【インタビュー】Mega Shinnosukeが問いかける、今の時代にアーティストをやる意義。衝動まみれの新作『ロックはか゛わ゛い゛い゛』完成

アルバム全体のテーマは、特にない。自分のそのときの状態が出て、結果的にそうなった。今回の『ロックはか゛わ゛い゛い゛』は、「音楽やってて楽しいよ」という感じ

――3枚目のアルバム『ロックはか゛わ゛い゛い゛』はどんなものにしたいと考えていたのでしょう。

「ぶっちゃけて言うと、アルバム全体のテーマは、特にない。今までアルバムのテーマを言っていたと思うんですけど、後づけというか。自分とアーティストとしての自分があまり乖離してないから、そのときの状態が出て、結果的にそうなったという感じで。今回の『ロックはか゛わ゛い゛い゛』は、『音楽やってて楽しいよ』という感じ。ははははは(笑)」

――前回、“一生このまま”を配信リリースしたタイミングで取材させてもらったとき、「やらなきゃいけないと思っていることをやめればやめるほど元気になっていく」という話をしてくれて。そのマインドを音楽に昇華すると、ただの綺麗事として届いたり、もしくは世捨て人みたいな表現になったりしかねないところ、Megaさんはこのアルバムでそれをヘルシーな状態のまま音にパッケージできていて。まずそこに感動しました。

「最近友達がTikTokを手伝ってくれていて、アプリを開くタイミングが増えたんですよ。そしたら、素人なのか、どこかの大手レーベルが素人っぽく仕込んでるのかわかんないですけど、似たような感じの曲で『素人が作ってみた』みたいな動画が結構あって。そういうのを観ていると、多分俺がいちばん音楽を楽しんでる素人だと思ったんですよね。こうやって一丁前にインタビューしてもらえるような感じになってるけど、『本気の素人が作ってみたよ』みたいな、それだけなんですよ」

――音楽を始めたばかりのピュアさとか、根源的な喜びに忠実であるということですよね。「Mega Shinnosukeは新たなカルチャーを作る人」みたいなイメージとかが世に出がちだけど、Megaさんとしてはただ単純に「楽しいことをやってる」「ダサいことはやらない」みたいな。

「そうそうそう。そんな、何も背負ってないですよ。僕の生活から作っているだけで、狙いがないというか。僕、このアルバム、かなり気に入ってるんですよね。呑気に作ったんですけど。見せかけじゃない才能を感じますね、僕から(笑)」

――自分で「アルバムを気に入ってる」というのは、これまででいちばん作為的なものがなく、肩の力を抜いて作ることができて、だからこそ結果的にいい音楽ができた手応えもあるということですよね。

「そう。『作ってみた』の動画を観ていると、音楽をやる理由として『音楽をやりたいから』以外のことがすごい見えるんですよ。でもいちばん大事な理由って、『好きで楽しくてやりたいから』じゃないですか。俺みたいにふざけて『イェーイ』ってやってるやつがいいもん作れちゃったら言うことないし、いちばんいいんじゃね?って。だから、衝動ですよね。『かわいい』っていうのも衝動だし」

「好きじゃないからやらない」というのが俺の美学。それを基準にしていると、どんどん僕のマインドに近い作品ができてくると思います

――“東京キライ☆”のMVも衝動の塊みたいな作品ですよね。たとえば「バズらせるためにどんなものを作ろうか」みたいな思惑からスタートした映像だったら、観る側の気持ちが冷めると思うんですけど、そうじゃなくて、ただ「頭おかしいな」っていう(笑)。

「あのMVも友達と作ってるんですけど、最近よく使うワードに『これは“やり”だわ』っていうのがあるんですよ。『やっちゃってるね』っていう。MVの撮影のときも、釘が刺さってる手に血糊を垂らそうかなと思ったんですよね。でも『それ“やり”だわ』みたいな。目立てればなんでもいいというわけでもないんですよ。そのバランスが、センスかもしれないです。『やってるな』と『かましてる』はちょっと違う」


――その感覚の違いを、もうちょっと言語化してもらってもいいですか。

「ものを作る人でも、ものを売る人でも、『やっちゃってる』クリエイティブのほうが安心すると思うんですよね。でも、引き算をする勇気を持っていたほうが非の打ちどころのない作品になると思うんですよ。『こっちのほうが売れそうだからやっておこう』『売れるための努力をしたよね』となれたほうが楽かもしれないんですけど、俺的には『好きだからやっているのかどうか』がデカい。『好きじゃないからやらない』というのが俺の美学で、それを基準にしていると、どんどん僕のマインドに近い作品ができてくると思います」

――まさにこのアルバムにはMegaさんのマインドに近いものが出ていて、自分の心臓を取り出してそのまま手渡している、みたいな作品だと感じました。

「『売れてどうするんすか』とも思うんですよ、いっつも。頑張って売れてデカい会場でやっても――それができる人はもちろんすごいんですけど――それができたあとにどうなるんですかね、という気持ちがあるんですよ」

