に抱きしめるような今作で、彼女に訪れたのはどんな季節だったか。語ってもらった。
インタビュー=小川智宏
仲間がほしいとずっと思ってたんですけど、なんか違和感を覚えたんです。私が思ってるようなものにならなくて……
――12月に配信リリースされた“命の使い方”を聴いた時に本当に全然違うなと思いました。あれは新しい曲ですか?
「新しい曲です。できたのはまだ『アイデンティティクライシス』を作っている段階で、まだKarin.が世の中に知れ渡っていない時だったんです。そこで初めていろんな人やものと出会って、環境や人生が変わっていって……新しいものをたくさん取り込んでいったら、今までとは全く違うような曲ができたんですね。今回は結構、バンドとしての曲が多いんですよ。『アイデンティティクライシス』はずっとひとりでやっていた曲をバンドにアレンジした感じなんですけど、今回は私がバンドとして初めて音を鳴らした時、すごく楽しくて。盛り上がれる曲があったらいいなとか思って。そういう曲が自然と増えました」
――バンドに対する憧れみたいなものはずっとあったんですか?
「ありました、ありました。初めはバンドで活動したくて、人を集めてやったんですけど、もう全然うまくいかなくて。たった2時間くらいしかバンドとして活動しなかった(笑)」
――2時間って(笑)。
「1回スタジオ入って、もう二度とやらなかった(笑)」
――何がうまくいかなかったんだろう。
「なんだろう。もしこれで活動していくんだったら……曲を自分で作ってやっていくんだったら、私ひとりでいいなって思いました。仲間がほしいとずっと思ってたんですけど、なんか違和感を覚えたんです。私が思ってるようなものにならなくて……私『違うな』って思ってもあんまり言えない人なので。だから、ひとりはすごく嫌だったんですけど、『ひとりでいいな』と思って。でも、ひとりでやってるとやっぱり寂しいんですよね」
――ちょっと難しい言い方をすると、『ひとりでいいな』と思っていたKarin.さんが、バンドでやる、つまり他者とコミュニケーションしながら一緒に何かを作る、一緒に表現するというところを自然に受け入れられるようになったのは、自分の中の何が変わったんだと思いますか?
「自分ひとりでは生きていけないことを……その、事務所もそうだし、ひとりでここまでは絶対来れなかったんですよ。出会った人たちがいろいろ協力してくれて、自分の気持ちを大切にしてくれる人、私にとって大切な人がすごい増えたので。そこが大きかったのかな。初めて自分の音楽を世の中に出して、いろんなメッセージをいただいたんですよ。『応援してます』とか『声を聴いて惹かれました』とか。そうやって自分を受け入れてくれるっていうことが新鮮というか。遠いところに行っても私を観に来てくれる人がいたり、自分の知らない町でも私の音楽がかかっていたりして。そうやってみんなが受け入れてくれたから、今回のアルバムはできたんじゃないかなって思ってます」
――そういう反応は自分の中でも予想外のことだったの?
「いや、誰も聴かないと思ってたので(笑)。『アイデンティティクライシス』を作ってる時も完成した時も自信がなかったんですよ。『やっぱりこれ出すんですか?』みたいな。できあがった時に『私、自分の声が嫌いで耐えられないんです、このアルバム聴くのが』って言ったんです。みんな『えっ、ここに来て何言ってんの?』みたいになっちゃって(笑)」
――そりゃあそうだ(笑)。
「まあ、今もそうなんですけど、やっぱり抵抗感はすごくあったんですよね。でもみんなに曲を聴いて受け入れてもらった時に、やる気が起きて、たくさん曲を作れたんです。だから今回のアルバムは全部自信があるんですよ。『アイデンティティクライシス』がなければ絶対にできてなかったなって曲ばかりだし、高校最後のアルバムとしてふさわしいものができたなって我ながら思っています」
高校生だから、学校にいるから曲が書けるんであって、もし卒業して曲が書けなくなったらどうしようとか、葛藤もすごいあった
――『メランコリックモラトリアム』というタイトルはどうやってつけたんですか?
