NOMELON NOLEMONの3rdアルバム『EYE』は、そんな音楽の力にポップスで真正面から向き合った作品だ。1曲目の“カイカ”で《さよなら 世界》と告げ、時に自分の心を覗き込みながら、海の底から宇宙の果てまで旅を続けていく。その旅が最後に辿り着くのは、ツミキとみきまりあの共作詞による“I THINK”。《僕らは考えた》で始まるこの曲は、《ひらめきがきっと世界を変える》《未来はうつくしいよ》とバカ正直に歌い上げる。空想だけで腹は満たせないし、理想だけでは夢は叶わない。でも、このアルバムに触れている時間だけは、ほんの小さなひらめきが世界をポジティブに変えてくれるんじゃないかと心の底から思わせてくれる。そんな音楽の力に満ちた『EYE』を作り上げたふたりの言葉もまた、音楽への熱い情熱で溢れていた。
インタビュー=畑雄介 撮影=北岡稔章
──『EYE』はこれまで以上にトータルでの世界観が確立された作品で。アルバム制作にはどう向かいましたか?笑顔でいないと友だちと仲良くなれないとか、自分を守るために嘘をつくとか。そういう自分じゃない世界には馴染まずに、自分だけの宇宙をちゃんと見つめたい(ツミキ)
ツミキ 2ndアルバム『ルール』を作ったあとに出たシングルの流れを見た時に、宇宙の広がりを感じたんですよね。『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』の挿入歌(“ミッドナイト・リフレクション”、“きえない”、“HALO”)がその理由になってるんですけど、その世界観を1枚にパッケージできないかなと思って。あと、僕は幼少期に宇宙が大好きで、父親に買ってもらった望遠鏡を覗いていた記憶も重なって、「宇宙」をテーマにして作品を作りたいと思ってたんですよ。自分が今まで蓄えてきたアイデアだったりやりたいことが結晶になったかなと思います。
──そこに『EYE』というタイトルがついたのも象徴的でした。
ツミキ 外側の世界に目を向けることもそうなんですけど、自分のインナーワールドをちゃんと見つめることがテーマだなと思って。あと、音楽って見えないものだと思うんですけど、見えないということは消えないということだと思うので、見えないものを大事にしていくこと──そういう「心の目で見る」的なところが、アルバム全体のテーマになってます。
──その「見えないもの=音楽」への愛で満ちているのが、1曲目の“カイカ”で。この曲はどうやって書きました?
ツミキ 2曲目に“ミッドナイト・リフレクション”を置きたかったので、その導入として、ロケットが宇宙へ飛び立つ瞬間の心情を描きたかったんです。宇宙に向かって出発する宇宙飛行士の心情は、もしかしたら音楽を作ってる自分の心情と近いのかなと思って。音楽を届けることには不安もあるし期待もあって。それをポジティブに描いて、宇宙へ飛び立ったあとに“ミッドナイト・リフレクション”が来る──というストーリーをもとに曲に着手しました。1行目の《さあ行こう》は、ガガーリンがロケットで出発する時にロシア語で言った言葉なんですよね。
みきまりあ この曲のデモが来た時はまだ“カイカ”というタイトルが決まってなかったんですけど、曲を聴いて浮かんだ言葉が「文明開化」で。それをツミキさんに伝えたところ、「そやねん!」って言われて(笑)。解釈が一致したのが嬉しかったです。で、歌ってみると、「過去にもらった愛情は忘れてない」みたいな、すごくあったかい感情になったんですよね。《手を離すのは少しだけさみしいけど》は、歌いながら泣きそうになって。私も前に進まなきゃって後押ししてくれた曲でした。
──《手を離すのは少しだけさみしいけど 飛び立つのさ》の「世界から飛び立つ」は、どういう感覚なんでしょう?
ツミキ 手放さないと前に進めないことってたくさんあると思ってて。笑顔でいないと友だちと仲良くなれないとか、そういう自分を守るために嘘をつくとか──そういう世界で生きないといけないうえでの制約に、僕は苦しむことが多いんですよね。で、SNSを見ていると、世の中としてもそういう風潮が蔓延ってるなと思ってて。
だから、自分じゃない世界には馴染まずに、自分だけの宇宙をちゃんと見つめたい。そこに飛び立つということは、たとえば友だちと離れることになって、友だちに恨まれることもあるかもしれへんし、嫌な顔をされたらどうしようとか弱さもあることで。人と離れることには寂しさもあると思うんです。そういう手放すことの寂しさと、でも手放さないと前に進めないという勇気を描きたくて。
──その気持ちが「文明開化」という、まさに旧態依然とした価値観を手放して新しいところに向かっていく概念ともリンクしてるのでしょうか?
ツミキ ああ、そうかもしれないです。あと、2ndアルバムからの2年半で、ポップスに対しての解釈の変化があって。これまではカウンターカルチャーというか反骨精神を火種にアルバム制作をしてたんですけど、今回はもうちょっと人に寄り添ったものというか、ど真ん中のポップスで、自分が持ってる手札で勝負したかったんです。
──この“カイカ”の最後の《さよなら 世界》という言葉から、2曲目の“ミッドナイト・リフレクション”が《さよならと聞こえた気がした》と始まるのは完璧な流れでした。“ミッドナイト・リフレクション”が2曲目に来るのは決まってたんですよね?今作はスッと自分の中に入ってくることが多くて。歌詞がすごくストレートで、人間味が増しているから、自分と演じてる部分がリンクしていってる感覚がすごくありました(みきまりあ)
ツミキ 2曲目はアルバムの大事なところだと思うので、2年半の中で多くの人に届いた楽曲として、名刺としてここに置こうと決めてましたね。
──2曲目“KILLERMOON”と4曲目“ミテミテ”は、人間の欠落した部分や多面性に焦点を当てた、少しシニカルな側面もある曲で。
ツミキ 1〜2曲目がかなり広い世界観で壮大な印象があったので、“KILLERMOON”と“ミテミテ”は、どちらかと言うともっとパーソナルなところを描きたくて。大きい世界から自分のものへ、という動きをこの流れで作りたかったんですよね。“ミテミテ”は、ピカソのキュビズムの技法から着想を得た曲で、人には多面的な魅力があるのに一部しか見ていない人に「もっと見て」という気持ちを描いた曲で。
ピカソの『ゲルニカ』という作品では絵の中で馬が暴れてて、そこともリンクさせたいなと思って──Aメロ最後の《リードを千切ってランチキの狂騒走馬灯》は、「走馬灯」に「馬」という漢字が入ってるから、馬がリードを引きちぎって暴れてる絵を描きながら、《それでもハッピーな人生でしたって 悔いなしの万万歳?》で「走馬灯」と自分の人生を照らし合わせて書きました。
みきまりあ “ミテミテ”も“KILLERMOON”も制作期間の後半にレコーディングしたんですけど、納期も短い期間だったので、ゾーンに入ってましたね(笑)。あとから聴くと、特に“KILLERMOON”の歌声からは自分から普段出ないようなパワーを感じたという発見がありました。
──曲を歌うにあたって、以前は「演じる」意識が強いと仰ってましたけど、この2曲に限らず、今作ではどういうふうに歌っていきましたか?
みきまりあ 今作はスッと自分の中に入ってくることが多くて。「自分に言ってるのかな」と錯覚してしまうくらい──それはリスナーの方もそう思うんじゃないかなと思うんですけど──歌詞がすごくストレートで、人間味が増していて。だから、演じる感覚ももちろんありますけど、初期の頃よりは自分と演じてる部分がリンクしていってる感覚がすごくありましたね。