【インタビュー】ELAIZA×ポルカ雫、共通点だらけのふたりに迫る特別対談! 雫プロデュースのロックチューン“FREAK”で切り開く新境地と楽曲に滲む絆を語る

俳優として、また映画監督としても高い評価を得ている池田エライザは、2021年にELAIZA名義で本格的に音楽活動を始動。2024年、その音楽活動がいつになく活発で面白い広がりを見せている。3月にはカバー曲“ラブ・ストーリーは突然に”でのNight Tempoとのコラボ、4月には自身が作詞を手がけた“night walk”リリースと続き、さらに6月にはNHK『みんなのうた』の放送曲ともなった“Utopia”、翌7月には岡崎体育からの提供曲“たましい”がリリースされるなど、その活動はこれまでになく多彩にしてアグレッシブ。そんな中、8月7日にリリースされたのが“FREAK”だ。またもや新機軸となるELAIZA初のロックチューンを手がけたのはポルカドットスティングレイの雫(Vo・G)。ELAIZAのよき理解者である雫ならではのアプローチが光るエポックメイキングな楽曲が誕生した。「気づけば朝までおしゃべりしてた」というほどに深い仲であるというふたりだが、今作はどのようにして生まれたのか? お互いの関係性や共通点をひもときながら、ふたりに語り合ってもらった。

インタビュー=杉浦美恵


「私ならエラちゃんをこういうふうに見せていきたい」って話してくれて、その時にもう「絶対にお願いしよう」って思った(ELAIZA)

エラちゃんから電話かかってきて。普通、最初はスタッフから依頼がくるものだけど、「楽曲提供よろ〜」みたいなノリで(笑)(雫)

──ELAIZAさんと雫さん、おふたりには以前から交流があったんですよね?

ELAIZA 最初はいつだっけ。あ、『左ききのエレン』だ。

──2019年の秋に放送されたドラマですね。主演が池田エライザさん、主題歌がポルカドットスティングレイの“女神”。それが間接的な最初の接点?


 最初はそうですね。でもその時点ではそんなに交流はなくて。そのあと、J-WAVEの自分のラジオ番組のゲストにエラちゃんを呼んで。

──『SPARK』ですよね。

 そう。『SPARK』に呼んで、そこで初めてしゃべって、「これは友達になってもらえるかもしれない」って(笑)。

──雫さんがそう思うのって、結構珍しくないですか?

 珍しいです。友達できないマンなので(笑)。初めて会ってこの感じ、「まさか友達になってくれる?」って思ったんですよ。でもそこから本格的に友達になるまで少し期間が空いたよね?

ELAIZA そうだね。お互い気軽に人を誘えるタイプじゃないもんね。私は、人を誘ってごはんに行ったりすることは年に1、2回しかないんですよ。選んでるわけでもなんでもなくて、「この人は誘っても大丈夫」という絶対的な自信を持てるようになるまで、何年もかかるんですよ。

 それ、相当わかる(笑)。でもそれを乗り越えて友達になりました。

ELAIZA そんなタイプのふたりが出会って心を許してしまうと、もう話が止まんないわけですよ。この前も気づいたら朝だったし。うちに来てくれて、楽しくしゃべってたら朝になってた(笑)。

──(笑)。雫さんがELAIZAさんに対して、初対面で「友達になれる」と思えたのはなぜなんでしょう。

 内向的な者としての動物的な勘だと思うんだけど、私みたいな者を受け止めてくれそうな心の広さを感じたんですよ。まあ、一種のバブみ? みたいな(笑)。

ELAIZA 私がバブられ体質なんで(笑)。あと、地元の友達みたいな空気があったんですよね。同じ時代をサバイブして、同じ時期にオタク期間があって。しゃべるスピードも、オタ時代がある人特有のテンポで(笑)。

 わはははは。速めのテンポ感よね。

ELAIZA そう。博多弁もお互い自然に出せるし、地元の放課後みたいなノリで話せるというのはありますね。

──初対面から間を置いて、その次はどんなふうに親交を深めていったんですか?

ELAIZA ふたりでポケモンセンターに行ったんだよね。「あそぼ」って。私が珍しく買い物に出ようって思っていて、じゃあそこで集合しようかって。雫が中腰でこそこそっとパルコに現れて、なんか、ひとりカバディみたいな状態で来たのを覚えている(笑)。

 そうそう。ビクビクしながらね。怖いのよ、外に出るのが(笑)。だからエラちゃん見つけて、バリ安心したの。

ELAIZA そのままポケモンセンターに行ったんだけど、ずっと外にいるのはかわいそうだなって思ったから、すぐ家に連れて行きました(笑)。

──(笑)。その日に音楽の話も?

