壮大なスタジアムロックを鳴らしたい。SLMCT、決意の新作『Class : A』を語る

中学生の時から曲を書き始め、その頃から、数万人の観客を熱狂させるようなスタジアムロックを鳴らしたいという想いがありました(小川)

――はじめに、小川さんが曲作りを始めたきっかけを教えてください。

小川悟(Vo・G) 親が海外を転々とする仕事をしていて、学生時代の長い時間をアメリカで過ごしていました。2008年、13歳の時に、解散する1年前のオアシスのライブを観たことが、今の自分の原体験です。とにかくオーラがすごくて。中学生の時から曲を書き始め、その頃から、数万人の観客を熱狂させるようなスタジアムロックを鳴らしたいという想いがありました。その想いは変わっていなくて、今もウェンブリー・スタジアムの光景を想像しながら曲を作っています。

――では、このバンドを結成したのはどういう経緯だったんでしょう。

小川 高校2年生の時に日本に戻って来て、2014年に大学に入学したタイミングでメンバーの3人と出会いました。3人とは、軽音部の集まりで席がたまたま一緒で。

島田将羅(B) みんな洋楽が好きで、部活の中には僕たちほど洋楽を聴き込む人は多くなかったので、自然とこの4人が集まりました。

大平“王将”雅樹(G) 一人ひとりのルーツとなる音楽はそれぞれ異なるんですけど、洋楽好きという共通点があり、すぐに話が深まっていって。

島田 悟のアメリカ時代の話を聞いていくうちに、「こいつはヤバい曲を書きそうやな」って思ったんですよね。4人で喋っていて馬が合ったので、そのまま「バンドやろか」と。部室の前のベンチで初めて悟が作ったデモを聴いた時は、「あ、この選択、間違ってなかった!」って思いましたね。

王将 悟のデモを聴いて、これまで聴いてきた洋楽と同じくらいかっこよくて。すぐに、「ここに僕がギターを混ぜたらどうなるだろう?」といったイメージが湧いてきて、はじめからバンドの勢いを感じました。

――最初からオリジナル曲をやってたんですか?

小川 いきなりオリジナルを始めました。ただ、軽音部ではカバーをする人たちがメインで。

島田 僕以外の3人はコピーバンドもやってたんですけど、僕は頑なにコピーバンドをやりたくなくて、軽音部ではずっと立場が弱かったですね(笑)。

小川 でも、ついに初めてタワレコにCDが並んだ日には、「ほら、言ったやん」と(笑)。

――先ほど小川さんは、数万人を熱狂させるようなスタジアムロックを鳴らしたいという、今の音楽活動にも通じるビジョンを語ってくれましたが、そのビジョンに3人もすぐに共感した、ということですね。

小川 そうですね。また、洋楽由来の音楽を、今の日本のロックシーンに届けたいという想いもあって。日本のリスナーに、世界にはこんなにたくさんの音楽があることを知ってほしい、という考えもありました。

――これまで、自分の目で広い世界を見てきた小川さんだからこそ、とても説得力がある言葉だなと感じました。

島田 結成当時から言っていることはずっと変わっていないですね。当時も今も、日本人のバンドとして世界のフェスに出演することを目標のひとつに掲げています。

“Decade”には、「次の10年間のロックシーンを俺たちが牽引していく」という覚悟を込めました(小川)

――では、新作『Class : A』について話を聞かせてください。まず、今年の3月にデジタルシングル『Decade』がリリースされました。初めてこの曲を聴いた時、サウンドアプローチがよりダイナミックに、ソリッドに、そして重厚に変化していることに驚きました。バンドとして、次のモードに突入する口火を切る1曲になったと思います。

小川 それこそ、ひとつ前のアルバム『Bleachers』は、今振り返ればポップな色合いが強かったのですが、そのアルバムに収録した“Killer Boots”が完成した時に、こういうテイストの曲を俺たちはやりたいんだな、とイメージできて。この曲で、そのモードを体現できました。

王将 “Decade”は僕と悟の共作で、僕たちのルーツとなる音楽性に、2010年代のオルタナティブシーンの現代性を掛け合わせることで、自分たちが好きな方向へ向かえたなという感覚がありました。

島田 ネクスト“Killer Boots”というか、この曲が次に進むべき道を示してくれて、「これやんな」、「いけるな」という確信をもらえて。この曲には、ありがとうという気持ちですね。

――そうしたバンドにとってのブレイクスルーとなる楽曲に、「10年間」を意味する“Decade”というタイトルをつけたのは?

