甫木元空(Vo)と菊池剛(Key)のふたりに加え、フルバンドにコーラスも入った8人編成。MCなしでシームレスに続いてゆく曲。虚飾を排したシンプルな光と影の演出──まさに「総合芸術」と言うべき贅沢な時間。その圧倒的な音世界に五感をぐわんと押し広げられ、耳の中から体の奥まで、ライブで味わった音がずっと共鳴しているような感覚で週末を過ごした。
改めて感じる、クリアなハイトーンでありながら滋味深くまろやかさのある甫木元の声、20世紀初頭の映画音楽からモダンジャズまで自由に行き来する菊池のピアノの素晴らしさ。ラテン的なピアノのイントロで再構築された“灯台”、現代詩のパフォーマンスのような“朝靄”からの流れなど、めくるめく音のスペクタクルを展開しながらも、その中心にあるのはいつも歌とピアノなのだった。
アンコール前の数少ないMCで、Bialystocksの多くのジャケットの絵を描いてきたアーティストの竹崎和征さんが亡くなったこと、「その名前を覚えていてほしい」という想いが甫木元から語られた。今回“ただで太った人生”や“フーテン”のような牧歌的な曲でも胸がぐっと締め付けられたのだが、それはBialystocksのすべての歌が、喪失の原点に立って紡がれる愛しい記憶のきらめきだからなのだなと思った。
秋には待望のアルバムのリリースと、Zepp公演を含むライブハウスツアー「Bialystocks New Album Tour 2024」が控えている。稀有なアーティスト性を抱えたまま、どんどん大きくなってゆくBialystocksから目が離せない。(畑雄介)
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