「大人になるまでの期間がすごく憂鬱に感じていたんです。高校を卒業するのもすごく嫌だなって思ったし。最初はずっと、卒業して早く上京したくてたまらなかったんですけど、今高校生だから、学校にいるから曲が書けるんであって、もし卒業して曲が書けなくなったらどうしようとか、葛藤もすごいあって。みんなどんどん進路が決まって、どこの大学行くんだとかどこに就職するんだとか言ってるのに、私は音楽をやるって言っても、周りから見たらそれってただのニートじゃんって思うかもしれないじゃないですか。結構それで悩むことがデビューしてからも多くて。そういうことを考えていたら、『メランコリックモラトリアム』って言葉が急に浮かんだんですよね」
――じゃあ、メランコリックなモラトリアムっていうのは、今のKarin.さんの状態そのものなんだ。
「うん。不安は残るし。でもこれを作って出した時に何か変われたらいいなって……」
――前作もそうだったけど、Karin.というアーティストのいちばんの才能って何かなって考えると、安易に未来とか、大人になったらどうこうっていうことを言わないところだと思うんですよね。そこに夢を見てないっていうか。
「ああ、そうですね」
――今は辛いけど未来は明るいはずだとか、こういういいことが待っているから頑張ろうとか、そういうことを歌わないじゃない?
「確かに、周りの友達とか、好きなアーティストのライブだとか、もう『半年後じゃん!』っていうくらい先のことでも、それを生きがいにしてるんですよ。私にはそれはできない。それまでの間にもいろんなことがあるし。進路も、最初進学しようと思ったんですよ。みんなも進学するし、音楽がうまくいかなかったらどうしようと思って。でもその時に、学校の先生に『現実を見すぎだ』って言われたんです。自分が成功すると思ってないんだったら成功する訳ないって。確かにすごいリアルな話というか、そういうものばかり信じてるんですよね。大きい夢とかいまだに持っていない」
――いい先生じゃないですか。
「まあ、怒られたりもしたんですけど(笑)」
なんでこんなにも教室の中で自分が生き残りたい、いいイメージを持たれたいって思うのかなって思ってた時に“最終章おまえは泣く”ができました
――普通逆じゃない? 「現実を見なさい」って言われるほうが多いと思うんだけど。だからこそこんなに曲が書けるんだと思うんですよね。毎日いろんな出来事が起きるじゃないですか。いいことも嫌なことも。でも大体の人はスルーしていくんだけど、流せないんだよね、きっと。
「そうですね。毎日、たくさんの考え事してますね。年金なかったら、私どうやって生活しようとか(笑)。年収がいくらだとして、47歳とかになってからどの保険が……とか。みんなに笑われます。奨学金めっちゃ借りれた、やった!みたいな友達見て『奨学金って名前がいいだけで借金と同じだから、将来返せないと結婚もできないかもよ』とか言ったら『考えすぎだ』って言われました」
――まあ、その通りではあるんですけど(笑)。だから、Karin.さんの歌には絵空事はひとつもなくて、今いるリアルな場所とか環境みたいなものが色濃く出るんだけど、今回は学校とか教室のシチュエーションが多いじゃないですか。でもその学校っていう場所がすごく複雑ですよね。
「“教室難民”って曲があるんですけど、高校卒業したらこの曲は絶対出せないと思ったんですよ。高校生なのは今だけしかないから。何か用事があって放課後ひとりだけでいた時に、ひとりだけの教室っていうのがすごく心地よくて。帰れなくなってしまったんですよね。『私、難民みたい』って思って曲を作ったんですけど」
――どうして心地よく感じたの?
「学校で言ったらLINEとかメッセージとか、絶対嘘じゃんみたいなことでも書けるじゃないですか。それが普通の世界になってしまうならいやだなって思って。その時、教室が居心地よかったのは気を遣わないで済むから……誰もいないから何をしてもいいんだなって思ったんですよね」
――LINEとかで平気で嘘をつかれたりするのが嫌で、そこから切り離された感じが心地よかったということ?
