【インタビュー】「バンド表現は無限に進化できる」を証明する、ルサンチマンの獰猛で誠実な一撃──。2ndアルバム『一生モノの陽射し』越しに、その特異性に改めて迫る

たとえサブスク経由であろうとCD経由であろうと、その音に触れる者すべてに「バンドサウンドという名の生命体」の躍動感とダイナミズムを体感させる、獰猛かつ伸びやかな4人のアンサンブル。ジャンルの垣根もソングライティングの固定観念も縦横無尽に越境する音像と、丹念に織り上げられた北(Vo・G)の誠実な詞世界が重なり合う時、どこまでもリアルなオルタナティブロックの異世界が広がる──。ボーカル曲10曲・インスト曲10曲のCD2枚組という異色の1stフルアルバム『ひと声の化石 / rebury』から2年。ルサンチマンの2ndフルアルバム『一生モノの陽射し』は、その創造性においても演奏力・表現力においても、「バンドという形態はまだまだ無限に進化できる」という可能性の高純度結晶のような作品だ。異色であることを己の自然体としながら、日々成長を続けつつあるルサンチマンの4人に話を聞いた。

インタビュー=高橋智樹 撮影=Ryohey Nakayama


「やっと完全体になったな」って。4人のこのサウンドはブレない中で、最大限に遊び尽くしたアルバムができたなって思う(北)

──2ndフルアルバム『一生モノの陽射し』、ルサンチマンの全方位的な進化がわかる、すごいアルバムができましたね。

北(Vo・G) いやあ、頑張りました!(笑)。

中野(G) 今までのアルバムは、結構「自分のギタープレイの中での最大値ギリギリを攻めていこう」っていうつもりでやってたんですけど、自分のギリギリを行こうとすると、どうしても音楽的なところが損なわれてしまうところがあったりするから、「そういうところから脱却しよう」っていう気持ちで今回ギターのパートを作った曲が多くて……結果、難しくなっちゃってるっていう(笑)。

もぎ(Dr) 自分としては、前のアルバムと同じようにドラムを考えてできたアルバムで、いつも通りのことをした感じなんですけど……その中でも、今までのルサンチマンではないような曲が何曲か入ってたりするので。いろんな曲が入ってて嬉しいアルバムだなっていう感じがありますね。あの、曲名がめっちゃ長い曲とか──。

── “約束は午後四時に赤い屋根の公園で”ですね。

もぎ そうです。“四時赤”って略してるんですけど──。

 こいつが勝手に略してるだけです(笑)。

もぎ これは最初に中野がギターフレーズを持ってきてくれて、それに対して北があとから歌を乗せたんです。そこもわりと新しいと思うし、ノリ感とかも今までにはなかった感じの曲になってますね。


清水(B) 前回のアルバム以上の作品を作らなきゃいけない、っていうのがまずハードル高いなと思いながら制作してました。前回のレコーディングから、ほぼ同世代のエンジニアさんに頼んで一緒に作ったんですけど、それもありつつ、結果的に前作のハードルを越えられたのかなっていう成長もすごく感じますね。音質とか、自分たちの技術もそうだし、北自身しかわからないだろうけど、歌詞の面でも成長したのかなって思います。

 やっぱり、楽曲のまとまり方が今までとは段違いだなと思っていて。そこは各々の技量と、この作り方によって「やっと完全体になったな」っていうところがあって。4つの楽器でできる面白いことをいろいろやってみようっていう感じで作ってましたね。たとえば、中野は前回からアンプを使わないでレコーディングしてたりとか、ライン入力で音を作ってたりとか。みんな新兵器を持ち寄って、でもロックバンドっていう主軸、4人のこのサウンドっていうものはブレない中で、最大限に遊び尽くしたアルバムができたなって思います。誤解を恐れずに言うと、余裕でできた作品っていうか──。

清水 いや、納期とかはやばかったです(笑)。

 そこら辺はやばかったんですけど(笑)、ある種、ここまでやってきたことをそのままぶつければいいだけ、みたいな気持ちがあったからこその遊びがつけ加えられたアルバムで。だから、早く「次にどういう冒険をしようか」っていう気持ちになれるように、等身大の曲作りができたかなって思います。

2〜3年前の映像を観てると、解散しててもおかしくないような危うさがあったけど、今回は続きそうなバンドのアルバムに見える(北)

──前作『ひと声の化石 / rebury』はDISC2が全曲インスト曲の2枚組アルバムという異例のフォーマットでした。ルサンチマンの場合、「インスト曲」という括りが適切かどうかわからないくらい、4人のアンサンブルが「4つの楽器の合奏」を超えて、ひとつの生命体の蠢きみたいな躍動感を作り出しているし、それが今作ではさらに進化しているのがまず印象的でした。