小川 「次の10年間のロックシーンを俺たちが牽引していく」、「次の10年間のシーンにおいて、鮮烈なインパクトを与える存在になる」という覚悟を込めています。

――いつの時代にも「ロックの時代は終わった」という言説はあって、ロックは常にそうした時代の逆風に立ち向かい続けてきた音楽ジャンルだと思いますが、この2020年代において、真正面からロックを鳴らすうえでは、相当の覚悟が求められると思うんですよね。僕はこの新作から、そうした4人の力強い覚悟を感じました。

島田 ありがとうございます。ライブでも、これまでのポップ路線の楽曲と比べて、グッと気合いを入れて演奏していて。自ずと、ライブに向き合うスタンスも変わってきました。

上羽一志(Dr) 僕自身としては、“Decade”の制作をきっかけに、ドラムのアプローチが大きく変わりました。前のアルバムまでは、初めてデモを聴いた時のファーストインプレッションを大切にしていたんですけど、“Decade”以降は、そうしたノリを残しつつ、より深く届けるためにはどうすればいいか、時間をかけて考えるようになって。たとえば“Decade”では、サビで一気に壮大な景色が開かれるイメージで、テンポをグッと落としたり、サビの前の間奏からサビに向けての抑揚を工夫していますね。

小川 この曲ができて以降、対バンするバンド仲間からの反響も大きく変わりましたね。ここから一気にモードを変えていきたいと考えていたので、作戦大成功です(笑)。

――10月には先行配信シングル『Flashback』がリリースされました。この曲も、“Decade”で切り開いたシリアスでエッジの効いたギターロック路線をさらに突き進めていて、SLMCTの最新モードを表す楽曲ですよね。

上羽 この曲のアレンジでは初めてパッドを導入して、とてもローな音を一音だけ鳴らしているんですよね。前作までは生ドラム以外の音を入れたことはなかったんですけど、バンドとして新しいモードに突入していくにあたって、今回、新しい要素を取り入れました。

小川 これも王将と一緒に作った曲で、サビの《Flashback(訳詞:思い出せ)》という歌詞には、「自分たちが、バンドを始めた時の高揚感や期待感を思い出そう」という原点回帰の想いを込めていて、だから、この曲をアルバムの実質的な1曲目に位置づけています。

――“Flashback”と“Decade”の2曲がアルバムの冒頭に並ぶことによって、今作は、バンドの第2章の幕開けを告げる所信表明としての意味合いが強まっていると思います。

小川 はい。まさに「ここからギアを変えていく」という意思表示のつもりです。

学生の時は自転車を漕ぎながらザ・スミスを聴いて涙を流すような(笑)、決して「1軍」ではなかったんですけど、それでもいい、完璧じゃなくてもいい、っていう気分を伝えられたらな、と(島田)

――この新作に『Class : A』というタイトルをつけた理由について聞かせてください。

小川 『Class : A』は、英語で「完璧」を意味する言葉なのですが、自分たちとしては、皮肉を込めてこの言葉を使っていて。「完璧」とは逆で、「完璧な人なんていない」、「それでも、誰もが誰かにとって特別な存在なんだ」というメッセージを今作に込めています。ジャケットは金色(ブロンド)をベースとしていて、海外では「完璧」というイメージを想起させる色なのですが、その上にあえて、手書きの「A」を載せていて。

島田 その手書きの「A」は僕が書いたんですけど、「完璧じゃなくてもいい」という想いを込めています。『Class : A』には、スクールカーストでいう「1軍」という意味もあって、僕自身、学生の時は自転車を漕ぎながらザ・スミスを聴いて涙を流すような(笑)、決して「1軍」ではなかったんですけど、それでもいい、完璧じゃなくてもいい、っていう気分を伝えられたらな、と。

――楽観的で無邪気でありながら、同時に、世の中を支配するネガティブな価値観やバイアスを突き破っていくという力強いメッセージを感じます。こうしたコンセプトは、アルバムの他の楽曲にどのように落とし込まれていったのでしょうか?