ELAIZA そうですね。

 「どういう曲がほしい?」みたいな。

ELAIZA 雫がいろいろアイデアを出してくれて。「私ならエラちゃんをこういうふうに見せていきたい」って話してくれて、その時にもう「絶対にお願いしよう」って思った。もちろん正式な手順を踏まなきゃいけないんだけど、「これ、形にしたらめっちゃ楽しいだろうなあ」って。それで今年は特に、いろんな人のお力を借りていろんなことに挑戦したいと思っていたから、ユニバーサルで打ち合わせをしている時に、「雫にお願いしたい」という話をして。

 エラちゃんから電話かかってきたんだよね。普通、最初はスタッフから依頼がくるものだけど、まずELAIZAから電話がかかってきて「楽曲提供よろ〜」みたいなノリで(笑)。後ろから「よろしくお願いします」って、スタッフの声が聞こえてきたみたいな感じでした。もちろん即OKだし、すぐどんな曲にしようか考え始めて。

自分で(“FREAK”の)ターゲットやコンセプトを整理した資料には「私は強え女のELAIZAが見たい」って書いてありました(笑)(雫)

──ELAIZAさんをどう見せるかというプロデュース目線もあっての楽曲提供だったと思うんですけど、どんなものにしようと?

 しっかりバンドサウンドで、ダンサブル寄りの元気めな曲。かなりロックっぽい曲をイメージしていました。

ELAIZA うん。最初に話してくれたイメージとほとんど変わってないと思う。「フェスとか出てみたーい」っていう話もしてたし、ライブ向きの曲があまりないというのもあったから。

 私はいつも自分でターゲットやコンセプトを整理した資料を作ってから曲を書き始めるんですよ。そこには「私は強え女のELAIZAが見たい」って書いてありました(笑)。どこに出すでもない資料に書いていたので、よっぽどだったんだと思います。ほんとに強い女が歌う強い女の曲ってマジで説得力あるし、その説得力を出せる人はなかなかいないから。その説得力を出せる人に曲を書けるんだと思ったら嬉しくて。

ELAIZA 私も、曲をもらってすぐ「オッケー、これやる!」って。力強さを求めてくれてるのはわかっていたけど、たぶん聴く人に対して押しつける感じではないと理解していたから、言葉に意味を求めすぎず歌うようにしました。音遊びみたいな言葉をたくさん入れてくれたから楽しかったです。もらったデモの仮歌が上手いから「ここがキラースポットなんだろうな」というところを汲み取りつつ。

──曲を書くにあたって、雫さんはELAIZAさんから何かオーダーはもらってたんですか?

 私からしたら、これまで手がけた曲の中でいちばんオーダーがなかったくらい、なんでも肯定してくれる制作だったんですよね。

ELAIZA 逆に不安がってたよね(笑)。

 そう。ほんと「このままでいいの?」みたいな。

ELAIZA 最近は自分が書いてるものが多かったので、自分のものに対しては厳しくビシビシ見直すんだけど、前回の岡崎体育さんの“たましい”も、雫の曲も純粋に「すこ♡」って(笑)。「何これ楽しそう!」って感じたものは迷わず肯定していくことが、今自分にとって必要だとも思うので。


──いろんな音楽性を貪欲に取り込んでいきたいという思いも?

ELAIZA 1stアルバムの『失楽園』の時って海外の方たちがコライトでたくさん参加されて、ひとつオーダーを通すのにもすごく時間がかかったし、いろいろ大変な経験をしたので、今は自分がすごく信頼してる方にオーダーして作りたいという思いも強くて。そのあと「なんでもかんでもひとりでやってみます」の時期を経て、そうすると今度は「仲間」への憧れも出てくる。だから今は誰かの手を借りて一緒にやりたいという思いが強いんですよね。というところで、そもそも好きな人だからお願いしているわけで、それに対して自分があれこれ言おうとは思わないんですよ。いただいたものに対して、自分の表現でいかに「やるじゃん!」と思わせるかという。

 素敵だなあ。

曲を提供してもらうっていうのは、役をひとつもらうみたいな感覚。自分で作ると自分が心地よいところにしか行かないから(ELAIZA)

──今はELAIZAさんが「この人に」と希望を出して、楽曲制作を依頼している感じなんですね。

ELAIZA はい。私は母親がシンガーだという影響から、R&Bやソウル、ジャズなんかはたくさん教えてもらってきたけど、あまり邦楽が聴ける環境にはなかったんですよね。邦楽の話になると急に弱くなっちゃうんです。聴いたりはするけど王道を知らないから、王道の邦楽が持つパワーみたいな話になると、ああどうしようってなっちゃう。であれば、誰かの力を借りればいいんだなと。今はそういう時期です。

