存在そのものがカルチャー的でありながら、その「ガワ」をそっとめくると、そこにあるのは驚くほど真っすぐで、少し不器用なくらい正直な歌だ。恋に落ちたり落ち込みすぎたり、過去を引きずって寝つけなかったり──日々の揺れをそのまま歌詞にすくい取り、オーガニックなギターサウンドとウィスパーで叙情的な歌声に乗せていく。そんなひとりの人間としてのMegaの今とリアルがそのまま詰まった作品が、ニューアルバム『天使様†』。悲しい日にも、なんとなく元気な日にも、変わらず「おはよう」は来る。その繰り返しの中で見つけた人生の輪郭を描いたこのアルバムは、きっと同じように揺れながら生きるあなたの毎日とも自然と響き合うはずだ。
インタビュー=畑雄介 撮影=Adi Putra
──ニューアルバム『天使様†』は、ラブソングが中心の詞の世界、ギターの手触りを活かしたサウンドが広がっていて、これまで以上に作品トータルで世界観が確立された作品だと思いました。バズりたいとか、お金が欲しいとか売れたいとか、何かに迫られるような気持ちじゃなくて、生活の中に生まれる退屈だったり憂鬱から筆を握ってたい
いろんな楽曲を作れる人というイメージを持ってくれてる人が多い気がするんですけど、今どんどん音楽自体が好きになってきていて、自分が作りたい曲、聴かせたい曲が変わっていった中で、統一感のある方向性もいいなと思って。そのほうが毎日聴きやすいし、生活の中に入って一緒に歩みやすいというか。だから、バンドサウンドをメインとした感じで作ろうというイメージは最初からありました。
──前作『もっと君にモテたいっ!!』の時に、最近いいと思う音楽として、マーヴィン・ゲイやスライ&ザ・ファミリー・ストーン、坂本慎太郎やピクシーズを挙げられてましたけど、今作はマーヴィン・ゲイやスライみたいなソウル・ファンク調の曲もあれば、坂本さんやピクシーズ的なオルタナティブだけどポップみたいな曲もあって。そういう音楽性に向かっていく意志はあったんですか?
ありましたね。かっこいいおっさんになるために生きてるので(笑)、音数少なくてフォーキーとか、1個「これです」って言えるものを持ってたいなと思っていて、そうなったのかもしれないです。あと、昔に比べて少人数で曲を作ってます。若い時は、ギターが上手だったりめちゃくちゃパソコン触れたりする人とかがいる中で、自分ができることってなんだろうって考える時間が多かった。今はただひとりで音楽を作ってるだけの、17歳の時に戻ってきてる気がします。シンプルに音楽好きだなという気持ちと、こだわりたいという気持ちに素直に気づけたのかなって。
──どうして気づけたんでしょう?
“愛とU”がヒットしましたけど、まだいちばん大きな印税をもらえてないんですよ(笑)。少しずつは入ってきてて、ちょっとお金が増えた時に、意外と欲しいものもなくて。自分の生活を喜ばせるためのものはもう揃ってて、今の自分にすごく満足してるんです。
──そういうわかりやすいステータスから離れて、自分の近しい人とピュアに音楽作りをしたいモードになったと。
それ以上別に望んでないので。あと、“愛とU”がヒットしてテレビに呼んでもらえたりしたのはありがたかったけど、「俺はちゃんと売れたミュージシャンになった」みたいな気持ちが全然なくて。むしろ次を出さないとみたいな空気感を感じて、これいつまで続けてくの?ってなった時に、17歳で実家でお母さんにうるさいとか言われながら“桃源郷とタクシー”を作って「俺、天才じゃね!?」って思った感動みたいな、フラットな精神の中でたまに大きな波が立つくらいの状態のほうが創作活動を通して自分のことを喜ばせてあげられてる感じがしたんです。バズりたいとか、お金が欲しいとか売れたいとか、何かに迫られるような気持ちじゃなくて、生活の中に生まれる退屈だったり憂鬱だったり、そういうものから筆を握るみたいなことをやってたいなって。
意図はしてないけど、昔からそうなりがちなのかもしれないです。半分日記みたいな気持ちで書いてるから、《君》が出てきがちで。
──それこそ、2023年の“一生このまま”の時も「最近彼女と別れたメガシンノスケです」というコメントとともに曲をリリースされてましたよね。その方とは付き合ったり別れたりを繰り返したとも言っていましたけど──。
若いととりあえず付き合ってみようみたいなのがあるじゃないですか。今はそういうタームではなくて。仕事もいろいろ入ってきてるし、振り回されたら嫌で(笑)。だからまあ、とにかく好きみたいな曲はあんまないかも──。
──え、でも“メロい夢”は──。
あ、とにかく好きだ(笑)。
──あと、“ナードと天使”、“君にノーベル賞”あたりもそうかなと(笑)。
“ナードと天使”は、いろんなことを考えながら恋心に向き合ってるから派手なロマンチストになれないっていう曲なんですよ。で、“君にノーベル賞”は「これはもう好きってことだから負けです」みたいな曲です。え、俺ら恋人だから、好き同士だよね?みたいな空気あるじゃないですか。そういう肩書きに対して従わなきゃいけないみたいな真面目さは、もうないです。だからほんとに好きって思わないと好きって思わないというか──で、その好きかもという気持ちからも、今はちょっと違うなって逃れたくて、でも好きになったものはしょうがないみたいな曲が、“君にノーベル賞”で。
──その中で、“ごはん食べヨ”と“今を踊ろう”は、《君》がいない、ひとりの時間をどう生きてどう人生を過ごしていくかが歌われていますよね。喜怒哀楽をただ曲にしただけだから、深い意味を持たせようってなると、「自分が歌うのか」みたいな視点が入ってきちゃう。それは素直なアウトプットじゃない
スッと出てきた言葉でしか書いてないんです。周りのミュージシャンに会わなくなったことで、自分の作品に対してのメタ的な見方もなくなってきて、こういう感情を自分が歌っていいかどうかも審議に入らないくらい、ただ作品を作ってるだけで。たとえば、“愛とU”の歌詞で、「こういう人だよね」って思われたとしても、もっといろんな喜怒哀楽を持ってるし。世の中のイメージって大事じゃないし、操作できるものではなくて。喜怒哀楽をただ曲にしただけだから、そこに深い意味を持たせようってなると、「自分が歌うのか」みたいな視点が入ってきちゃう気がするんですよね。それは素直なアウトプットじゃないし、もったいないなって。あと、“ごはん食べヨ”がヒットしたのは嬉しいですね。「なんやねん、ごはん食べる曲歌ってるやつ」みたいになるのが嬉しいんですよ(笑)。
──MVも最高でした。Megaさんが、彦摩呂さんやプロ奢ラレヤーさんら総勢13名とただご飯を食べてるだけの動画で(笑)。
そうそう。最近何してんの?って友だちに言われたから、MV撮影の写真を見せたら、おまえはなんの活動をしてんの?って(笑)。そういうのが面白いんですよね。