2021年にmurffin discsに移籍して以来、よりポップでポジティブな音楽性へと変化を遂げているIvy to Fraudulent Game。この9月に届けられた新アルバム『RE:BIRTH』には、既に上京していた福島由也(Dr)に次いでメンバー全員が群馬から上京したこと、11年間活動を共にしたギター・大島知起の脱退といった大きな転機を乗り越え、今だからこそ綴れる言葉で、バンドの本心のメッセージが込められている。
このアルバムに込めた思いと、上京してからの心境の変化や3人での活動についてなど、バンドのありのままの「今」を語ってもらった。さらに、このインタビューは9月29日(金)発売の『ROCKIN’ON JAPAN』11月号にも掲載する。WEBでは載せきれなかったアルバムの収録楽曲についても深く語ってもらっているので、あわせてチェックしてほしい。
インタビュー=有本早季
キラキラしてる人たちの中を、死んだような顔をして歩く自分を客観視して、俺は今、どよんとしてんだろうなって(笑)。けど、そういう思いをしに東京に来た(寺口)
――4月に上京を発表されましたが、今までまったく東京に住んだことはなかったんですか?寺口宣明(Vo・G) 福ちゃんはあるよね?
福島 俺は先にずっと東京に住んでいて、ふたりが上京してきました。
寺口 自分たちは群馬が地元なんですけど、そこにずっといて。
――バンドのターニングポイントはこれまでもいくつかあって、上京を考えるタイミングもあったのかなと思ったのですが。
寺口 ありましたね。ただ、来たほうがいいと言われたことはあったんですけど、一体何が変わるんだろう?みたいな。群馬だと、距離的にも2時間ぐらいで行けるので。でも、だんだんと、人生の中で1回ぐらい東京での暮らしをしてみたいというか、どんな景色が見えるんだろう、と思い始めて。生まれてから去年まで、ずっとそこが生活というもので、世界だったので、飛び出すんだったら今かなって思えたので来ました。
――東京に出てきてみて、生活面やバンド活動における点など、実際に変化はありましたか?
寺口 やっぱり曲が変わったことと、考えも変わったし、書く歌詞が変わったかな。このアルバムでもそう思います。たとえば、レコーディングのあと本当に疲れきって電車に揺られて帰ってると、駅前がすごくキラキラしてて、やっぱみんなイケてるんですよね。 すごくキラキラしてる人たちの中を、死んだような顔をして歩く自分を客観視して、俺は今、どよんとしてんだろうなって(笑)。けど、そういう思いをしに来たというか、頑張るために来たしな俺、みたいな。歩くことが増えたので、 そのぶん視界に映るものも変わってきますよね。車に乗ってると通りすがる人の表情とか声はわからないですけど。人の声が聞こえてきたりだとか、日常の中でのインプットがさらに多い気がします。
――今作の『RE:BIRTH』というタイトル、日本語訳すると、生まれ変わること、再生、といった意味があって、2021年にも『再生する』というタイトルのアルバムを発売されていますが、このタイトルをつけた理由を伺ってもいいですか。
寺口 このアルバムを制作していて、最後に出てきたのが“BIRTHDAY”っていう曲なんですけど、すごく僕たち感動しまして。タイトルも考えてはいたんですけど、メンバーの脱退があったり、東京に出てきたことも「生まれ変わる」っていうタイミングでもあるので、“BIRTHDAY”から引っ張ってきて『RE:BIRTH』というタイトルに決まりました。プラス、発売日が(福島の)誕生日なので(笑)。『再生する』とテーマ的に似てるかなと思われるかもしれないけど、僕の中では『再生する』はコロナ禍で作ったアルバムで、あのときは「再生」を「再び生きていく」っていう考え方をしてたんですよ。ただ、今はもう本当に状況が変わった、メンバーがいなくなった……想像してなかった未来にいる中で「再び生まれ変わる」のほうの「再生」なのかな。そこのニュアンスがちょっと違うかなって思いますね。
――『RE:BIRTH』も前作『Singin’ in the NOW』から引き続き、ポップで前向きなモード全開ですが、前作を経ての手応えはいかがでしたか?
