【インタビュー】「人々が群がる反対側で何が起きているのか」――優しい眼差しに満ちた音楽ですべての心に寄り添うBialystocks。大躍進のツアー中、そのライブヒストリーと最新曲“Branches”を語る

アメリカのコピーみたいになっていた曲でも、甫木元の声で歌われることで、日本っぽく親しみやすい感じになって(菊池)

――Bialystocksは映画監督でもある甫木元さんの映画作品『はるねこ』の生演奏上映がきっかけで結成されたんですよね?

甫木元空(Vo) そもそも「バンドを結成しよう」と始まったわけではなくて。友人を介して菊池とスタジオに入ったときに、彼が作った曲を聞かせてもらって、「いつか何かできたらなあ」とふんわり思っていました。『はるねこ』の劇中の曲を再現するにあたって「同世代の人たちとやってみたいな」と思って、彼に声をかけて、他のメンバーを集めてもらって。そのライブのあとに、「せっかくだからオリジナルも1〜2曲録ってみようか」って、ゆるゆると始まった感じですね。

――お互いの第一印象って覚えています?

甫木元 最初にスタジオで会ったとき、確かふたりしかいなかったんですよ。僕らを呼んだ発起人がいたんですけど、遅れていたか何かで、面識のない僕らしかいなくて。なんかちょっと気まずかったなって(笑)。

菊池剛(Key) 歌舞伎町のスタジオで(笑)。甫木元はよくいる普通の人という印象で、小柄で「なんか歌いそうだな」「熱唱しそうだな」と。

――(笑)当時はどうやって曲作りされていました?

甫木元 今と変わらず、お互いが曲を持ち寄ってみて、「ここが弱いからじゃあこれ足してみようか」みたいに合体させたり。最初から自然発生的にそういう曲作りをしていました。

菊池 自分が歌って微妙な曲やアメリカのコピーみたいになっていた曲でも、甫木元の声で歌われることで、いろんな意味で日本っぽく、親しみやすい感じになったりして。かといって甫木元に寄せるとどこかで聞いたことがあるような曲ができあがってしまうことが多いので、自分が最初に作るものはあまり寄せないようにしています。

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photo by タイコウクニヨシ

バンドメンバーのソロパートで歓声が上がるのは、「本当に音楽好きな人たちが来てくれてるんだなあ」というのが伝わって、すごく嬉しかった(甫木元)

――ライブヒストリーでいうと、2022年2月の新代田FEVER、『Tide Pool』のリリースライブが初の自主企画ですよね。当時のライブはどういう感覚でした?

甫木元 トークをちょっとでも長くしないと時間が持たなくて……とにかく気が気じゃなかったです(笑)。初の自主企画だったので、単純に「どういうリアクションをもらえるんだろう」って、反応を伺いながらライブをしていました。

――そのあとに大手町三井ホールの初ワンマンがあって。そちらは演出もガチッと決めて、「パフォーマンス」に徹していたのかなという気がするんですけど。

甫木元 最初から「本編はMC自体なくそう」と話していて。お客さんが座ってライブを観るホールの雰囲気に合わせると何ができるのかを考えて、いつもより音楽をガッツリ聴いてもらえるように意識しました。そこから今回のツアーまで、スタッフも含めてずっと一緒のメンバーなので、「ワンマンの作り方」を知ることができた初めの一歩でした。

菊池 「めちゃくちゃ完成度上げていこう」って思ってたんですけど、実はとある曲が全然仕上がらなくて……。永遠にその曲だけリハーサルしていて、本番のリハーサルでも失敗して、ヒヤヒヤしかなかったですね。

――その曲って……?

