永遠のギターアイコンではなく、1人の優しい兄として――ジェイニー・ヘンドリックスが語るジミ・ヘンドリックスの真実、そして受け継がれるロック史最大の功績とは

永遠のギターアイコンではなく、1人の優しい兄として――ジェイニー・ヘンドリックスが語るジミ・ヘンドリックスの真実、そして受け継がれるロック史最大の功績とは - pic by YUYA KITAGAWApic by YUYA KITAGAWA
ジミ・ヘンドリックスがマーシャル社のアンプを使用することになってから今年で60年。今回はそれを記念した特別仕様のコラボアイテムの発売に際し、彼の18歳下の異母妹にあたるジェイニー・ヘンドリックスが来日した。ちなみに彼女の母親の名はアヤコ。その事実からも明らかなように、彼女自身も日本の血を引いており、約30年ぶりの日本訪問についても「故郷に帰ってきたようだ」と語る。現在は、亡き兄の権利を守りながらその功績を後世に語り継ぐべくエクスペリエンス・ヘンドリックスという会社の代表を務めている彼女に、伝説的カリスマの知られざる素顔を語ってもらった。

インタビュー=増田勇一



●お兄様がなくなった当時、あなたはまだ9歳だったそうですね。幼かった頃のあなたの目に、彼はどのように映っていましたか?
「ジミは実際に生きたその人生よりも遥かに大きな存在でした。世間的にはアイコンでありヒーローであり、それも兄の一面ではありますが、家庭内ではまったく違う顔を見せていました。物静かではありましたけど、心を開いてオープンに話してくれる人でしたね。インタビューでは言葉数が少ないことで知られていますし、自分の口元を手で隠しながら受け答えしている姿が映像なんかで残っていますが、あれもシャイな性格ゆえですよね。ただ、それでも彼は、ステージに立ってギターを介してお客さんと通じ合うことができたんです。

ジミはいたずら好きで、いつもみんなにちょっかいを出しては笑いを誘っていましたし、家族で食事する時間もすごく楽しんでいました。母は兄が帰宅する何日も前から料理の準備をして、好物の照り焼きチキン、すき焼き、海老の天ぷらといった豪華な手料理を食卓に並べていました。

ジミはツアー中なども、少なくとも週に1回は電話をくれて逐一報告してくれていたので、家族は彼の近況を把握していました。ただ、たとえば親戚などは、たまたま在宅中の兄に遭遇したりすると興味津々な様子で『どんな有名人と会った?』みたいなことを訊くわけです。そんな時、ジミがジョニ・ミッチェルに会った際のことを話してくれたことがあったんですけど、その時は照れくさそうに『それで、そのあと彼女の頬にキスしたんだ』と、まるで少年みたいに頬を赤らめて言っていて(笑)。とても彼らしい一場面でした。

ジミは本当に少年のような心の持ち主でした。ただ、当時はまだ20代でしたけど、年長者のような洞察力を持っている人でもありました。もちろん私たち身内にとってはただただ朗らかな家族の一員でしたし、庭の芝生に座って、私にデイジーの花でネックレスを作ってくれたり、私の手に絵を描いてくれたり。そうして絵を描いてくれたのは、ツアー中などで留守の間もお互い一緒だから、ということの証しでした。本当に繊細で優しい兄でしたね。

そういえば庭で撮った写真が残っていて、それはジミが空港に向かう直前に撮られたもので、彼は大きな茶色の紙袋を抱えてるんですけど、実はその中身は照り焼きチキンなんです(笑)。機内での食事用に持たせてもらったものを忘れないように、しっかり抱えていたわけです(笑)」

●ジミの18歳下ということは、あなたのお生まれは……?
「1961年ですね!」

●僕も同い年なんですが、僕がロックに目覚めた頃、お兄様はすでに伝説的な存在になっていて、少年期の自分にはやや縁遠く感じられるところがありました。あなたご自身は当時、彼の音楽をどのように?
「同世代とはいえ私の場合は少し特殊で、なにしろ5歳くらいからコンサート通いをしていましたから(笑)。音楽は我が家において日常生活の中心にありました。しかも父には、ジミの曲をかけないラジオ局は二度と聴かないという徹底したポリシーがあったんです(笑)。父が車の中で流すのはジミの音楽ばかりでしたし、それゆえに私たちも常にジミの音楽を聴いていましたね(笑)。

父とジミとのことで、お気に入りのストーリーがあるんですよ。父は庭師として働いていたんですけど、ある家の片付けをしていた時にウクレレを見つけて、それを貰って帰ってきて。というのも、ジミがほうきをギターみたいに構えていたのを目にしたことがあったからなんです。それ以来、ジミはいつもそのウクレレを弾いてたそうです。

