──“海鳴”のミュージックビデオ、モノクロ映像でかっこいい仕上がりでしたね。北 ありがとうございます。2日間に分けて撮ったんですけど、初日は僕だけで。その日は雨が強すぎて──。──映像でも雨に打たれるシーンがありますけど、あれはガチ雨ですか?北 ガチ雨です。死ぬかと思いました(笑)。小舟に乗ってるシーンも、放っとくと漂流しちゃうので、スタッフが一生懸命掴んでくれてました。我々のクリエイティブとは違う部分で、ちゃんと「わかりやすさ」を出すべきだし、王道を行ったほうがいいかなって(中野)
──今作の『SAYOUNARA THEATER』というタイトルにも通じる、ルサンチマンなりのブルージーな空気感が漂ってくる楽曲だと感じました。今作のタイトルというかコンセプトはいつ頃からあったものですか?北 4月5日にリキッドルームでワンマンライブをやって、その次の日に“ルックバックインサッドネス”を先行配信したんですけど。その時点で、“ルックバックインサッドネス”と“さようなら”の2曲ができていて、どっちを先行配信曲にしようかなと思って──この2曲が次の作品に入る感じにはなっていたので。どっちも別れベースの曲ということで、コンセプトのような感じはありましたね。──なるほど。作品トータルのイメージに向かって作っていく、みたいなところもありました?北 そうですね。初めてちゃんと──ミニアルバムだったので、1曲1曲に時間をかけて、余裕を持って進められたので。作り方もバラバラで、歌詞も自分の納得がいくまで作り直せたし。アレンジからミックスまで、今までより根を詰めてできました。1曲ごとにリファレンスも違ったし、違うテイストでミックスもお願いしたし。レコーディングも大変でしたね、結構音を変えたりして。もぎ ドラムも、初めてドラムテックの方に入ってもらって作ったら、本当に全曲音が違いますね。ドラムのフレーズを作る時、これまではいつも「この曲だとこの1ヶ所」みたいなところだけかっちり決めたフレーズにして、他のところはわりと即興でサラッと行っちゃって、ライブでもその場でアレンジ、みたいな感じにしてたんですけど。今回は結構かっちりと、1曲丸々通してフレーズやビートを決めて録りました。“海鳴”は5拍子の曲なんですけど、フレーズで流れるように行ったほうが聴きやすいな、という感じがあったので。全曲頭の中で作って録った、っていうのがドラム的にはだいぶ新しいですね。──“海鳴”は5拍子から6拍子に流れる展開があるし、2ndフルアルバム『一生モノの陽射し』の“曇りのち”も5・5・5・6というリズムが特徴的な曲でした。5拍子はもはや、ルサンチマンにとっては変拍子ではなく、体に染み込んだリズムになりつつあるのかもしれないですね。北 5拍子って、もはや「ルサンチマンっぽさ」ですらあるのかもしれないですね。初めて作った打ち込みの“nihil”っていう曲も5拍子だったし、もはや手癖みたいな(笑)。中野 実は、さっきの話にあった現場の変化みたいなものを、僕はあまり知らなくて(笑)。他のメンバーはスタジオに集まって、その場で楽器を弾いてたんですけど⋯⋯僕だけは家で、パソコンにギターを繋いで、アンプシミュレーターで録った音を送って、みたいなやり方をしているんですよ。ドラムテックをしてくれたなかしーさん(ナカシマタクヤ/さよならポエジー)とは1回も会えてないし(笑)。だから、僕的には今までと近い心持ちで臨んだ部分もありつつ──ミックスに関しては、今までよりミックスエンジニアに密着してやった感じはありましたね。作り方というより、音の方向性に関して言っていった、っていうのが明確な違いですね。──エンジニアの方にどんなリクエストをしたか覚えてます?中野 すごい雑な言い方をすると、「もうちょっと売れ線っぽくならないかな」って(笑)。北 「メジャーっぽく」ね。中野 そうそう。我々って、曲とか演奏の方向性で言ったら、今売れているバンドとはちょっと違うところにいるというか。どっちの要素も持っていきたいと思うんですけど、やっぱりそうじゃない要素が強いバンドだと思うので。ならば、そういう意味で、ミックスとかはわかりやすくするべきだなと思っていて。我々のクリエイティブのところとは違う部分で、ちゃんと「わかりやすさ」を出すようにすべきだし、王道を行ったほうがいいかなって。
──いわゆるバンドっぽい密室感のあるサウンドの魅力ももちろんあるけど、ルサンチマンの歌詞とか楽曲の良さって、サウンドをわかりやすいものにしても損なわれるものではないし。むしろ、ルサンチマンの音楽のアイデンティティが、楽曲そのものの根幹の部分にあるんだっていうことが、音をわかりやすくしたことで伝わりやすくなった側面はありますよね。北 繰り返し聴ける感じの、聴きやすいサウンドにはなってると思うし。ちょっと大人っぽくもあるし。別に、今まで持ってたものは何ひとつ失ってないし。みんな、すごくバランス感覚に優れてるなと思いました、スタッフも含めて。──でも、意外ですね。特にギターのパートとか、全員で対面で作ってるのかと思いきや、シミュレーターで個別に作ってたというのは。中野 そうなんですよ。自分からそうしにいってるんですよ。北 でも結局、そのほうがみんなの精神衛生的にもいいんですよね。僕も結構前から、曲を作る段階でデモをがっつり作ってからスタジオに持っていくようにしたんですけど。その前の、弾き語りのデモを元にしてやってた頃と比べると、編曲にかかる時間が3分の1以下ぐらいになって。スムーズだし、曲のまとまりも段違いによくなったので。使える環境はどんどん使うべきだなって。もぎ 家とか?中野 特に家とか(笑)。デジタル万歳だと思います。北 ライブはやっぱり、4人の息の合い方がすごく大事だと思うんですけど、クリエイティブにおいては、各々が自分のことに一点集中しているほうが、もしかしたら爆発力のあるものができるのかもしれないな、とは思いますね。なんの美化もないので。本当にただ、いいと思ったものをデータで送ってきてもらって、それにOKかNGを出すみたいな、かなり事務的な手続きだし、ミックスもそういう意味では事務手続きというか。「ここの波形見ていいですか?」とか、「4kHzあたりが聴こえにくいんで、突いてみてください」とか。パッションでどうにかなるようなことじゃないけど、研究すればするほどよくなる、っていうのは感じましたね。──ルサンチマンが表現しようとしている感情って、喜! 怒! 哀! 楽!みたいにわかりやすく突き抜けたものではなくて、どうにも整理しようのない気持ちじゃないですか。でも、それを表現するための手法は、どんどん整理されていってるという。北 楽器は楽器で、たぶんみんな別で考えてるところはあると思うんですけど──「完璧じゃない感情を、完璧じゃない演奏でマッチさせよう」とは、メンバー誰も考えてないと思います。完璧な演奏は、マストで必要だし。僕も正直、「もっと完璧に歌いたい」と日々思ってますし、このままでいいとは全然思ってないです。必要なんです、完璧に歌うっていうことが。「味」とかに逃げたくなくて、マジで。「完璧じゃない感情を、完璧じゃない演奏でマッチさせよう」とは、メンバー誰も考えてないと思います。「味」とかに逃げたくない(北)