カワイリョウタロウ(B) ライブがより色鮮やかになったというか。(前作の)アルバムの曲との相乗効果で、今までやってきた曲の色味もすごく強くなった。ライブのバリエーションも増えて、フロアとステージのシンクロ率がすごく高まったライブをしてるなっていう感じです。
人生で言いたいことってそんなないんですよ。溢れ出るときもありますけど、その中に愛や恋っていうものがまったくないなんてことはないので、書きたいという思いはあります(寺口)
――“sissy”と“花火が鳴って”はどちらも寺口さん作詞作曲のラブソングで、私が面白いなと思ったのが、どちらも主人公の視点が今の寺口さんより若くて。あえて今の寺口さんが書くからこそ、幅広い世代に届く曲になっているのではないかと感じたのですが。寺口 あー、面白いですね。年齢は意識してなかったですけど、そう言われると、確かにそうかもしんない。でも、俺はまったくそこにリアリティを求めてないというか。たとえば、この9月に出すアルバムに入っている“春の中へと”を今聴いたとして、たぶんそこに違和感があって停止する人はあまりいなくて、むしろその季節に行けるってことだと思うんですよ。あー、この曲若い子の曲だから自分聴けないなって思うことってあんまないと思ってて。やっぱその瞬間に戻るし、それが音楽の素晴らしさであり、それをできるのがいいバンドであり、いい曲なのかなって思うので。
――少し質問の角度を変えますが、寺口さんがラブソングを書くうえで気をつけていることや、こだわりがあれば聞きたいです。
寺口 ボーカルなので、自分が歌うっていうのを頭に入れて作っていて。言える言葉と言えない言葉が誰しもにあると思ってますね。たとえば、今ラブソングを書くときに「愛してる」ってまだ言えない、とかがあるんですよ。でも「今会いたい」だったら言えるかな、みたいな。曲が連れてきてくれる言葉はあるんですけど、 歌ったときの説得力というか、言える自分なのかどうかということを、ラブソングのときはめちゃめちゃ考えますね。
――歌っている自分と歌詞があまりにもかけ離れてしまわないようにということですね。
寺口 ちょっと早いだろ?とか、これ言えねえな、いや、これは今言えるな、あのときは言えなかったけど、みたいにいろいろ考えます。もうラブソングからは逃げられないですよね。人間として生まれてしまった以上、ラブソングは書いていったほうがいいなと思うので。
――ロックバンドだと、恋愛をテーマにした曲がないバンドもいるのかなって思うんですけど、ラブソングを書きたいという思いがあるんですね。
寺口 うーん、だって人生で言いたいことってそんなないんですよ。溢れ出るときもありますけど、その中に愛や恋っていうものがまったくないなんてことは俺はないので。そこは書きたいという思いはありますね。ラブソングというか、愛っていうのは、みんなちょっと恥ずかしいというかね、くだらねえって思うタイミングもあったと思うんですけど、すごく大切なものだと思っています。
(“あのまちこのまち”を書いたときは)群馬から出たばっかりなので、戦う気持ちでしかなかったし、そんな気持ちに戻れる曲(寺口)
――“あのまちこのまち”は、上京したことがすごく反映されている曲ですね。寺口 そうですね。東京に出ると決めて引っ越し準備をして、 そのときに思ったことを忘れないでおこう、という感じで書きました。群馬を出る前は、東京は距離も近いし、 まあなんとかなるだろう、という気持ちで準備してたんですけど、引っ越しの前日の夜にすっからかんになった部屋の中で、あ、こんな急に寂しさというか、不安が襲ってくるもんなんだと感じて、これも忘れないでおこう、って。でも、慣れてしまえばたぶん出てこない言葉だなって思いながら書きました。
――《道を譲ってたら/赤に変わる信号》っていう歌詞が私はすごく好きで。こういうことあるよなって思いました。優しい人が損をしてしまう瞬間というか。
寺口 やっぱ田舎より人の波が多いじゃないですか。列の中にいて、ちょっと外れてしまったらもう入っていけない、自分が歩けなくなっちゃう、みたいな瞬間もあったりして。かと言って、染まりたくない、冷たい人にはなりたくないって思ったりもする。その優しい気持ちを忘れたくないという思いを込めた感じですね。ただ、本当に上京してすぐ書いたので、まだ東京に対してのレッテルを貼ったまま書いてる部分もあります。今になって思えば、優しい人ってたくさんいるし、温もりもあるし。だけど、このときは群馬から出たばっかりなので、戦う気持ちでしかなかったし、そんな気持ちに戻れる曲かなと思います。
――2015年にリリースされた“東京”は福島さん作詞作曲ですが、寺口さんの上京ソングを聴いて感じることはありましたか?