――アーティストが活動を続ける中で、「大きなステージに立つ」みたいな成功と人間としての幸せが必ずしもイコールではない、というジレンマに陥る人もいますけど、Megaさんの場合、自分にとっての幸せとは何かがすでに見えている。

「あ、それはそうです。自分の音楽に共感してくれる人がいて、それが10人であってもそんなに不幸じゃないんですよ。自分のお客さんがいるだけでわりと幸福というか。自分の音楽をやれていることのほうがいい。だからこの作品って攻めてるんですけど、自分の幸福感とか信念に対してはすっごい優しいのかもしれないです。自分がいちばん面白いと思うものを世の中に生めているから」

――だから健康的なエネルギーを感じさせる音楽になっているんだなとも思います。

「パンクバンドの起源的なことを、現代技術を駆使してやっているのかもしれないですね。当時の人も『政治が』『ドラッグが』とかいろいろ言うけど、自分たちがやりたいから衝動的にやってるわけじゃないですか。芸術って、自分たちがいいと思って、それを世の中に出したいからでしかないんですよ。今、いろんな情報がネットやメディアで見られるし、それを器用に活用すれば数字が取れちゃったりするから、俺からしたら暗黒な世界になってきていて。自分がいいと思って、『めっちゃいいんだけど、聴いてくんね?』っていう、それがやりたいんですよね」

カルチャーというのは、全員を巻き込むというより、わかってる人が巻き込まれることによって作られていくものだと思う

――今作には、初期の曲である“桃源郷とタクシー”も収録されています。そもそもなぜ今作に入れようと思ったのか。そして今日話してくれたマインドは当時から持っていたものなのか、それとも変化してきたものなのかを聞きたいです。

「“桃源郷とタクシー”は、クソ最高なので入れたって感じです。でもちょっと音圧が気に入ってなくて、最近、最高なエンジニアに会ったので、その人に音圧を上げてもらって入れました。別に気にしなくても生きていけることはたくさんあって、それをちゃんと自分で『クソどうでもいい認定』することによって、クソ最高なことをしっかりやれるようになったのかもしれないです。で、“桃源郷とタクシー”って曲はクソ最高だと思ったので入れました。あと、“10000回のL.O.V.E.<3”もかなり出来がいいので入れました」


――やっぱりそこもシンプルな理由なんですね。

「特に明確な理由とかないんですよ。いや、明確な理由しかない。クソ最高という明確な理由。変化でいうと――飲み会とかに行くとミュージシャンの友達が増えるじゃないですか。俺は17歳のときから音楽で食えてるけど、売れてるイメージの人もバイトしていたりとか、普通にあって。ちょっとダサい話だけど、それに影響受けちゃって『ちゃんと音楽で生活していくんだ』みたいな気持ちはあったかもしれないですね。でも今はクソどうでもよくて。音楽で食っていくということは、顔が見えない人とかライブに来てくれない人にも、クリックしてもらう必要があるじゃないですか。そういうことをちゃんと狙って頑張ってる人がいっぱいいる中で、『そういうことに努力する俺の人生の時間って、クソ無駄じゃね?』って。カルチャーというのは、全員を巻き込むというより、わかってる人が巻き込まれることによって作られていくものだと思うから。その場にいる、いい意味でキモいやつらが『おまえは同志だな』みたいなことが起きるのが『カルチャーができる』ということだと、コロナ禍が明けてからのライブハウスとかクラブで強く気づきました」

――5月に出した“一生このまま”はロックモードで、DTMをいじるよりとにかく爆音を鳴らしたいという話をしてくれたと思うんですけど、そのあと8月にヒップホップビートを主軸にした“TOKYO VIDEO”にいったのは、どういう想いからでしたか。

「打ち込みもずっと好きだし、“一生このまま”がロックサウンドだったのでその流れにしたんですけど、結論から言うと“TOKYO VIDEO”をシングルで切ったのはちょっとミスったなと思って。『やり』ほどじゃないんですけど、『Mega Shinnosukeすぎるな』っていう。曲自体は気に入っているんですけど、『これ最高だから出せ! ピョン!』みたいな感じの曲でもよかったのかな……いやまあ、本人はそう思ってるけど、別にリスナーのみんなは気にしなくていいからな、って書いといてください」


――アルバムの中で“TOKYO VIDEO”“lofi beach with ü”の流れはめちゃいい感じですけどね。

「そう、いい感じなんですよ。アルバムにワンテンポ違う曲としてバラードを入れるとかあるじゃないですか。でもバラードを作る気になれなくて。だから遅い曲の方向性として僕のルーツであるLoFiを入れようと思ったというのはあるかもしれないです」

“酒を飲んでも神には成れない”がいちばんいい曲だと思う。間違ったことを言ってないと思うんですよ

――“酒を飲んでも神には成れない”“aishiteru_no_mention”“迷子なblue”あたりが特に最近のモードで書いた曲ですか? 衝動のまま曲にした、みたいな。