 エラちゃんの歌にはR&Bの風を感じるよね。16分のリズムをちゃんと捉えている。だからBPMの速いロックを歌ったらどうなんだろうって思って、それを見てみたいと思ったんですよね。

ELAIZA 最初は焦ったんですよ。“FREAK”は速いしレイドバックもしちゃいけないし、余計なビブラートはストレスになるからいろいろ歌い方を考えないといけなくて。洋楽ばっかり歌って育ってきたから、日本語の歌詞もテンポが速いとかけっこしてるみたいな気持ちになって焦ってしまうんです。でもひとつ自分の中でキャラクターを作ってしまえば、あとは自由になれるというか。イメージとして、ちょっと肩パッド入ってる感じのアティテュードで歌うみたいな(笑)。

 己の肩幅を感じながら(笑)。言ってみれば演技だよね。

ELAIZA うん。曲を提供してもらうっていうのは、役をひとつもらうみたいな感覚。自分で作ると自分が心地よいところにしか行かないから、役をもらって台本もらってやるというのに近いかな。

 こういう役としてこういう表情、ふるまいで歌えばいいんやなっていうのを見つけてからはもう早いよね。

──ふたりには共通点が多いですよね。出身地もそうだけど、雫さんのそもそものコンポーザー気質みたいなところとELAIZAさんの映画制作へのスタンスとか、おふたりには、表現者としてだけではなくクリエイターとしての思いの強さを感じます。

 今回、中身のことをわかっている人に楽曲提供するという「やりやすさ」みたいなものはすごくあったかなと思います。なんでもわかっているから、たぶん私以外の関係者もすごい助かってるはず(笑)。

ELAIZA 私も雫も、別にめちゃくちゃ働きたいわけじゃないんですよ。でも気になることは無視できない。見て見ぬふりしたら自分がウジウジしちゃうんだよね。気になったらもう動いてる。けどほんとは休みたい(笑)。

 そうそう(笑)。休めるものならね。でも「この締め切りが終わったら」って考えても、すぐ次の締め切りが来るから、常に何がしかの火事場の馬鹿力が働いている状態なんだよね。

ELAIZA 休んでる時でも歌詞が急に出てきたりもするしね。すべてを放棄した瞬間に何か思いついたりするし。でも雫はどんなに忙しくてもフットワーク軽いよね。この前もカラオケ呼んだら来てくれた。

 私、カラオケってものすごい友達おる人のイベントやと思ってたんよ(笑)。

ELAIZA 急にカラオケ行きたくなっちゃって(笑)。で、雫に電話かけたら「行くよ」って。

 たまたま自宅作業してたから。「カ、カラオケ?」ってビクビクしながら行ったんだけど。

──ちなみに何を歌ったんですか?

ELAIZA “ゴーストダイブ”(ポルカドットスティングレイ)を歌ってほしくて。

 まさか自分が作った曲を歌わされるとは思わなかったです(笑)。

ELAIZA どうしても聴きたかったの。ポケモン好きっていうのもふたりの共通点で、ゲーム中とかも頻繁に連絡し合ってて。雫も私が“ゴーストダイブ”好きなの知ってくれてたから。

──ほんとにふたりの関係性には遠慮がなくて、だからこそ“FREAK”は安心してELAIZAさんの新機軸を表現する楽曲になったんでしょうね。作詞にしても、雫さんはELAIZAさんのことをよく理解しているから、遠慮なく強めのフレーズを入れ込めたのかな。

ELAIZA 歌詞はなんでこうなったの? 私の近況報告みたいなところから?

 そうそう。そこから着想を得て書き始めた。どういう言葉遣いにするか、なぜそのワードかということに関しては、単純にELAIZAに言ってほしい言葉を選んで(笑)。

ELAIZA なるほどね。《いつまでもそこで泣いてんの?》とか?

 そうそうそう。これELAIZAに言われたいなあって(笑)。

《あなたに、みんなにあって私に無いものは何?》のところが好き。ハッとする。焦ったり自問自答してる感じがすごく人間らしくて好きなんです(ELAIZA)

この曲、実はそこから書き始めたんだよ(雫)

──ちなみにELAIZAさんは“FREAK”の歌詞の中で、どこがいちばん好きですか?

ELAIZA 《あなたに、みんなにあって私に無いものは何?》のところが好き。ハッとする。メロディは特にそこを粒立てているわけじゃないんだけど、何かガサガサと探している感じで、焦ったり自問自答してる感じがすごく人間らしくて好きなんです。

 え。この曲、実はそこから書き始めたんだよ。

ELAIZA マジ?