「うん。なんか、疑って訊いたのに嘘をつかれて、何回訊いても本当のことを言ってくれなかった時に、学校が本当に嫌だと思ったんですよ。それに、みんな自慢したがるんです、自分のことを。『バイト何連勤でさ』とか。なんでこんなにも教室の中で自分が生き残りたい、いいイメージを持たれたいって思うのかなって。その時に『みんな泣けばいいのに』と思って“最終章おまえは泣く”って曲ができました。私『おまえ』って言葉がすごく嫌いなんですよ。それを使ってみたらどうなのかなと思ったんですけど、怖い曲ができちゃいました(笑)」
――うん、怖い。怖いっていうのは言葉が強いっていうことでもあるけど、教室の中の世界に対して、Karin.さんの視点っていうのがちょっと違うんだなって思うんですよね。その世界の一員なんだけど一員じゃないみたいな。
「音楽始めて……私の学校は軽音部とかもないので、神みたいな存在になってしまったんですよ。ギター弾けるんだ、歌作れるんだって。みんなと同じ環境にいるはずなのにみんなにすごいねって褒められて」
――それは快感ではなかったんだ。
「なんか、孤独を感じました。普通じゃないって言われることも多々あって……なんか新学期の自己紹介か何かで『今いちばんほしいもの』っていうので、みんなお金だったり彼氏だったりって言うなかで、私は『才能がほしい』って言ったんですよ。そう言った時にみんな『えっ?』って振り向いたんです。あ、これって普通じゃないんだなって。じゃあ私はどこにいるんだろうって思いました」
もう作れないかもしれないって言いながら毎回作ってるんです。自分の先が見えないなって。だからこそ楽しみというか、音楽やめられないんだなって思います
――けど、やっぱりそれってアーティストに不可欠な視点だと思うんですよね。“最終章おまえは泣く”みたいな曲はそうじゃないと書けないと思うんです。教室の社会がみんなにとってはすべてなんだけど、それすらも相対化しちゃっているっていうか。そこで感じる居心地の悪さとか居場所のなさが音楽の原動力のひとつなんでしょうね。
「でも、学校にいるからこの曲ができたんだなって思うと、やっぱり卒業が寂しい(笑)。学校生活が本当に楽しいって思ったのはほんのちょっとの期間だったりするんですけど、高校生のうちにメジャーデビューできると思ってなかったし」
――この2枚でKarin.の高校生編は終わるわけですよね。だから、ここからはわからないよね、自分が何を歌うのか。
「うん、ネタなかったらどうしようかなとか思います(笑)。でもデビューしてから曲を作るたびに、『もう曲が作れなくなるかもしれない』って思うんですよ。曲が増えて自分に自信がつくとともにどんどんそれが大きくなっていって。もう作れないかもしれないって言いながら毎回作ってるんです。やっぱり自分の先が見えないなって思います。だからこそ楽しみというか、音楽やめられないんだなって思います」
“命の使い方”
2ndアルバム『メランコリックモラトリアム』2月12日発売
UMCK-1650 2,000円(+税)
〈収録曲〉
01. 命の使い方
02. 「バイバイ」って言わない理由
03. 藍錆色の夕日
04. 誰もわるくないね
05. 残灯、夜に消える
06. 教室難民
07. 最終章おまえは泣く
08. 髪を切ったら
初ワンマンライブ&ツアー
6月7日(日)茨城・水戸LIGHT HOUSE
開場16:30/開演17:00
6月21日(日)大阪・梅田Shangri-La
開場16:30/開演17:00
6月28日(日)愛知・名古屋ell.FITS ALL
開場16:30/開演17:00
チケット代:スタンディング前売 2,500円
詳細は→https://karin-official.com/news/detail/152
イベント情報
「HAPPY JACK 2020 ~Show Must Go On~」日時:3月14日(土)
開場11:30/開演12:00
会場:熊本・熊本市内のライブハウス(サーキットイベント)
https://www.kkt.jp/event/happy_jack/
「SANUKI ROCK COLOSSEUM 2020 -MONSTER baSH × I♡RADIO 786」
日時:3月21日(土)
開場11:00/開演11:30
会場:香川・高松市内のライブハウス(サーキットイベント)
http://www.duke.co.jp/src/
「FM NORTH WAVE & WESS PRESENTS IMPACT! XV supported by アルキタ」
日時:4月11日(土)
開場12:30/開演13:00
会場:北海道・札幌市内のライブハウス(サーキットイベント)
https://wess.jp/impact15/
「ARABAKI ROCK FEST.20」
日時:4月25日(土)、 26日(日)
開場10:00
会場:宮城・みちのく公園北地区 エコキャンプみちのく
https://arabaki.com
NIIGATA RAINBOW ROCK 2020
日程:5月4日(月・祝)
開場11:30/開演12:00
会場:新潟県新潟市内のライブハウス
http://rainbowrock.jp/
提供:ユニバーサルミュージック
企画・制作:ROCKIN’ON JAPAN編集部