菊池 “灯台”です。当時初披露だったんですけど、拍の取り方が変わってる曲なので、なかなかうまくいかなくて。永遠に“灯台”を練習していました。

――そして、メジャー1stアルバムを引っ提げた初ツアー「Bialystocks "Quicksand" Tour 2023」が続いて。

甫木元 初ツアーのあたりから、お客さんは声出しOKだったので、やっと声が聞こえて。「この曲でお客さんが湧く土地もあるんだ」みたいな土地柄の違いも含めて、リアクションを新鮮に受け取りました。初ワンマンは座って観てもらっていたというのもあって、お互いすごく緊張感があったんですけど(笑)、スタンディングだと一人ひとりが好き勝手に楽しんでくれてる感じがあって、ホールとはまったく違いました。

――その「この曲で盛り上がるんだ」という曲は、今まさにツアー中の「Bialystocks 2nd Tour 2023」でもありました?

甫木元 各バンドメンバーのソロパートで歓声が上がるのは、「本当に音楽好きな人たちが来てくれてるんだなあ」というのが伝わって、すごく嬉しいしありがたいですね。今回、初めて観に来てくれた人もすごく多かったので、昔からBialystocksを知ってくれてる人と初めて来てくれた人の間でリアクションに差があったりするのかなと考えてたんですけど、単純にお客さんが「いいな」と思ったところで歓声が上がる感じで、「ここで拍手をしなくちゃいけない」という空気感ではなかったのがよかったなと思います。

――初ワンマンでは“灯台”に苦戦されていたという話がありましたけど、今回“灯台”周辺の曲の流れが特に神がかっていて。

菊池 そのセクションは流れをかなり意識して、そこから組んだ……というのは言い過ぎか(笑)。でも、そこを決めてから、他をどうするか考えていきました。

――今回のツアーでの、バンド内のコミュニケーションはいかがでしたか?

菊池 一個一個の曲の立ち位置を明確にするためにアレンジを変えたんですが、それを事前にメンバーに共有できて、全員が流れをちゃんと把握してやれたのはすごくよかったです。今までなかなかそこまで余裕がなかったので。


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完成形まで楽曲を作りあげることをこのバンドからやり始めて。当初より耳も進化したので、“Branches”のような音楽にトライしてもなんとかなるんじゃないかと(菊池)

――ツアーを通してバンドのグルーヴが高まっている中で、「新曲はバンドサウンドに寄るのかな」と思っていたところにリリースされたのが“Branches”という密室的なアレンジの曲で。この曲は菊池さん作曲ですが、どういった形で作り始められたんですか?

菊池 普段と同じなんですけど、ギターかピアノの弾き語りで作り始めて、英語で入れた歌詞に、甫木元に無理やり日本語をはめさせる、みたいなプロセスですね。

――長いアウトロや、サビで大胆にサウンドのアプローチが変わるのは、Bialystocksの楽曲の中で今までもあったと思うんですけど、それが1曲にギュッと凝縮されているのって、今までにない新しい扉だなと感じて。サウンド面で、今までと違うアプローチをしようという意識はありました?

菊池 やってそうでやっていない感じというか、自分でも聴くことが多いインディー寄りの音楽にトライしてみようかなと。こういう引き出しは初めからあったんですけど、作るのがなかなか難しいし、甫木元との相性もあって、あまりやって来てなかったので。

――なぜ、このタイミングでできるようになったんですか?

菊池 アレンジから完成形まで楽曲を作りあげることをこのバンドからやり始めたので、スキルがない状態でやってきていて。まだまだですけど、当初よりは耳もちょっと進化したので、こういうジャンルにトライしてもなんとかなるんじゃないかと思いました。

――仮歌は英語だったとのことですが、いつも「よくこのメロディにこの日本語入れたなあ」みたいなことをBialystocksの歌詞に感じていて。今回も《情感には実感を 競争から想像を忘れて》のあたりにそれを感じました。

甫木元 一旦日本語の意味を忘れて、「菊池英語」が入ってた音を生かしながらどう日本語に置き換えられるのかを、パズルみたいにやっていて。そのパズルの中で、「この言葉とこの言葉は普段並ぶことはないけど、並ばせてみたらどうなるんだろう」って、レコーディングしながらも、発見していきました。

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小さい頃から、「みんながワーッって群がっている反対側では何が起きてるんだろう」っていうほうが気になって。もしかしたらそっちのほうがすごく広いんじゃないかなと(甫木元)