福島 僕が上京したときってまだ10代の頃で、今この年齢で東京行くのと全然覚悟が違うじゃないですか。やっぱその重さの違いみたいなのを感じて、すごくいい曲だなと。今のIvyの“東京”じゃないけど。 あれはあのときの僕の気持ちなので過去の曲を否定してるわけではないですけど。今自分が聴いて、リアルに感じられる東京だなって感じましたね。
――逆に寺口さんはこの曲を書くときに、“東京”のことを頭に浮かべたりしましたか?
寺口 あー、同じようなことを考えたかもしれないですね。福ちゃんが群馬を離れるときに、思ったことを曲にしたいと思った気持ちはめちゃめちゃわかったし。“東京”っていう曲がなければ「東京」ってつけてたろうなって(笑)。でも、群馬に住んでたときは、東京のことを「あのまち」って呼んで、群馬のことを「このまち」って呼んでたけど、今は違って、東京が「このまち」で、群馬が「あのまち」っていう変化の意味も込めて、このタイトルにしました。
――改めて言語化すると、寺口さんにとって東京ってどういう街ですか?
寺口 頑張らせてくれる街という言い方ができると思いますね。リアルなことを言うと、金もかかるし、向こうにいるときより、いろいろと大変だったりする。窮屈に感じるとこも多いですしね。こっちにいると、なんでもあるけどなんにもない、みたいな日々がありますし。群馬ではメンタリティ的にも、安心できる人が近くにいたりだとか、落ち着くというのがすごく強かったんで、甘えられる場所は少ないですね。
――「なんにもない」っていうのは、気持ちのよりどころが少ないという意味ですか?
寺口 うーん、それも含めですけど。なんだろう、予定立ててそこに行こうと思わなかったら、別にどこも行かないじゃないですか。どこでも行こうとすれば、めちゃめちゃ群馬よりも恵まれて楽しい街なのに、そんなに楽しくはないっていう。
――自分で動かないと何にもならないということですね。
寺口 だから、楽しい街っていうより、頑張る街なのかな。でも、できるだけ刺激を求めてるので、人と話そうとか、出会おうとはしてます。
今まで以上に、 今のメンバーふたりに対しての信頼感やバンド感みたいなものを強く感じるようになった(福島)
――冒頭でもお話しいただいた通り、上京以外にもギターの大島さん脱退という大きな転機がありました。最近では、サポートギター募集オーディションを開催されていましたが、大島さんの脱退からオーディション開催に至るまで、どのような気持ちの変化がありましたか?福島 最初は確かにすごくパニックで。それから3人のサポートギタリストの方とたくさんライブやってきたんですけど、僕の場合はライブを重ねていくにつれて、今まで以上に、 今のメンバーふたりに対しての信頼感やバンド感みたいなものを強く感じるようになって。それからは、サポートギタリストによって、バンドの雰囲気だったり、音楽自体もいい意味で全然違って聴こえたりするのがだんだん面白いと思うようになりました。前を見て活動していくことで、見えてきたものとか、感じられることが生まれたりするんで、そういう経験を重ねていきたいなっていう気持ちでオーディションをやりました。
――カワイさんはいかがですか?