 ありがとうございます。ちょうど昨日も2〜3年前の自分たちの映像を観返してたんですけど、なんか……かっこいいはかっこいいし、当時は別に終わるとも思ってなかったんですけど、今そのライブ映像を観てると「このバンド、今解散しててもおかしくないよな」っていうどこか危うさがあって。前回のアルバムとかも、たぶんそういう片鱗があったと思うんですけど、今回はそういった危うさがいい方向に昇華されていて。さらに先が気になる、続きそうなバンドのアルバムに見えるんじゃないかなって感じますね。

──サブスク中心の今の時代、イントロが長かったりギターソロが長かったりするとスキップされる、みたいなことが当たり前に言われるようになってますけども。たとえば“BUT STRAIGHT”とか、イントロ1分半でボーカル部分が50秒とか、ちょっとあり得ない構成になってますよね。

 この曲はもともと「インストを作ろう」って言ったのが始まりで、あとから「早口でラップっぽい感じで歌いたいんだけど」ってなって歌詞をつけ足すことになりました。なので、そもそもイントロだとも思ってないっていうか(笑)。むしろ僕の中では、“きっとそう”とか、“曇りのち”もそうなんですけど、このアルバムに向けて作った曲のイントロは、前回のような馬鹿みたいに長いものはない気がしますね。適応しようとしたわけじゃないんですけど、「これがいいな」と思ってやったことが結果的に、さっき言った「続いていきそう感」を出した感じがするので。我ながらいい傾向だと思いました。

──なるほどね。「ポップにわかりやすく」でも「世の中に背を向けて我が道を」でもなく、今の自分たちが何をしたいか、自分たちから何が出てくるか、に忠実に作った結果こうなった、と。

 そうですね。

──もうひとつ、ルサンチマンって、バンドの演奏力とダイナミズムが際立っているバンドであるのと同時に、歌詞も非常に丹念に作られていて。丁寧な対比の構図とか、それこそリリックだけ読んでも「詩」として美しく成立しているくらいの、ひとつの作品としての完成度がありますよね。

 歌詞は絶対に気を抜いちゃいけないところだと思っていて。そこは昔から変わらずに意識しているところなんですけど。やっぱり、メンバーみんなが楽器のプロなら、僕は作詞作曲のプロじゃないといけないので。そこをないがしろにしたらアーティストじゃないので、死ぬ気で書いています。毎回インタビューで言ってるんですけど……作詞してる時、本当に肌荒れがひどくて(笑)。先月、久しぶりに髪を切りに行った時、いつも同じ美容師に切ってもらってるんですけど、「あれ? どっかで梳いてきた?」って言われて。「ちょっと髪が抜けてるよ」って──。

もぎ マジかよ? やめてくれよ!

 「やばっ!」みたいな(笑)。いや、わかんないですよ? 別のストレスの可能性もありますけど……。

清水 でも、抜けてるのはガチなんだ?(笑)。

 まあでも、それぐらい責任感を持って書いてます、歌詞は。

もぎ でも、前までは北から歌詞とデモが送られてくる形だったんですけど、今回あんまり歌詞送られてきてなかったよな? “光”の歌詞とか俺、今初めて見たもん。

清水 ああ、“光”は最後だった。

──以前、1stミニアルバム『memento』でインタビューした時、「僕は本当に、曲を作って持って行ってるだけで。一応『編曲:ルサンチマン』になってるんですけど、僕的には『編曲:清水・中野・もぎ(・北)』みたいな感じ」と話していましたが、今回もそこは同じですか?

 それはだいぶ変わりましたね。ここ数年で作り方はかなり変わった感じがします。デモもわりと、がっつり僕が構成を決め込んで、細かいキメとかブリッジみたいなところは、4人で案を出しながらスタジオで合わせていく、っていう感じですね。前回のアルバムぐらいからようやく「作詞・作曲:北/編曲:ルサンチマン」みたいな形になりましたね。

“曇りのち”を変拍子にしたのは、聴きやすさを大事にしたからで、「変拍子を作りたかった」わけではないです。変拍子が最適だったから(北)

──“曇りのち”みたいな、5・5・5・6みたいなリズムの曲って、どうやって作っていくんですか?

 “曇りのち”も──変な話、弾き語りですね。

清水 基本、弾き語りの上にドラムを乗せていく感じなんですけど。拍子とかはもう、デモの段階で、ね?

 そうですね。「ここはこうじゃないと気持ち悪い」って。

もぎ 最初、ついて行くのに苦労しました(笑)。

 もう慣れたでしょ?