その後、父はジミにアコースティックギターを買い与えるんですけど、そのギターもボロボロになるまで弾き倒してしまって(笑)、その後、15歳になる頃にはエレクトリックギターを欲しがるようになった。そこで父は楽器店に行って、ジミにギターを買い、ついでに自分用にサックスを買って、『よし、これから一緒に練習しよう!』と提案したんです。それでブルースの45回転レコードをかけながら、2人で練習するようになったんですが、その後、ジミはバンドを作って、地元界隈のあちこちで演奏するようになり、しばしば遠征もするようになっていました。

そんなある日、ライブの休憩中にステージに放置していたギ兄のターが盗まれてしまうという事件が起きたんです。当時、父は生活的にすごく困窮していたんですが、ジミもそれを知っていたので、ギターを盗まれたことを父にしばらく言い出せずにいたんです。どうにか取り戻せるんじゃないかと期待して。

それでも結局見つからず、ついにジミが父にギターを盗まれたことを告白すると、当時の父はまだギターとサックス両方のローンの支払い中だったんですけど、楽器店に出向いて自分のサックスを売りに出し、そのお金でジミのためにギターを購入したんです。『お前のギターのほうが俺のサックスよりもずっと遠くまで羽ばたけるはずだ』と言ってね。父がどれほどジミを愛していたか、いかに早いうちから彼の才能について確信していたかを物語る話だと思います」

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●現在、あなたはエクスペリエンス・ヘンドリックスの代表者でもあるわけですが、そうした組織を立ち上げようと考えた切っ掛けは?
「今も私のスマホに保存されている大切な写真があって、それはジミがロンドンで成功してから初めてアメリカに戻ってきた時のシアトル公演の楽屋で撮ったものなんです。その時、ジミは私に『この先ずっと、俺がお前の面倒を見てやるからな、お前は何も心配しなくていい』と言い、それに対して『じゃあ、私が大きくなったら、今度は私がお兄ちゃんを守るね』と答えたんです。つまり、それが私たちの約束だったんです。

そして1992年、長年にわたり弁護士を務めてきた人物が私たちの権利をレコード会社に売ろうとしていたことを知り、そこから急遽、新たな弁護士を立てて、その売却を止め、2年がかりで権利を取り戻しました。そこからマーチャンダイズを扱う部門、著作権などを扱う部門を立ち上げ、父と私とで手を取り合いながらジミの権利を守ってきたんです。

実はその一連のやりとりの中で父親が契約書に再度目を通したところ、その大半が当時の弁護士に偽造されていたものだと判明して……つまり父は自らの無知によってジミを裏切ってしまっていたわけです。だからすべてを取り戻した時、何がなんでもジミの音楽、言葉、そしてそこに込められたメッセージを守り抜いていくと心に誓ったんです。彼が音楽を通して人々に伝えようとしていた愛というメッセージはまるで預言者の言葉のように、私たちが生きているこの時代においてもいまだに強く訴えかけ得るものだと思います」

●そのメッセージは、分断化が進んだ今の世の中でこそ必要とされているものなのかもしれませんね。
「完全に同意します(笑)。単に音楽やサウンドとしてだけじゃなくて、歌詞にも深く耳を傾けていった時、確実に開けてくるものがある。しかも受け手によって様々な角度からその人に響くものになっている。私にとって、ジミの音楽はまさに人生のサウンドトラックですね。しかも自分が年齢を重ねるにつれて、 もっと深く、もっと違う形で私に語りかけてくるようになりました。そこにはたくさんの導きがあり、真実が込められています。同時に兄は、自分の信じるもののためには戦わなくてはいけない、という信念の持ち主でもありました。そして、兄にとって戦うための武器とはギターであり、サウンドであり、歌詞だったんです」

●ええ。ところで今回こうした素敵なアイテムが出ることによって、改めてマーシャルの良さに触れる人もいるはずだと思うんです。
「ええ。でも、マーシャルがいかに優れているかについては今さら私から宣伝するまでもないはず(笑)。今回の特別モデルにしても、紫のライト、ジミの衣装をイメージしたベルベットの質感にしろ、とても考え抜かれた逸品になっています。マーシャルは本当に大きく成長しましたし、そのことを私は誇りに思っています」

●最後に、これからジミの音楽に出会う人たちへのメッセージを。
「まずは一言、ありがとうございます (笑)。ジミは、人々に自分の音楽を聴いてもらうことを願っていました。しかも、ただ耳で聴くだけじゃなく、魂で、心で聴いて欲しいというのが兄の願いだったんです。ステージ上で自分が奏でた音楽が観客に届き、観客がそれを耳で受け止めて、心で感じる。それを体験できた時、ようやくジミの音楽の真髄に触れることができるはず。そして、他では味わえないその感覚を是非とも追体験していただきたいですね。できればマーシャルのアンプを通して(笑)」

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