 そう。これをELAIZAに言ってほしいっていうところから。すごい。今初めて聞いた。感動。

ELAIZA イエーイ!(雫とハイタッチ)

──雫さんの中で、このラインはどういうふうに出てきたんですか?

 強い女のエラちゃんを書きたいと思いつつ、強い女の中にある、我々凡人にはわからない葛藤も描きたかったんですよ。こんな完璧に見えるエラちゃんが「みんなが持っているのに私が持ってないものがある」と語り出したら、「そんなことないやろ」っていうフックになって引き込まれるんじゃないかというのもあって。そのメロと歌詞を同時に思いついて、そこからサビとかも書き進めていった形です。

ELAIZA へえー、すごい。いや、普通に共感するよ。人間だから完璧じゃないし。こういう仕事をしていると、認めても炎上、謙遜しても炎上っていう肩身の狭さを感じてはいるので、自分で自分に問いかけるしかないし、でも謙遜しすぎると自分の成長の機会を奪ったりもするよね。だから「みんなにあって私に無いものは何?」っていうのはほんとに……人生のテーマってやつ?

 でかい!(笑)

ELAIZA でもほんとにそうで、ミュージックビデオでもかなりそこを表現していて、その2行からすべてを広げていったような映像になっています。「人の真似をすることに怯えて足踏みしてたらもったいなくね?」みたいな。私よく取材で「憧れてる人は誰?」って聞かれるんですけど、それに対しては答えないんですよ。いいなあと思ったらなんでも自分でやってみちゃうから。すげえって思ったら、『(週刊少年)ジャンプ』の主人公みたいになんでも吸収しちゃいたいし、いろんな人のことをすごいと思うけど「この人みたいになりたい」っていうのはなくて。だから、すごく私らしく感じたんですよ、この曲。言葉遊びかと思いきや、急に輪郭がはっきりした言葉が出てくるのがすごく痛快だった。ぎくっとする感じ。だからぎくっとするMVを作りました。


──でもこれ、ほんとにライブで聴きたい曲ですよね。

ELAIZA 実は“FREAK”はすでにライブでやってるんですけどね。楽しかった。どんどん楽しくなっちゃって、エクステつけてるのにお構いなしに頭振っちゃった。

 お客さんにもっと浸透していったら、サビの《FREAK!》のところも言ってほしいよね。

ELAIZA そうそう、一緒に歌ってほしい。

 私も、「ここはお客さんが言うところだぞー」って思いながら、自宅で仮歌入れてましたから(笑)。

ELAIZA そういうのってライブでどうやってお客さんにお願いすればいいの?

 いや、それはたぶん自然に(笑)。

ELAIZA そうなの? 歌ってくれるかな。

 歌いながら《FREAK!》のところがくるちょっと前に、手を前に出しといて、こう、タイミングで煽りを入れるっていうか、「行くぞ行くぞ」の感じを出すのもいいかも。

ELAIZA あ、取材中にごめんなさい。あとで家で聞けよって感じですよね(笑)。

──公開レクチャー(笑)。“FREAK”だけじゃなく、今後もまたふたりのコラボが実現するといいですよね。

ELAIZA 私、雫のMVに出たい。

 え、ほんとに? それはやばい。

ELAIZA また勝手なこと言うと怒られそうだけど(笑)。ELAIZAでも池田エライザでもどっちでもいいから出たいなあ。

 うわあ、今めっちゃ夢広がってるよ。相当嬉しい。実は私、本日(※取材日)ポルカの久々の新曲リリース日なので、さっきメンバー全員で神社に厄払いに行ってきたんですよ。今の話がエラちゃんから出てきたのも、きっと厄が払われて運がよくなってきた証拠だわ。


ELAIZA 雫のライブにも遊びに行きたいな。

 そんなのもう、うちのファン泣くよ?

ELAIZA 全然歌うつもりはなく観客として来たテイで、急に呼ばれて「え、いいの?」ってサプライズ的にステージに上がるやつ、あれやりたい(笑)。

 完全に演出入ってるやつや(笑)。

ELAIZA プライベートなわりに妙にシャレた格好してたり。

 仕込んでないと当てられない照明がちゃんと当たるとか、事前にリハやってないともらえないマイクでしっかり歌うとか。

ELAIZA 歌ってる後ろに「この人演技してます」っていうテロップ出してもらって(笑)。

 うちの得意のテロップ芸で(笑)。妄想が膨らみすぎる(笑)。でも何か実現できたらいいね。

ELAIZA うん。いろいろ想像すると楽しいよね。

●リリース情報

『FREAK』

配信中

提供:ユニバーサルミュージック
企画・制作:ROCKIN'ON JAPAN編集部