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    【インタビュー】シーンへの挑戦者・NOMELON NOLEMON。デビュー曲“INAZMA”から最新曲“ミッドナイト・リフレクション”まで、ノイズに満ちた「ポップス」で切り拓く未来を語る

    【インタビュー】シーンへの挑戦者・NOMELON NOLEMON。デビュー曲“INAZMA”から最新曲“ミッドナイト・リフレクション”まで、ノイズに満ちた「ポップス」で切り拓く未来を語る
    ボカロPとしてキャリアをスタートさせたツミキと「ぷらそにか」元メンバーのボーカリスト・みきまりあによるユニットとして、2021年8月にデビューしたNOMELON NOLEMON

    コンポーザーとボーカルからなるユニットだが、ふたりは作曲と歌唱を単なる分業に留まらせない。ツミキはみきまりあという類稀なボーカリストのフィルターを通すことで自身のアイデアの翼をさらに自由に羽ばたかせ、みきまりあはツミキが紡ぐ魔法的な美しさを持つメロディを歌いこなすことで自身の歌唱の限界を超えていく。まさにふたりでひとつの熱いユニットだ。

    NOMELON NOLEMONが世の中に届けるのは「ポップス」。そして、それは決して耳馴染みのいいイージーリスニングではなく、ノイズにまみれたサウンドから溢れ出る魂の叫びのような音楽だ。劇場先行版『機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-』挿入歌“ミッドナイト・リフレクション”が話題となり、さらなる飛躍を遂げる今、ふたりが不屈の闘志で切り拓く「ポップス」の未来に迫る。

    インタビュー=畑雄介 撮影=フジイセイヤ(W)


    人間全員がどこか偏ってて、何かしらのノイズを持ってると思ってて、僕はそこを突きたい。そして、それが普遍的に広がったらいいなって(ツミキ)

    ──まずは結成の経緯から伺いたいです。

    ツミキ 元々ボーカロイドを使った音楽をやってたんですけど、アルバム『SAKKAC CRAFT』を出した時に、内省的な音楽より、もうちょっと開けた音楽を作りたいと思って、ボーカリストを探した中でみきまりあに出会って今に至ります。ボーカロイドの時は、自己実現のための音楽という感じだったので、より大衆に向けて普遍的なものを書くというテーマ性の中で、自分が持ってる能力を使って、自分の思い描くものを再現してみたいなって。

    みきまりあ お声がけをいただくまで、私は正直ボーカロイドという文化に疎くて。だからこそ新しい挑戦になるかなと思ったし、もっとレベルアップしたいと思って組みました。ボーカロイドの楽曲って、そもそも人間が歌うように作られてないところが面白いなと。

    ──実際、最初の楽曲“INAZMA”を歌ってみた時、どう思いました?

    みきまりあ 人間が歌う曲じゃないじゃんって(笑)。デモを渡されて、宅録で歌ってみたんですけど、 5〜6時間ぐらい奮闘しても歌えなくて。最初は正解がわからないっていう感じでした。

    ツミキ 僕は歌えると思ってましたよ。

    みきまりあ ええ!(笑)。私がただ歌えてなかっただけじゃん。

    ツミキ 再現性とか譜割がどうかは正直あまり考えてなかったんですけど(笑)、みきまりあの歌声と表現力でこの曲を歌ってほしいという思いで書いたので。


    ──“INAZMA”は、ノイジーなギターサウンドで《歪さを叫ぶことこそが/ロックンロールの正体》という歌詞が歌われる肉体的なアプローチを持つ楽曲ですけど、それは意識されてました?

    ツミキ かなり意識しました。サビのひと回し目の歌詞がオノマトペで構成されていて。ボカロ時代はゴシックな感じの硬めの文体で書いていて、そこに美学を持ってたんですけど、新しくユニットを始めるにあたって、内側から出るような音で表現したいなと思った時に、もはや単語である必要はなくて、擬音で表現できるんじゃないかと。

    ──NOMELON NOLEMONは、“INAZMA”もそうですし、“cocoon”の《きみのためのざつおんが いまなりひびく》や“ルール”の《なにもないよるから始まったノイズ》など、歪(いびつ)さやノイズから音楽が広がる楽曲が印象的です。

    ツミキ 昔から、人間が歪であることを肯定する音楽が好きだったんです。クリーンで清潔な音楽も好きなんですけど、心の奥にグサッと来たのはそういうもので。普遍的なものを書きたいって言いましたけど、僕の音楽を聴く全員が曲を自分ごとにしてほしいという思いがあって。パーソナルにグサッと刺さるものを書きたいとなると、清潔さから離れていく感覚があります。人間全員がどこか偏ってて、何かしらのノイズを持ってると思ってて、僕はそこを突きたい。そして、それが普遍的に広がったらいいなと思ってます。

    ──その歪さを表現するみきまりあさんの声が素晴らしいですよね。切迫感がある声だから、キュートな攻撃性にも振り切れるし、切ない心情の吐露として曲に寄り添うこともできて。

    みきまりあ ああ、嬉しいです。曲をもらった時に感じたことをそのまま歌で表現するのを意識してますけど──どちらかというと演じてる感覚のほうが近くて。1曲1曲で、自分が感じたことを落とし込んで、歌詞の中の登場人物になりきるというか。登場人物の気持ちに自分を寄せにいってます。たとえば自分がすごく落ち込んでる中で、朝をテーマにした明るい曲を歌う時は、実際に朝起きて歌ったり。

    ──「みきまりあ」としてのパーソナルな表現というより、NOMELON NOLEMONの曲を最大限引き立たせる歌い方を意識されてるんですね。

    みきまりあ そうしてたつもりだったんですけど、「もっとまりあ節出して」みたいなのもあったりして(笑)。2枚目のアルバム『ルール』では、演じつつも、自分の節(ぶし)を出すことを大事にしてたかもしれないです。

    “INAZMA”の頃から、曲が来た時に期待を超えたいとは思ってて。自分の中に最低ラインがあって、絶対にそれを超えないとっていう勝負をやってます(みきまりあ)

    ──そもそも楽曲制作はどうやって進行してるんですか?