「あ、そうですね。“酒を飲んでも神には成れない”がいちばんいい曲だと思う。クラシックじゃんって思ってるんですけど。俺的にはすごくいい曲なんですよね。間違ったことを言ってないと思うんですよ。ツイートみたいな曲で、作為的なものが一切ないですからね。暇だし曲でも作ろうかなと思って、Eコードから始めて、ちょっとグランジっぽく作ろうと思って。《叫びたくても住宅街だし》って言ったときに、『あ、これは来た。もう、すごくいい。ここがもう神』と思って」

――1枚の中にロックもシティポップもLoFiもヒップホップも初音ミクも共存しているのも、このアルバムやMega Shinnosukeの面白いところで。なぜ今回初音ミクを使おうと思ったのかを訊いてもいいですか。

「ちゃんミクを起用した理由は、僕が好きな海外のラッパーとか、ハイパーポップの流れの人が、日本のカルチャーをサンプリングして、アニメの声を使ったりファッションに『クレヨンしんちゃん』を使ったりしていて。俺がニューヨークへ行ったときにできた友達もそうだったんですけど、日本のカルチャーが好きなアメリカ人が多いんですよ。前までだったら『アニメのTシャツを着てる人はオタク』みたいな感じだったと思うんですけど、今は本当の意味でストリートカルチャーになっていて、好きなアニメを自分のファッションにかっこよく落とし込むことが流行ってきているというか。それを逆輸入みたいな感じで、日本人がアニメやネットカルチャーをヒップホップとかエレクトロに落とし込むと面白くなるんじゃないかなと思って、ちゃんミクとコラボしました」


――初音ミクの歌がある中にMegaさんのラップが入ってくることも大事なポイントですよね。

「わざとラッパーっぽい言い回しとかを入れているんですよ。最初の『OK』とか『eyday』とか。それによってラップカルチャーへの関心と、ラップカルチャーがあるからアニメ/ネットカルチャーが立っている現象を、僕の解釈で表しているっていう。……ちゃんと喋りすぎましたね。『最高だけが理由だ』みたいな感じだったのに、これを読んだ読者は『意外と考えてるやん』ってツッコミたくなってると思うんですけど、これも『最高なので考えて選択してます』ということですね(笑)」

――今日話してくれたマインドが研ぎ澄まされている中で、ライブの表現はどういうふうに変わってきていると自覚していますか。

「最近あんまり歌ってなくて。サビとかあんまり歌わないようにしてます。俺も聴いてるし踊ってるって感じ。僕のライブに歌を聴きにきている人っているのかな……まあ人それぞれだからいるか」

――歌も聴きたいだろうけど、それだけじゃなくて、それこそその場の衝動とかパッションを体感したい人たちが集まってきている感覚があるということですよね。

「そうそう、そうなんですよ。だから好き放題やってる感じですね。あ、ライブについて言いたいことありました。僕、Twitter(現X)で、『今年は予算とか状況が合えばほぼ全てのライブオファーを受けます』って言ったんですよ。イベントって集客のために、みんなが『誰々と誰々が出るから行こう』ってなるような、『なんとか系』とかに寄せた組み合わせを作るじゃないですか。俺は独特すぎて、いつまで経ってもどこにもハマらないんですよ。かぶるアーティストがいないというか、かぶりかけても永久に俺がピョンって飛び出しちゃう。だから全然イベントに呼ばれないんです。ナンプラーみたいな感じ」

――クセが強い(笑)。

「でも俺のライブは最高だと思っているんですよ。どこに出ても刺さる人はいる。100%いけるんですよ。だから全部受けるというスタンスになりました。これはちょっと書いておいてほしいですね。イベントを本当に盛り上げたい気持ちがあったら、俺を出せっていうことなんです。それでお願いします」

――わかりました(笑)。Megaさんはアーティストにとって大事なこととか音楽の根本をストレートに語ってくれるからインタビューしていても面白いし、貴重な存在だなと思います。

「これがアーティストをやる意義ですから。それを忘れちゃって『音楽を仕事にするってこういうことだからさ』みたいなミュージシャンが多いんですよ。いやいや、みたいな。俺はそういう感じはちょっと無理なので。音楽で飯を食えることだけが正義じゃないから、仕事しながら音楽やったっていいし。生きづらいっちゃ生きづらいですけど、自分がいい作品を作れている自覚があることによってすべてOKになるというか。むしろそれを失ったら生きている意味あんのかな、って感じですね」

●リリース情報

アルバム『ロックはか゛わ゛い゛い゛』

発売中


●ライブ情報

Mega Shinnosuke ONEMAN TOUR「ロックはか゛わ゛い゛い゛」


「MEGA 弾き語り旅」


提供:Mega Shinnosuke
企画・制作:ROCKIN'ON JAPAN編集部