もぎ もう慣れたけどね。最初スタジオで「じゃあ合わせようか」ってなった時、「嘘やん!」って(笑)。

 わかりやすくはしてるつもりなんですよ。変拍子にしたのは、聴きやすさを大事にしたからで。結構聴きやすいと思うんですよね。

──それも「変拍子をやってます」ってアピールする感じでもなくて、出てきたものを自然とやったらこのリズムだったし、これが自然だったと。

 そうですね。全然「変拍子を作りたかった」わけではないです。変拍子が最適だったから。

──この楽曲を自然と思える演奏も尋常ではないですし、バンドとしての成長を物語る曲でもあると思います。メンバーの演奏と北さんの楽曲、お互いがお互いの成長を促してるところがありますよね。それを楽しんでるようにすら聴こえます。

清水 改めて見ると、みんな好奇心がすごいなって思いますね。だからこそ楽しんでやれてると思うし。「ここ、メタルの感じでやってみようぜ」みたいな好奇心もありますし。

──というか、ルサンチマンの音楽って本当に、ジャンルの壁とか枠組みとは無関係ですよね。

清水 そうですね。いつ、そういうジャンルの本物の人たちに怒られるかな?っていう(笑)。それは怖いですよね。

 いや、でも正直、別に怒られたっていい。やりたいからやってるんだし。他の人たちへのリスペクトはあるんですけど……最近ライブを観ていて、めちゃめちゃ喰らったな、みたいなことが本当に減ってきたなって思うんです。昔はわけもわからず盲信していたようなアーティストを、今は意外と冷静に見ることができて。ちょっと手が届くかもしれないっていう自信がついたからこそ「こんなことをやるのはおこがましい」みたいな気持ちを、あまりメンバーから感じなくなったんですよね。「やるんならやっちゃおうぜ」みたいな感じで、どんどん垣根を越えていってる感じがします。

──前作は1枚目ボーカル曲・2枚目インスト曲、っていう形態でしたけど、今作では全15曲の中にインスト曲とボーカル曲が入り乱れるような構成で。でも逆に、これがルサンチマンの自然体なのかもしれないな、と今の話を聞いていて思いました。

 そうですね。前回のアルバムはめちゃめちゃ肩の力が入ってましたね。1stフルアルバムって自己紹介的な意味合いが強いんで、わかりやすく「10曲は歌入ります、10曲インストです」って分けたんですけど。今回はそういう意味では肩の力が抜けていて。自分が組みたい曲順で、「ここのところにこの曲が来たら嬉しいな」の連続で15曲組んでみた感じですね。

──売れ線狙いのプロデューサーさんだったら、「インストの“dollon”じゃなくて、最後は“光”でエモく終わろうよ」って言うかもしれないですけど──。

 ……全然言われなかったね。

中野 なんにも言われなかった(笑)。

清水 ライブでも“dollon”で終わるのはよくやってたんで。

 だから、自分たちの中では“dollon”で終わるのは最初から決まってたぐらいで。これで終わる前提で「その一個前どうする?」って話し合いました。

もぎ エンディング曲っぽいもんね。終わりだなあって思う、これ聴くと。

──ライブも含めた、今のルサンチマンのリアルが凝縮されたアルバムっていうことですね。

 そうですね。やっぱり、ライブに音源を擦り合わせていく、っていう作業を今する必要がある段階だと思っていて。「音源は聴くけどライブは行かない」って感じるバンドってザラにあるじゃないですか。だから、音源だけ聴いてるような人たちからすると、たぶん今ライブを観たら「別のバンドなんじゃないか」って思うぐらいの状態だと思ってるので。そこの擦り合わせが、今回のアルバムでできそうだなって思いますね。

「間違ってないよ」って断言するよりは、「僕もまだ100%結果を出してないからわかんないけど、たぶん間違ってないから」ってことが伝わってほしい(北)

──今回のリード曲の“きっとそう”と“約束は午後四時に〜”、楽曲はすんなりできました?

 “きっとそう”は早かったですね。でも“約束〜”は……「なんか曲作んないとやばい」っていう時に、中野がフレーズだけ作ってくれて。あれはたぶん、曲にする気もなかったぐらいのやつだよね?