    ツミキ 基本的には僕がコーラスくらいまで作ったデモをまりあに共有して──。

    みきまりあ それを私が宅録で歌って──。

    ツミキ データ上でやり取りしてという感じです。たまにまりあの歌い方の癖の影響によって、譜割が変わったりするので、そういうフィードバックをもらってもう1回考え直す時間があるんですよね。それによって、その次の展開が変わったり、編曲が変わったりするので、言葉で会話するというより、音楽の中で会話をしながら作ってます。

    ──ということは、歌詞の風景や心情をふたりでディスカッションすることはあまりない?

    みきまりあ あんまりないよね。

    ツミキ 悩んだ時に相談することはあるけど。

    みきまりあ そうだね。「こういう曲調がいいんじゃない?」ってリファレンス楽曲を共有したりはあるけど、歌詞の内容はないかも。あ、でも“どうにかなっちゃいそう!”は、私が「“どうにかなっちゃいそう!”っていうタイトル、めっちゃキャッチーでよくない?」「じゃあそういう曲よろしく」って感じでできた曲でした(笑)。曲の内容というより、枠組みをふたりで話し合うっていう感じですね。

    ツミキ テーマ性がしっかりあるものは事前に共有してるかもしれないです。それこそ“どうにかなっちゃいそう!”は、サビでリフレインをするみたいなことを──。

    みきまりあ ──言ってたっけ?(笑)。あ、サビで「“どうにかなっちゃいそう”ってずっと言ってたらよくない?」っていう?

    ツミキ うん。そんな大喜利をさせられて難しかった。でも、それがすごく楽しかったです。


    ──「枠組み」という言葉も出てきましたけど、NOMELON NOLEMONは『POP』『ルール』というアルバム名からして、概念的だなと。今のポップシーンで音楽をやる意味みたいなものがタイトルから枠組みとして設定されてるように感じますが、それは最初に考える部分なんでしょうか?

    ツミキ 理屈で考えるというより、元々そういう思想なのかもしれないです。僕は岡本太郎が大好きなんですけど、太陽の塔って、元々その上に屋根があったのに岡本太郎が「こうじゃないと意味ないでしょ!」って言って、その屋根をバーンってぶち抜いたんです。そういう思想をポップスで再現したい、屋根をぶち抜きたいなと(笑)。大阪万博は1970年に「人類の進歩と調和」というテーマでやってて、パビリオンにはベータ版の携帯電話みたいなのもある中で、そのテーマとは真逆のアナログ的なことをやってのけた姿勢に僕はすごく感動して。NOMELON NOLEMONでは「ポップスをやってる」って自分では言ってるんですけど、ノイジーなサウンドだから周りのポップスとはひと味違うように感じられる人のほうが多いとは思ってるんです。でも、そうやって逆をやることによって全部がひっくり返る、マイノリティがマジョリティに変わる瞬間を見たいんですよ。

    ──活動を通して、その思想が現実のものになってきているという手応えはありますか?

    ツミキ かなり感じてます。僕の影響とまでは言わないですけど、周りを見てても近い考え方を持ってる人が増えたし。僕のことを好きって言ってくれる後輩だったり、自分の思想が伝播する瞬間を見ることが最近になって増えたので、やってきてよかったなと思いますね。

    ──みきまりあさんは絢香さんやJUDY AND MARYのようなポップスのど真ん中の音楽遍歴を辿られてますよね。

    みきまりあ ポップスを通ってきたという自覚もないんですよね。成人して音楽をたくさん聴くようになってから、「あ、自分ってずっとポップスを聴いてたんだな」って気づいて。歌い始める前は、小学校からずっとダンスをやってて、専門学校に行って、その流れで歌を始めて、ぷらそにかに入って、流れでここに行き着いたというか(笑)。

    ──流れに身を任せてここまで来たのかもしれないですけど、その都度そこで求められていることに的確に応える力やガッツがあるってことですよね。

    みきまりあ ガッツはないですよね?(笑)。

    ツミキ いやいや、あると思いますよ。

    みきまりあ 自分ではガッツとは思わないですけど、“INAZMA”の頃から、曲が来た時に期待を超えたいとは思ってて。歌えなくてめちゃくちゃ悔しくて泣いたりもするんですけど、でも勝ちたいっていう。

    ツミキ めっちゃガッツある(笑)。

    みきまりあ (笑)自分の中に最低ラインがあって、絶対にそれを超えないとっていう勝負をやってます。

    ──特に大変だった曲を挙げるとすると?

    みきまりあ やっぱり“INAZMA”が群を抜いてますね。今はツミキさんの譜割とかメロディラインに結構慣れてきたと自分で思うんですけど、“INAZMA”の時は苦戦しました。そもそも正解はないんですけど、自分の中で「これだ」って思える正解が見当たらないまま、探り探り歌っていった感じだったので。曲がリリースされて、リスナーの方が聴いてくれて、「いい」って言ってくれる方がひとりでもいた時に初めて、自分の中で正解というか「あ、よかったんだ」って思えましたね。

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