島田 悟の話を聞いた時に、そのテーマに深く共感して、自分以外のパートを含めて、みんなで話し合いながらアレンジを決めていきました。全員がここまで他のパートについて考え抜くバンドは珍しいかも。

王将 我を出すのではなく、4人で楽曲をよくしていきたいという想いが全員にあって、だからこそ、足し算ではなく引き算のアレンジをすることも多いですね。

――特に“Decade”のようなダイナミクスが重要となる楽曲においては、展開の緩急をつけるために引き算が重要になりますよね。

上羽 リズムパターンについては、最初は悟が「こんな感じで」と打ち込んだデモをもとに考え始めるんですけど、たまに「まじか、それ」みたいな、絶対に自分では思いつかないようなフレーズが入っていることもあって(笑)。ただ、それが結果として最も曲に合うことも多いですね。

小川 その逆もあって、みんなのテイストが入ることで初めて曲としてよくなることのほうが多いですね。俺がひとりでやっても、ボツ曲ばっかりになってると思います。

王将 僕は、このバンドを組む前は、いわゆるギターヒーローが好きで。ただ、単に技術を伝えるのではなく、曲の良さを引き立たせることが大事だと学びました。だからこそ、前に出るところは出つつ、時には、曲のために後ろに引くこともできるようになりましたね。

リスナーが飽きないように、曲ごとにシンセ、鉄琴、サックスなどの新しい楽器を入れて。ビーチ・ボーイズの作品からヒントを得たアプローチですね(小川)

――お話を聞いていて、4人はロックバンドという表現フォーマットの可能性を強く信じているのだと感じました。ひとりでも打ち込みで楽曲を作ることができる時代においても、4人で組むことに意味があると。

島田 みんなが、「1+1+1+1=4」ではなくて、時に「4」以上の力が生まれる、というバンドの美学を信じているんだと思います。

――小川さんのルーツであるオアシスも、それぞれがソロ活動するのではなく、あの兄弟が揃うからこそ生まれたケミストリーがありますもんね。

小川 ほんと、絶対にそうですね。

王将 バンドメンバーとしてお互いの気持ちを理解し合うために、全員でパートを変えて課題曲をカバーしたこともありましたね。そうすることで、それぞれの音作りに対する意識が変わったと思います。

――ひとりのギタリスト、ベーシスト、ドラマーとして、というよりも、全員がひとりのミュージシャンとしての成長を目指す、ということですよね。アルバムの後半ではアレンジのバラエティがグッと増していて、音楽性が広がってますね。

小川 アルバムを作る時、最後のほうの曲、聴かれないなって思って。リスナーが飽きないように、それぞれの曲ごとに毎回、シンセ、鉄琴、サックスなどの新しい楽器を入れています。これはビーチ・ボーイズの作品からヒントを得たアプローチですね。

――どの曲もメロディがとても強いですよね。歌もギターのフレーズも非常にメロディアスで、観客が一緒に口ずさむ光景が浮かびます。

小川 今回も、スタジアムで数万人のシンガロングが巻き起こる光景を意識しながらメロディを書いていきました。ギターソロについても、王将にオーダーしながら一曲ずつ形にしていって。結果として、全曲を自信をもってリード曲として出せるほどの作品が完成したと思っています。

――アルバムのラストに収録される“Apartment”について、今作を《I will survive/I will revive…(訳詞:僕は生き残る/僕は蘇る》という言葉で締めくくった理由について教えてください。

小川 この曲の歌詞は決して明るくなくて切ない世界観ですが、それでも、最後には明るい希望のメッセージを乗せたくて。これはコロナ禍で書いた曲で、もちろん、コロナによって辛く悲しい気持ちになることも多いけど、それでも視点を変えれば、ポジティブに捉えることができることもあると思っていて。歴史を振り返ってみても、いつの時代もロックバンドは現実の社会と闘ってきたんですよね。だからこそ、こうした希望のメッセージを掲げることは、ロックバンドである自分たちの役割だと思っています。このアルバムが広まって、このメッセージが、より多くの人に届いたら嬉しいです。

“Flashback”MV


“Decade”MV


“Trust”MV


『Class : A』

発売中

CD品番:POCS-23017 価格:2,000円(税込)/税抜1,818円
デジタル配信も同時リリース
レーベル:MILIA CITY / Virgin Music Label and Artist Services

収録曲:8曲(全英語詞、和訳付き)
曲タイトル
M1 Introduction
M2 Flashback
M3 Decade
M4 Talk
M5 Trust
M6 Call the Police
M7 Long Story Short
M8 Apartment

全作詞:小川悟 
作曲:小川悟(M-1, M-4~8)、小川悟&大平“王将”雅樹(M-2&3)
プロデュース: SLMCT

「SLMCT『Class : A』Release Party」

2021年11月24日(水) 東京・渋谷O-Crest
2021年12月17日(金) 大阪・梅田Shangri-La

「インストアLIVE」

2021年11月13日(土)17:00~@タワーレコード梅田NU茶屋町店(大阪)
ミニライブ&サイン会実施
詳細はこちら

提供:MILIA CITY
企画・制作:ROCKIN'ON JAPAN編集部