中野 いや、あれはさすがに──。

清水 さすがにやばいと思った?(笑)。

中野 最初インストのつもりで作ろうと思ってたんだよね。

 そのフレーズだけ僕がもらって、DTMでループさせながらデモを作っていった曲なんで。苦労度合いで言ったら結構難産だったかもしれないです。“BUT STRAIGHT”はリフから作ったり、“IAI”も中野が作ってきたリフだったり。作り方にテンプレートがないんですよ。でも最近は、テンプレがないのをテンプレにできるようになってきました(笑)。

清水 柔軟な曲作りだったよね。

──それ、いちばん大変なやり方ですよね。

 そうなんですよね。そりゃハゲますよって。

中野 まだまだ大丈夫(笑)。

 “約束は〜”は一個だけ、めちゃめちゃ完璧なリフがもらえたなと思っていて。逆に、これをどこで弾いてどこで出すか?っていう作り方をしてましたね。そういうのができるようになったなって。昔だったら、全編同じリフばっかやっちゃってたかもしれないです。その引き算ができるようになったことは、作曲家としてのレベルアップを感じますね。逆に“きっとそう”はすんなりできました。これも僕のリフと中野のリフを弾き合うみたいな感じなんですけど。リフができてから、メロディまでは早かったですね。


──歌詞はどうでした?

 歌詞がスッと書けた曲は……ないですね(笑)。僕は結構、マイナスの感情を軸に作詞をすることが多いんで、それもしんどい理由なんですよね。自分がいかに一般的な人間か、歌詞を見てもわかると思うんですけど……伝え方をうまく歌詞っぽくしてるけど、結局すごく羞恥心、共感性羞恥みたいなものに過敏で。「これマジで恥ずかしいわ」っていうのを共感してほしくて書いてる感じがあって、やっぱルサンチマンなんだなって。別にバンド名も「ルサンチマンだ!」って思ってつけたわけじゃないんですけど、結果的に「これって偶然じゃないんだろうな」って思いますね。

──《突き当たって抜け出せない灯/下手な闇よりタチが悪い》(“きっとそう”)のフレーズだけでハッとする人は多いと思いますね。

 バンドしかやってきてないので、だいたいバンドに対する曲ばっかりなんですけど(笑)。バンド仲間の同期とか、みんな「これが天職だ!」って言ってるんですけど、「本当にそうなの?」って感じることがあって。「みんなもう、行くところまで行っちゃってるから引き返せないだけじゃないの?」「みんな燃えたぎってやってるように見えるけど、本当に燃えてんの?」って。僕は、「本当は燃えてないかもしれない」っていう自覚があるんで、燃えてる感じを外には出せないんです(笑)。だから《差し当って36度5分》とかでも書いてる通り平熱なんですけど。でも、意外とそういう人って多いだろうなと思っていて。僕は今年就職の年なんで、新社会人とか同世代に向けての応援ソング的な意味合いもあるんですけど、引き返せなくなって、その中でやり甲斐を見出して、自分なりにうまく生きていこうとするのって、別に全然悪いことじゃないし、間違ってもないんですよね。でも「間違ってないよ」って断言するよりは、「間違ってないんじゃね?」っていう言い方にしたくて。「僕もまだ100%結果を出してるわけじゃないからわかんないけど、たぶん間違ってないから」ってことが伝わってほしいですね。

──そこは「間違ってないよ」って言わずに《間違ってないような/気がする》なんですね。人に対して詞を投げかけることの責任感があるというか。

 そうなんですよ。アルバムには入ってないですけど、“スピードを上げなくちゃ”っていう曲も同じで、ライブに来てくれるお客さんをどういう形で裏切っちゃうか、ほんとにわかんないんで。「ついて来い」なんて言えたもんじゃないっていうか。「信用する」っていう人がいてくれるなら頑張ってやりますけど、自分は「絶対僕を信用してください」っていうスタンスではいたくないんですよね。昔から過酷な環境で育ってきたタイプでもないし、ほんと一般的な人間なんですよ、そこそこブレるし。かっこよくあろうとしてはいるけど……っていうぐらいの人間なので、マジで信用しないでほしいですね。

中野・清水・もぎ (笑)。

──でも、そういう感覚がバンド内で共有されてるからこそ、今回のようにひとつの生き物みたいなアンサンブルが実現できてるんじゃないかとも思うんですけどね。

もぎ そうですね。でも、普段そういう話をすることもないんで──。

清水 「そうなんやなあ」と思って聞いてました(笑)。

中野 僕、他の人の歌詞だったらたぶん、キモくてやってらんないだろうなって。

もぎ 「キモくて」(笑)。

清水 歌詞のことなんて、恥ずかしくてしゃべれないよね、メンバーで。俺らからも「歌詞がいいね!」なんて、恥ずかしくて言えないし。

もぎ それこそキモいよな(笑)。

 人間そのもの、僕そのものを曝け出しすぎて……歌詞をメンバーに褒められると思うと、自分の生き方を褒められてるみたいで、気持ち悪い!と思いますね(笑)。

清水 普通にメロディもいいからね。

 メロディを言われるのは嬉しいね。プロが言うんだから(笑)。

●リリース情報

一生モノの陽射し

発売中


●ツアー情報

一生モノツアー



提供:Blue echo records
企画・制作:ROCKIN'ON JAPAN編集部