――この曲の《競争から想像を忘れて》のあたりのフレーズは、甫木元さん執筆の小説『はだかのゆめ』で書かれていた「たまたまの想像力を持てたら、もう少し優しく生きられる気がする」のくだりを想起して。不安定なこの時代に関して、甫木元さんが今思われてることがフラットに出てるのかなと思いました。

甫木元 なんか、いつもより暗いですよね(笑)。今回は、何かを肯定したり背中を押したりみたいなのとは違う、暗い歌詞になってもいいのかなと最初から思っていて。今言ってもらった小説の部分のような、独り言のようにもうひとりの人格が喋ってる感じの歌詞にしようと考えてました。サウンド的には、劇的な感情の吐露もハマるなと思ったんですけど、菊池から「今回はこういうアレンジにしたい」っていうイメージを聞いていたので、あまり言葉が強すぎてもなと。話と話の間の、空中を彷徨っているような、ただ何も起きていない時間の中で、ずっと同じことを繰り返し考えてしまうような――劇的なことが何も起きないほうがいいというのは、漠然と思っていました。大嵐が来る前の予感だけがあって、それを待っている人、みたいなイメージです。

――甫木元さんは、映画でも音楽でも、そういう感情と感情の間、出来事と出来事の狭間みたいなあわいを書かれることが多いように感じますが、その理由はありますか?

甫木元 単純にひねくれてるからかもしれないです(笑)。もうちょっとわかりやすくすれば、簡単に伝わるとは思うんですけど。映画を観終わっても、「このあとで何やってんだろうな」とか「その前何してたんだろう」とかが気になって。小さい頃から、「みんながワーッって群がっている反対側では何が起きてるんだろう」っていうほうが気になってしまいます。深海にもわかっていない部分が多いように、もしかしたらそっちのほうがすごく広いんじゃないかなと。ひとりの人間が作れる物語の数ってそんなにないし、自分の引き出しも多くないと思っていて。なるべく他人が行っていない方向をちょっとずつ掘って、模索してきたと思ってます。

菊池 甫木元のその「間を書く」という感覚は自分も同じというか。例えば「頑張れ」とか「愛してる」みたいな歌詞を書ける人生のほうが絶対楽だったなと思うんですけど、そう言えないタイプの人間だから(笑)。

――菊池さんの音楽的な進化と甫木元さんの根底にある思想がこの“Branches”に結晶して、Bialystocksの新しい扉が開かれて。この次はまた違った方向性の曲が出てくるんでしょうか? それとも、この内省的な、新しい扉を開いたまま別のアプローチに続いていくんでしょうか?

甫木元 行ったり来たりはするとは思いますね。ありがたいことにタイアップをさせてもらうこともありますが、第三者が介入するっていうのは、すごくいいことだと思ってるんです。それがまた自分たちがやってなかったものになったらいいなと思いつつ、内省的な扉はいつでも開いてはいるので(笑)、あまりひとつのイメージにならなければいいなと。それを意識しすぎて、「毎回全然違う曲を出していきます」という感じでもなくて。最初から変わらず、流れに身を任せるバンドであれたらと思ってます。

――2ndツアーの追加公演として、9月10日にEX THEATER ROPPONGIという、今まででいちばん大きいキャパシティでのライブが迫っています。そこに向けての意気込みは?

甫木元 ツアーをいい感じに締めくくれるようにしたいですね。今回は個々のメンバーが立つ構成になっていて。僕もバンドでツアーを回ってるという感覚を今まで以上に感じているので、9月に最終形態をお見せできるようにしつつ(笑)、頑張ります。

菊池 持ち曲の数的に今はライブでほとんどすべての曲をやっているんですけど、この次のツアーからは曲を選ぶことになると思うので、今までの曲を完璧に仕上げて、悔いを残さず次に行けたらいいなと思っています。

“Branches” MV


●リリース情報

11th Digital Single『Branches』

配信中

●ライブ情報

「Bialystocks 2nd Tour 2023」


提供:提供:©PONYCANYON/IRORI Records
企画・制作:ROCKIN'ON JAPAN編集部