カワイ メンバー脱退っていうのが自分たちに起こりうることではないって勝手に思ってたんで、正面から向き合うと、すごくショッキングなことで。当時は、どうしようかなっていう気持ちがすごく強かったんですが、バンドを続けていくっていう選択をしたうえでは、どうしてもギタリストが必要で。今は3人の方とやってるんですけど、新しいギタリストとやるとすごく刺激になって、これはバンドにとってもすごくいい変化になるなって思いました。あとは現実問題、3人だけだとスケジュールの関係もあって、サポートしてもらえない日とかもあったりする。で、自分たちがしらみつぶしに探していくだけだと限界があるなと思って。オーディションだと、元々自分たちのことを聴いてくれてた人が弾いてくれたりとか、逆に、新しく聴いて興味を持って参加してくれた人もいたので、やってよかったと思ってます。
――確かにオーディションでなければ出会えない人がいますよね。そして、Ivyがmurffin discsに移籍して、9月で2年になりました。ロックバンドでありながらポップな歌であることに重心を置いていたり、歌そのものとバンドの生き方が地続きになっていたりという部分は、murffin discs所属のバンドらしさだなと個人的には感じるのですが、Ivyもだんだんそうなってきている印象があって。そういった変化は、移籍して影響を受けたからなのでしょうか?
寺口 murffin discsに入るときも、俺たちはこれから変わっていくというところを見据えながらの「よろしくお願いします」だったので、その辺も考えてたぶん俺たちに声をかけてくれたでしょうし。もし『再生する』というアルバム以前のままの自分たちだったら、もしかしたらmurffin discsと合わなかったかもしれないな、とも思いますね。
福島 元々自ら望んで変わっていったっていうのもあると思うし、でもmurffin discsの雰囲気に影響を受けてる部分もあるとは思います。エネルギーを感じるっていうか、自分たちが考えつかない案も、こうしたらいいんじゃないか、ああしたらいいんじゃないかっていうことを言っていただいたりするんで、すごく刺激になります。
寺口 より自分たちで考えるようになりましたね。1個1個のことに意思をより強く持てるようになってます。それがやっぱりかっこいいバンドだと思いますね。
――インディーズに移籍してから地道にライブ活動を行って、ようやく売れたバンドも実際にいるので、Ivyも何か起こしてくれるんじゃないかって勝手に期待しています。
寺口 そのつもりですので楽しみにしててほしいですね。もしこれ今読んでる人が、おっ、てちょっと気になったら、騙されたと思って1回ライブ来てほしいし、音楽聴いてほしいです。
9月29日発売の『ROCKIN'ON JAPAN』11月号にもIvy to Fraudulent Gameのインタビューを掲載!
他ラインナップはこちら
“追いかけて”MV
“花火が鳴って”MV
“BIRTHDAY”MV
●リリース情報
5th ALBUM『RE:BIRTH』
〈収録曲〉
M1. 追いかけて
M2. 春の中へと
M3. sissy
M4. 花火が鳴って
M5. All Things Must Pass
M6. WONDER LAND
M7. 痕
M8. I MY ME MINE
M9. B.O.Y.
M10. ハイパーイメージ
M11. あのまちこのまち
M12. BIRTHDAY
●ツアー情報
Ivy to Fraudulent Game Presents "揺れる“tour
10/2(月)shibuya eggman※Concept One Man
【対バンツアー】
10/14(土)周南 LIVE rise
10/15(日)MUSIC ZOO KOBE 太陽と虎
10/21(土)前橋DYVER
10/22(日)HEAVEN'S ROCK 宇都宮 VJ-2
10/28(土)京都MUSE
10/29(日)岡山CRAZYMAMA 2nd Room
11/3(金・祝)水戸LIGHT HOUSE
11/4(土)千葉LOOK
【ワンマンツアー】
11/23(木・祝)仙台 LIVE HOUSE enn 2nd
11/25(土)札幌Bessie Hall
12/2(土)金沢vanvanV4
12/3(日)新潟 CLUB RIVERST
12/9(土)高松DIME
1/6(土)広島SIX ONE Live STAR
1/7(日)福岡INSA
1/13(土)名古屋ell.FITSALL
1/21(日)心斎橋BIGCAT
1/28(日)Zepp Shinjuku (TOKYO)
Ivy to Fraudulent Game オフィシャルサイト
提供:株式会社エッグマン
企画・制作:ROCKIN'ON JAPAN編集部